第9話 

 放送部の活動も段々慣れてきたある日、放送室に行くと副部長が

「落し物があるんだけど、校内放送してみない?」

と彩に声をかけてきた。

以前から先輩たちの放送は耳にしていたが彩はまだ放送したことがなく躊躇っていた。


(なんかマイクを前にしたら緊張しちゃうんだよね)


美玖は以前「私、やります」と言って放送した事があり、そつなくこなしていた。

美玖は何でも積極的に行動してすぐにこなしてしまう。


 部長が眼鏡の奥から優しいまなざしで

「大丈夫、松本さんなら出来るよ」とポンと軽く肩を叩いた。


(あぁ~、大丈夫じゃないです。部長、部長のその目、その手、もうダメです。心臓バクバクですぅ)


そう、推しの『大和様』に似た部長に声を掛けられた彩は舞い上がってしまった。

しかし、みんなが早く放送してって顔で見てくるのでここはやるしかない。


落し物はピンクの花柄のハンカチでY・Kとイニシャルが入っていた。

彩は深呼吸をしてスタンバイ。


――――ピンポンパンポーン――――


「全校生徒の皆様にお知らせします。Y・Kとイニシャル入りのピンクの……」とまで言って詰まってしまった。頭が真っ白になり次の言葉が出てこない。


そこにすかさず副部長が「花柄のハンカチの落し物がありました。お心当たりの人は放送室まで取りに来て下さい。繰り返しお知らせします。Y・Kとイニシャル入りのピンクの花柄のハンカチの落し物がありました。お心当たりの人は放送室まで取りに来て下さい」と続けてくれた。


(あちゃぁ~~、やっちゃった。)

「由紀先輩、すみません。ありがとうございます」彩は泣きそうになった。


「彩ちゃん、こんなの気にすることないよ。よくあることだから」と副部長。


「俺なんか、途中で分かりませんって言ったことがあるぜ」と悠人。


みんなが口々に慰めてくれるけど彩は消えてしまいたかった。

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