第2話
悠人は、件数で言うと約100件分、配っていた。
家は密集しているし集合住宅も含まれているので、広範囲ではないけれど、それでも懸命に配って1時間半、天候が悪いと2時間くらいかかっている。
だから、毎朝4時には起きている。
正直、朝は眠くてつらい。
でも自分で決めたこと。自分が変わりたくて決めたこと。
だから弱音を吐くわけにはいかない。
元々、陸上部でとことん鍛えられたこともあり根性はある方だ。と思っている。
3分の2くらい配り終えた頃だろうか、ある家のポストに新聞を投函しようとして、ポストの所にA4サイズの封筒がガムテープで止めてあるのに気付いた。
よく見ると封筒にはマジックで大きく『新聞配達の方へ』と書かれている。
「ん?……俺に?」
不審に思いながらも手に取って周りをキョロキョロして見たが誰もいない。
恐る恐る、封筒を手でちぎって開けて中を見てみると、さらに可愛い封筒が入っていた。
(なんだこりゃ)
と思ったが、とりあえず、自転車のカゴに突っ込んで、配達を先に済ますことにした。
一通り配り終えて自宅に帰ると、ホッと一息する間もなくいったん自分の部屋に入って中にあった封筒を開けてみた。
すると、可愛い便せんに可愛い字でこう書かれていた。
── いつも新聞を届けて下さる配達人さんへ
なんと新聞配達へのお礼の手紙だった。
悠人は、言い知れぬ感動が湧いてきて、思わず涙ぐんでしまった。
悠人が届けた新聞でこんなに喜んで感謝の気持ちを伝えてくれた少女。
── 最後に 新聞配達人さんを陰ながら応援している少女Aより
と結んであった。
(なんだよ!少女Aって!)
悠人は、顔がニヤけてくる自分に動揺しながらも、今までの苦労が報われたようで、心がすっと軽くなり、なんだか力が湧いてくるようだった。
(ん?、でも俺の事おじさんだと思ってるのか?)
(俺、高校1年生だぞ)
(もうおじさんなのか?)
(まぁ、いいや!それでいいや!)
(とりあえず俺もおじさんになり切ってこの少女Aちゃんに返事を書こうじゃないか!)
奇遇にも、その日はバレンタインデーだった。
今まで女の子に縁のなかった悠人は、これは神様からのご褒美だと思って喜んだ。
顔も名前も年齢もわからないけど少女Aちゃんからのラブレターだ!
そんな勘違い野郎の悠人は、ガッツポーズで舞い上がっていた。
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