第1話の2
一気に乗り入れる。既に自転車置き場はガラガラどころか、自転車は全くない。別の学年のとこに、少しあるかな?というレベルだ。
急いで校舎に入る。校舎内は薄暗く、なんとなく不気味に見えるのはゲームのやりすぎか。
キーホルダーの懐中電灯を灯す。流石に教室はしまっているだろうから、職員室に行かなきゃならない。
普通棟の1階廊下を突っ切って、東階段を登る。そこから渡り廊下を通って、特別棟2階にある職員室へと行く。
ノックを3回。
「失礼します。1年4組の文月柚香です。教室の鍵を借りに来ました」
「ん?文月か。どうした?忘れ物?」
扉から最も近い所に座っている、担任の
「はい……英語のワーク忘れちゃって」
「おお……時間も遅いから、早めにな?」
「はーい。失礼しました」
鍵を受け取って、普通棟4階の教室に向かう。
すれ違う人なんかもちろん居なくて、なんとなく、この前見たホラーゲームの実況を思い出していた。
「あったあった」
ワークは教室の中にあった。リュックの中に英語のワークを入れて、チャックを閉める。
さて、鍵を戻して帰ろうと思った時だった。廊下で足音がした。
警備員さんとか先生かな?と思ったものの、それにしては足音がゆっくりだ。嫌な予感がして、そっと息を潜めてしゃがむ。足音は少しすると通り過ぎて行った。
おかしい。先生や警備員さんなら、多分開いている扉を見て声をかけてくるはずだし、何かしら灯りを持っているはず。
窓から影は見えたけど、灯りがついている様子はなかった。
「……早く帰ろ」
なんとなく、私は足音を消して職員室へと向かった。
……のだけど。
「失礼しま……?」
職員室の扉を開けると、誰もいなかった。確かにさっきもかなり人は少なくなっていたけど、一切居ないわけじゃなかった。
帰っちゃったのかな?とは思ったものの、それは無い。少なくとも、私が鍵を借りていっているのだから、1人はいないと施錠が出来ない。
まさか集団トイレ?まっさかー。
でも、私も帰らなきゃいけない。仕方がないので、少し中に入って鍵を掛けてから、職員室を後にした。
振り返った廊下が、何だかやけに不気味に暗く見えた。だから早足で、靴箱へと向かう。
特別棟の階段を駆け下りて、1階の渡り廊下を通って靴箱に。靴を履き替えて、扉を開こうとする。開かない。
「あれ?……間違えて閉められちゃった?」
ガチャガチャとしても、開かない。開けるためのものは、確か職員室にあったはず。職員室、誰もいなかったけど、もしかしたらそろそろ人が戻っているかもしれない。
「もう一回行こう」
言い聞かせるように、もう一度靴を履き替えた。
1番近くの、普通棟の階段へ足を向け、歩き出す。
手摺に手をかけて、十数歩登った、その時だった。突然、背筋がゾワリとした。
ヒタ、ヒタ、ヒタ、と背後から音がする。足音とだが、プールを上がった後に歩いているような、濡れた足音だった。
振り向くな、とどこかから声がした。それが自身の脳内からの警告だということに気付くことはできず、私はゆっくりと振り返ってしまった。
『縺薙s縺ー繧薙??』
「ヒッ……!」
そこには、全身がびしょ濡れの、夏服姿のヒトガタがいた。手先は青紫でぶよぶよになっていて、長い髪のある頭は変な方向に曲がって肥大化している。辛うじて、足だけは綺麗なままだった。
目玉は片方がぶよぶよに飛び出している。そんな姿なのに、臭いとかはしない。
『譁ー蜈・逕滂シ溯ソキ縺」縺溘??溘%縺」縺。縺翫>縺ァ』
「ッ!」
ガラガラとうがいするような音を含んだ声があまりにも耳障りで、怖くて、私は逃げ出した。
階段を駆け上がり、渡り廊下を走り抜ける。ちらりと後ろを見れば、ソレは追いかけてきていた。
速くはないが、遅くもない。徒競走で後ろから数えた方が早い私の方が、若干速いらしい。
特別棟を駆け上がる。階段をうまく登れないと思っていたけど、速さはあんまり変わらない。多分、足が綺麗だからだろう。
特別棟の4階まで来て、これ以上、上がないことをふと思い出すと、廊下の方へ思いっきり走る。屋上はいつも開いていない。むしろ、階段は封鎖されている。
『縺薙▲縺。縺?繧医%縺」縺。縺?繧』
ソレはまだ追ってくる。少しずつ離してはいるが、撒くには少し足りない。
音楽室の前を通った時だった。
「あ!」
足がもつれて、転んでしまった。思いっきり滑る。
ソレは「しめた」とばかりに、ゆっくりと近付いてくる。
(早く立ち上がらなきゃ……!)
そう思って立ち上がろうにも、上手く力が入らない。人間、慌てすぎると簡単なことも出来なくなるとこんなところで知りたくなかった。
『縺薙s縺ォ縺。縺ッ縺薙s縺ォ縺。縺ッ縺薙s縺ォ縺。縺ッ?!』
「嫌っ……!」
ソレは、腕らしきものを伸ばしてきた。もうダメだ、死にたくない!そう考えながらも、私は衝撃と苦しさを覚悟し、固く目を瞑った。
パン!と、大きな音が鳴った。嫌だ、もうダメなのか、そう思っていても衝撃も苦しみも来ることは無かった。
「……あれ?」
恐る恐る目を開けると、私とソレの間に人影が立っていた。
あまり体格は大きくないその人影は、ソレに銃のようなものを向けていた。ソレは、大きな頭を爆ぜさせながら、バランスが崩れたのか体が後ろに向かって倒れていった。
呆然とする私に、人影は振り向いて手を差し伸べてきた。
「おい、逃げるぞ」
人影の────少年の紫色をした目の中に見えた蛇のような瞳孔が、私を真っ直ぐに捉えている。蛇に睨まれた蛙のように、私は動けなかった。
「えっと……」
「いいから、早く!」
「う、うん!」
少年の声に我に返り、私は差し出された手を取った。少年は私の手をしっかり掴むと、手にした銃のようなものをもう一度ソレに向けて発砲する。
そして、少年は私の手を引いて駆け出した。
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