第34話椎名胡桃の過去彰人との出会い
小学生の頃この町に引っ越して来た、理由は単に両親の離婚が原因だった。
私とお姉ちゃんはお母さんに連れられこの町にやってきた。
まだ慣れてなく、前の町の小学校の友達と別れた事と両親の離婚に加えて学校で友達が出来ない事で泣いて歩いていると、公園に一人の男の子がいた。
その子も一人らしく、私は公園に立ち寄って砂場で遊ぶ男の子に声をかけようとしたが、邪魔が入った、咄嗟に木陰に隠れる。
見れば中学生くらいの女子二人が男の子に近付いていた。
「彰人、そろそろ帰るよ」
「うん、冬華姉ちゃん」
「こんにちは……彰人君」
「誰……?」
男の子は一人の女子の背中に隠れる。
ーー可愛いーー
私は一目見てそう思ってしまった。
「私は天神舞亜、彰人君のお姉ちゃんの友達だよ」
「ちょっと舞亜……!!、彰人が震えてるでしょ、会いたいって言うから紹介したのに」
「ごめんね、怖がらせる気はなかったんだよ」
男の子のお姉ちゃんと思われる女性からは安心するような人を惹きつける気配がする。
……だがもう一方の女性からは微笑んでいたが危険な気配がした。
「それじゃあ彰人帰ろっか」
「うん、冬華姉ちゃん」
その日私は木陰でその三人が帰るのを目撃するだけで終わってしまった。
ただ次の日もその公園に行くと、男の子は昨日とは違って別の女の子と遊んでいた。
背は私よりも少し小さいので、小学生になったばかりかなる前の子だろう、もしかしたら私と同じ学年かもしれない。
「お兄ちゃん待ってよ!!」
「あはは……久遠が鬼なのに待つ訳ないだろ」
楽しそうに笑う男の子、私は昨日と一緒で木陰からそれを見ていた。
「お兄ちゃん、そろそろ帰ろ……?お母さんやお姉ちゃんが心配しちゃうよ」
「あーうん、でも待っててくれ久遠。ちょっと気になる事がある」
男の子が木陰に隠れていた私を見つけた。
「君、こんな所に隠れて何してるの?」
「お兄ちゃん、この子と知り合いなの」
女の子にまで見られてしまった。
「知り合いじゃないけど。ずっとここに隠れて俺達の方を見てたよね」
「……私は」
「彰人、久遠、もう遅いし帰るよ」
「お姉ちゃん!!」
女の子は昨日現れた中学生女子に呼ばれすぐに駆け寄って行く、だが男の子は駆けよらずにじっと私を見る。
「俺城田彰人、この公園には毎日遊びに来てるから、今度から木陰に隠れてないで、一緒に遊ぼうぜ」
握手しようと手を出してきた。
だけど私はその手を握り返さずに黙って走り公園から立ち去って行ってしまった。
「昨日はごめんなさい、黙って立ち去ってしまって」
「いいよ、いいよ。冬華姉ちゃんにも彰人は女心が分かってないって怒られちゃったからさ」
翌日再度公園に訪れ、男の子が一人ゲームで遊んでいた所を見つけて、昨日の事を謝った。
「それで君の名前は」
「私の名前は胡桃、椎名胡桃」
「椎名胡桃、難しい名前だな」
「前の学校の友達にも言われた」
「前の学校って引っ越してきたのか」
「うん最近……でも今の学校に転校してきてからまだ一人も友達になってなくて」
「だったら俺が友達になってやるよ」
「本当……!!」
私は引っ越してきて以来初めて嬉しくなった。
前の学校でも男の子の友達は数人いたが、この男の子にみたいに嬉しい気持ちになんてならなかった。
「あれ、そういえば最近下の学年に転校してきた女子がいるって噂になってたけど。もしかして君なのかな?」
「私が転校してきたのは橘花小学校だけど」
「やっぱそうだよ。同じ学校だ」
「……あっ」
「ごめん勢いで手握っちゃった」
確かに手を握られたのは驚きだったが、なんだろうこの気持ち。
胸の心臓がずっとドキドキと鳴っていて顔まで熱くなってくる。
「……っ!!」
「そうだ今日は久遠と遊ぶ約束だったけど、いきなりあいつ他の奴と遊ぶとか言ってきてさ。もし暇なら一緒に遊ばない」
「……わ……私でいいなら」
「じゃあさこれ」
そう言って手渡してきたのはよくお姉ちゃんが遊んでいる携帯ゲーム機であった。
「対戦格闘ゲームって言うんだけどさ。やった事ある?」
「二、三回程なら」
こういう系は全部お姉ちゃんがやっていたのを見ていたが私は全然やった事などなかった。
「それならゲームにチュートリアルあるし、それやった後に対戦してみようか」
それからゲームのチュートリアルの説明を聞きながら操作をして、何とか簡単なコンボなら打ち込めるようになった。
「じゃあ慣れてきた所で対戦しようか」
男の子は持っていた鞄からもう一つ携帯ゲーム機を取り出した、その後何度か対戦してみたものの私は男の子に一度も勝つことができなかった。
「……もう一戦」
「彰人」
もう一戦しようと思ったが、私達が座っていたベンチに一昨日、昨日と現れた中学生女子が名前を呼び駆け寄ってきた。
「もう全然帰って来ないから心配したじゃない」
「あれもうこんな暗くなってたのか」
全然気付かなかったが、もう公園内は街灯の電気が点いて辺りは暗くなっていた。
「隣の子は彰人の友達かな?」
「うん、昨日の女の子と友達になったんだ」
「そう、でももう夜遅くになるし早く帰らないと。送って行ってあげるわよ」
「ありがとうございます」
男の子のお姉さんに家まで送ってもらった。
また明日遊ぼうと約束してその日は別れたが、私にとって嬉しい事があった一日であった。
「……城田彰人君」
昨日知った男の子の名前を私は忘れないように呟く、だが変だ名前を呟くだけで私の体は熱くなる。
この気持ちはなんなんだろう?
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