第32話告白の返事、天神舞亜の謎
ファミレスで昼飯を食べ終わり、ドリンクバーの飲み物を飲みながら椎名胡桃と会話していた。
「センパイそろそろ時間なんで行きましょうか」
「まだだいぶLIVEまでは時間あると思うけど」
「ギリギリに行くと混んじゃうんですよ。それよりも前にだいたい皆列を作って並んだりして待ってるんですよ」
「色々あるんだな」
ファミレスを出た直後景色がさっきとはうって変わり、京ドラドームの方向には多くの男性が円陣を作っていた。
「いいか今日は心愛ちゃんのソロパートに完全に合わせるように作った新作の芸を試すぞ」
おぉーと雄叫びをあげる男性陣、正直これを見ると引いてしまう。
他にも法被を着て頭にILOVE亜梨沙のハチマキを巻く男性が円陣を組むのを発見。
こう言っちゃなんだが豚の着ぐるみを着る変質者まで見つけてしまった。
「これって警察に通報した方がいいんじゃ」
「センパイ早まり過ぎです」
スマミフォンの通話ボタンで110番を押そうとしたが椎名胡桃に止められる。
「いやでもさすがに豚の着ぐるみはないだろ」
「聞いた事があります、アイセブンには豚の着ぐるみを着たマスコットがいるって。きっとそれですよ」
「ハァハァ……愛美様今日はどんな風に罵られるか楽しみです」
「……あれは通報した方がいいですね」
椎名胡桃さえも認める変質者、だが声からしてあれは女性なのか、普通に男だと思っていた。
冗談はこの辺にして、夕方頃になりLIVE会場の入場が始まった。
だが俺と椎名胡桃はチケットを見せると関係者入口から通される。
着いた場所はプロ野球で選手達が試合をするグラウンド、今日はグラウンドの一部にステージが作られている。
そして俺と椎名胡桃は一番前の席に座る。
「最前列とは聞いていましたが。まさか一番前の席とは」
この席ならLIVE中のアイセブンメンバーの全員が見れる席だろう、数十分後アイセブンのLIVEが始まる。
「みなさーん今日は来てくれてありがとね」
LIVEも終盤に差し掛かった頃、愛刀天花が会場に手を振り笑顔を向ける。
それはステージのあるモニターにも映し出される。
「そして私から一つお知らせがあるんだ」
会場がざわつく、LIVE中にあるお知らせはファンにとって嬉しいお知らせと嬉しくないお知らせの二つがある。
「実はずっと隠してたんだけど、私には好きな人がいます。その人は今日このLIVE会場に来て私達のLIVEを見に来てます」
まさか愛刀天花が言っているのは俺の事か、いやでも林間学校の時に愛刀天花の告白を断っている、別に好きになった男子がいるのか。
「私が好きになったのは城田彰人君です」
会場が一斉にざわついた、アイセブンのメンバーも何人か驚く者がいたので予定にはなかったのたわろう。
その際俺も驚く、まさかまだ俺の事が好きだとは思っていなかったのだ。
「そして私は前に城田彰人君に告白して振られました、でも私は彼の事を諦めません、だって彼の事が好きだから」
胸に手を当て答える愛刀天花。
「LIVE中にごめんなさい、どうしても来てくれたファンの方には伝えたくて。それじゃあ今日最後の曲聞いてください」
そして最後の曲が終わり、LIVEは幕を閉じた、俺と椎名胡桃は電車に揺られて地元へと戻ってきた。
「アイセブンのLIVE凄かったですね」
「そうだな、驚く事もあったし」
椎名胡桃と初めて会った駅前のゲーセンを通り過ぎようとしてた所、椎名胡桃はシャッターが閉まったゲーセンの前で立ち止まる。
「センパイ、そろそろ聞かせてください……私の告白の返事」
「椎名、本当に答えていいのか……?」
「はい、センパイ聞かせてください」
「そうか。それじゃあ椎名……俺と付き合ってくれ」
「へっ!?」
「どうした?」
「だって今の完全に振られるつもりの台詞だったから」
「ずっと考えてたが、今の俺があるのはお前のおかげだし、それに俺はお前といると振り回されるがそれでも楽しいと思える。だけど俺と付き合って後悔するなよ」
「しません、後悔なんて絶対しません」
椎名胡桃は涙を流し勢いよく抱き着いてきた。
「そんな急に抱き着いてくるな、離れろ」
「離しません、それにセンパイ折角出来た彼女になんて事を言うんですか」
「許さない、彰人君と付き合うなんて許さない、彰人君は私のなのに」
電柱から黒のパーカーでフードで顔を隠す人物が二人を目撃する、その手に握られていたのは包丁だった。
「もう遅いし帰るぞ」
「そうですね、もしかしてセンパイ送ってくれるんですか」
「そりゃこんな暗い中一人で帰らせる訳にはいかないからな」
街灯はあれど、既に外は暗く彼女をこのまま一人で帰らせる程俺は最低じゃない。
「センパイ」
「なんだよ」
「私嬉しいです、センパイと付き合える事になって、生きてきた中で一番幸せな時間です」
腕を組む椎名胡桃は笑顔を見せてくる。
「なぁ椎名一つ聞いていいか」
「すんすん、なんですかセンパイ」
こいつ急に匂いまで嗅いできてやがる。
「俺が病院に入院してる時、お前封筒置き忘れなかったか」
「封筒……私そんな物置き忘れた記憶ありませんよ」
「そうかそれならいいんだ」
あの封筒を置き忘れたのが椎名胡桃じゃないのなら、一体誰のだったんだ、記憶を遡り、あの日病室にいたのは久遠…俺…両親…天神舞亜。
俺と両親はありえないとして、久遠か天神舞亜の二人に絞られるが。
あの時は久遠は気持ち悪いから捨てろと言っていたので省くと封筒を持ってきた天神舞亜が犯人なのか。
「あの封筒の中身は舞亜さんの物だった?」
「センパイ……? 何か考え事ですか」
だけどおかしい俺は最近になって天神舞亜と再会したのに、俺がゲーセンにいる所をどうやって写真に撮ったんだ?
それに今日偶然にも天神舞亜は俺と椎名胡桃がデートしていた場所に現れた。
「本当に偶然なのか……?」
「センパイ…センパイ!!」
考え事をしていたせいで、椎名胡桃に呼ばれている事に気付かなかった。
肩を揺らされやっと気付く事ができた。
「悪い、少し考え事をしてた」
「もう周りをみないと危ないですよ、一体何を考えてたんですか、あ……!! もしかして私といやらしい事をするのを考えてたとか……」
椎名胡桃は閃いたように掌に拳を置く。
「んな訳あるか、舞亜さんについてだよ。さっきお前に聞いただろ封筒の事」
「はい、そうですね」
「それがな、その封筒の中身には手紙と俺がゲーセンで遊ぶ写真が入ってたんだ。で、手紙には上から下の欄までびっしりと好きって文字が書かれてたんだ」
「もしかしてそれを私が置き忘れたとセンパイは思った訳ですか」
「そりゃあの日見舞いに来たのはお前一人だったしな、だけど考えれば意外におかしかったんだよ。家に帰る前に病室を一通り見て忘れ物とか無かったと思ってたが、舞亜さんは病室に置き忘れ物と言って届けに来た」
「だけど私はそんな物置き忘れてないと言った」
「俺と両親はありえないと考えて残りは久遠か封筒を持ってきた舞亜さんなんだが、久遠は舞亜さんが持ってきた封筒の中身を見て気持ち悪いから捨てろと言ってきたんだ」
「それじゃあ犯人は天神舞亜で確定ですね。それでセンパイその時の封筒は今どこにあるんですか」
「俺は持ってない、その時舞亜さんさんが処分しとくって言ってたから」
「それに正直分からない事が二つぐらいある。なんで舞亜さんは俺の事が好きなんだ? それに俺は最近まで舞亜さんとは会ってなかったのに、なんで舞亜さんは俺がゲーセンで遊ぶ写真を持ってるんだ」
「実はセンパイに黙ってた事があるんですけど。私と天神舞亜今日初めて会ったんじゃなくてずっと前に会ってるんですよ」
「それって一体どういう意味だ」
「センパイ明日放課後予定とかありますか」
「いや、明日の放課後は別に何もないけど」
「それじゃあ明日の放課後私の家に来てください、センパイに教える事がありますから」
「それは舞亜さんについてか?」
「はい、多分私ならセンパイが疑問に思っている事に答えられますから」
「それなら今話してもよくないか、それ程時間がかかる話なのか」
「そうですね、今から話すと大分時間がかかちゃうんで、それに必要な物も揃えないといけないので」
「そうなのか、だったらしょうがない」
「はい、センパイ今日はありがとうございました。センパイとのデートは楽しかったし付き合える事になって本当に良かったです」
椎名胡桃は玄関の前から頭を下げた。
「俺もまた誰かと付き合えるようになるとは思ってなかったが。これからよろしく頼むよ」
「はい、よろしくお願いします、センパイおやすみなさい」
椎名胡桃は抱き着き突然キスをしてきた、彼氏彼女となったいま驚く事はあれど、前とは違いキスされた事は非常に嬉しい。
「おま、女子としてどうなんだそれは、前も突然キスしてきたし」
「好きな人にキスするのは当然の事でしょう、今度はセンパイからお願いしますよ。私ばっかりキスするのは不公平ですから」
椎名胡桃は舌を出し、その顔はいたずら好きが成功したような顔を思い浮かべる。
椎名胡桃はゆっくりと玄関の扉を開け家に入っていく、俺も急いで家に帰る為、帰り道を走っていく。
「あーきーとーくーん」
走って帰る為途中目の前に包丁を持った黒のパーカーで顔を隠した人物と遭遇した、声をからして女性だろうか、だが誰かの声にそっくりだった。
「ずーーーーーーっと見てたよ。彼女ができたらしいね」
「一体誰ですか? そんな物騒な物を持って」
本能的に正面に構える。
「彰人君には手出ししないから安心して。でもあの女と別れないと、私何するか分からないから、今日はそれを伝えにきただけ」
そのまま別の道から走り去っていく、このまま深追いしても危険だろうと判断して追いはしなかった。
一応スマミフォンで父さんに連絡して車で迎えに来てもらい、家に着くことができた。
包丁を持った人物と会った事は父さんには話さなかったが、彼女が出来た事だけは伝えた。
「母さん、母さん!! 彰人に彼女が出来たって」
「それは嬉しいわね、相手は誰なの?」
「ほら、この前家に来たあの愛想がよさそうな子だよ」
「あの子ね、毎日彰人の見舞いにも来てくれてたみたいだし、今度何かお礼しないと。彰人暇な時でいいから家に連れてきなさい」
「はい、はい分かったよ」
このまま風呂に入って寝ようと思って、風呂場に行こうとした所、リビングにいた久遠に服の裾を掴まれる。
「どうしたんだよ久遠?」
「にいに一緒にお風呂入ろ」
「この前一緒に入っただろ」
「月に二回は入る約束だよ、もしかしてにいには約束を破るの」
「いやでもお前、もう風呂に入って夕飯食べたんじゃないのか」
もう夜も遅いいつもなら、夕飯も風呂も終わってる筈だ、久遠を見ると、髪を乾かした形跡もある。
「いいから入るよにいに」
久遠に風呂場まで連行される。
「にいに早く服脱いで」
仕方なく久遠の言う事を聞き、服を脱ぐ、そのまま風呂場から湯船に浸かるまで久遠は一切言葉を話さなかった。
「にいにずっと黙ってたけど、私にいにの事が好き」
「兄妹としてだろ、それなら知ってるよ」
「違うよ異性としてにいにの事が好き」
久遠は湯船に浸かってる途中、俺の前に向いてくると抱き着いてきた。
「久遠俺とお前は兄妹だ分かってるだろ」
論するように久遠に伝える。
「知ってるでもこの気持ちは本物だってにいにに知ってほしくて」
久遠は泣きじゃくる子供のように俺の胸で泣く。
「悪い久遠お前の気持ちには応えられない」
泣きじゃくる久遠を半ば強引に離して、湯船から上がる。
「にいに…にいに…にいに…」
そのまま風呂場から出てタオルで体を拭き部屋着に着替えて部屋に入り、ベッドに横になる。
今日は一日ずっと外にいたので疲れたのか、すぐに眠りについた。
「全部あの女のせいだ、あの女がにいに近付いてきたのがいけない、にいにはきっとあの女に騙されてる」
「大丈夫だよにいに。きっとすぐに、にいにはあの女と別れる事になるから、お姉ちゃんと同じように」
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