絶望の彰人

第61話愛刀天花の訪問

 

 亜梨沙姉ちゃんの葬儀が終わったのか、家族全員の声が玄関から聞こえてきた。どうやら帰ってきたらしい、家族が亜梨沙姉ちゃんの葬儀の中俺だけは亜梨沙姉ちゃんの葬儀にも出席せずに部屋で泣いて叫んで暴れていた。


 亜梨沙姉ちゃんの葬儀が終わってから、いつの間にか一ヶ月経ち学校にも行かず部屋に引きこもっていた。久遠が毎日部屋の扉から声をかけてくるが無視していた。だが人間は腹が減るもので、久遠が毎日扉から声をかけてくる時に食事を扉前に置いて行ってくれてるので、それを食べる。


 ふと近くに置いてあったスマミフォンに着信が入る。着信相手は愛刀天花であった。


「もしもし……」


「あ、彰人君久しぶり。……えっと今外出て来られるかな?……少し話したくて」


「すみません今は外に出る気ないので、話なら電話で済ませられないですか」


「えーじゃあ今窓開けて確かめて。彰人君の家の前にいるから」


 言われて窓のカーテンを少し開けて愛刀天花は上に顔を向けて微笑んで手を横に小さく振る。


「彰人君の部屋に来るの本当に久しぶりだね、えっと前に来たのは中間テストの勉強会だから二、三ヶ月前くらいだね」


 愛刀天花は部屋の事は何も言わず、ただ見回すだけで留めていた。


「えっと……それで話って言うのは」


 正直部屋に招くつもりなかったのだが、入れないと愛刀天花が城田彰人と付き合ってると大声で近所に言いふらすと脅されたので、仕方なく部屋に招き入れた。


「あー……うんまぁ彰人君だけには話しておくんだけどね、私達アイセブンね解散する事になったんだ。ほらあんな事があったからね……」


 愛刀天花はベッドに腰を掛ける。別にこれは愛刀天花が勝手に腰掛けた訳ではなく、俺の部屋自体が暴れたせいで散らかっているのでそこしか座る所しかなかったのだ。


「そうなんですか、まぁ仕方ないですよね」


「うん、それで他のメンバー達もまだ学生だからね学業の方を優先する人や、他の事務所に移籍して芸能活動を続けていくメンバーもいるって話は聞いてるんだ」


「天花さんは解散したらどうする予定ですか」


「私は……うん、芸能界から完全に引退しよって考えてる。今はまだ女優としてドラマの撮影が少し残ってるけど、それが終わったら普通の女子高生だね」


「何か理由でもあるんですか」


「理由はまぁあるね、でも今は話してもきっと迷惑だと思うから話さないでおくよ。私の話はこれでお終いね、それでさ彰人君ずっと学校来てないみたいだね」


「天花さんも久遠や両親みたいに、外に出ろって言いたいんですか」


「私は強制したりしないよ、ただ亜梨沙なら今の彰人君を見たら悲しんじゃうんじゃないかな」


「亜梨沙姉ちゃんの話は止めてください……!!」


 愛刀天花は悪気がなくて言ったようだが、耳を塞いで壁にもたれかけて聞こえないようにする。亜梨沙姉ちゃんが死んでから一ヶ月経っても俺は立ち直れずにいた。寝ても毎日のように、亜梨沙姉ちゃんが夢に出てくるのだ。だが夢の亜梨沙姉ちゃんは一言も話さずに、ただ笑顔を見せてくるだけで俺が何を言っても無駄なのだ。


「ごめんね彰人君、悪気はなかったんだけど。これだけ渡して私は帰るよ」


「これは」


「亜梨沙のロッカーを整理してたら出てきたんだ。多分彰人君と亜梨沙の大切な思い出だと思ったから」


 愛刀天花から受け取ったのは一枚の写真だった。裏返すと小さい頃の俺と亜梨沙姉ちゃんが二人で手を繋ぎ写っていた。確かこの写真を撮ったのは小学生の時だったか、親戚達と遊園地に遊びに行く事になった時に、亜梨沙姉ちゃんからツーショットを撮りたいと言われ、仕方なく撮った写真だった気がする。写真の俺は不貞腐れた顔をして亜梨沙姉ちゃんは微笑んだ顔をしている。


「ありがとうございます」


 写真を大切に扱って愛刀天花にお礼を言う、愛刀天花はすぐに部屋から出ていき帰って行った、窓のカーテンから覗いていたが、俺が覗いているのを知っているみたいに、たまにこっちに振り返ってくる。


「にいにただいま」


 夕方になり久遠が帰ってきて扉前で声をかけてきた。ここ一ヶ月は食事を持ってくる時以外声をかけてこなかったのだが、何かあったのだろうか。


「家の中、誰か他の女の香水のような匂いがするんだけど。もしかして誰か家に入ってきた……?」


「……」


 久遠の質問に俺は答える事が出来ない、久遠は何も言わず扉から離れていき、階段を下りていく音が聞こえてくる。


「にいに今日の晩御飯ここ置いておくね」


 数時間後久遠が食事を運んできた、時間を見計らって家族全員が寝る夜中に扉を少し開けて久遠が運んできた食事を取ろうとした……が目の前に見慣れないブーツが、上に目をやると、どこかで見た事がある金髪で軍服を着た女性がそこに立っていた。


「城田彰人だな」


 相手は俺の事を知っている。何も答えずにいるといきなり襲いかかってきた。受け身を取るのがおくれ、床に叩きつけられ、軍服の女が馬乗りになる。


「大声は出すな、私はお嬢様の命を受けてここにいる。一緒に来てもらおうか、まぁ抵抗しても多少痛い目を見て強引にでも連れていくが」


 抵抗せず言う事を聞く、軍服の女に立たされ、そのまま連れられ家の外に出る。そして家の外には御嬢瑞希がリムジンの前に立っていた。


「サラ、彰人様を解放しなさい」


「ですがお嬢様この男何をしでかすか分かりませんよ」


「いいから解放しなさいって言ってるの」


 御嬢瑞希は後ろにいる軍服の女と話す。どうやら軍服の女の名前はサラと言うらしい、解放されて体が自由になる。


「こんな事してすみません彰人様、ですが久遠様が彰人様の事をずっと心配しているご様子だったので、強引な手段を取らせてもらいました」


「俺に何かようなのか」


「貴様……!! お嬢様になんて口の聞き方を」


「サラいいから。彰人様ご迷惑かもしれませんがこれから少しの間私の家で暮らしませんか? 彰人様のご両親には承諾してもらっているので、ご心配なさらないでください」


 怒鳴ってくるサラという女、だが御嬢瑞希がすぐに止める。


「お嬢様こんな男の答えなんて聞かず、私に任せてもらえれば簡単に連れ去れますよ」


「サラは黙ってなさい私は彰人様に聞いてるんだから」

「それで彰人様どうですか、私の提案は……?もし時間が欲しいと言うなら、またご連絡くださればすぐに迎えを寄越しますが」


「だったら少しだけお世話になろうかな」


 このままずっと部屋に引きこもっていても家族に心配されるだけだ。だったら御嬢瑞希の提案を受け入れて少し家族から距離を取ろうと考えた。


「それでしたら彰人様どうぞお乗り下さい」


 御嬢瑞希自身がリムジンのドアを開ける。リムジンに乗り込み、御嬢瑞希が隣に座ってきてその隣にサラという女が座る。


「本邸まで戻って頂戴」


 御嬢瑞希が運転手に声をかけるとリムジンは走り出す走るリムジンの窓を覗き込むと家がだんだん見えなくなっていく。

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