第30話デート中天神舞亜と偶然出会う

 

 水族館の中は暗く、水槽付近には水族館に来ていたカップルや家族連れが、窓に手をつき、泳ぐ魚を間近で見ていた。


「センパイこっち……サメ!! サメが泳いでます」


 椎名胡桃は別の水槽に泳ぐサメを見つけ興奮していた。


「お前ってサメ好きなのか?」


「そうですねサメよりもシャチの方が好きですけどね、ほらシャチってサメよりも可愛いじゃないですか」


「そんな理由で好きなのか」


 たしかにサメの見た目よりもシャチの見た目の方が可愛い所はある。


「ご来場中のお客様にお知らせ致します、本日予定している、イルカショーはもうすぐ開演いたします。人数制限もありますのでお早めにお越しくださいませ」


「センパイ、イルカショーですって!!行きましょ」


「だから引っ張るなって言ってるだろ」


 イルカショーと聞き、椎名胡桃は興奮して俺の腕を引っ張っていく。

 ギリギリイルカショーが始まる前に席が残っていたので、残っていた席に座り、イルカショーが始まる。


「それじゃあ次はお客様の中からイルカのハルカに技を披露したあとに餌をあげる役目をやってくれる人はいないでしょうか」


 イルカショーに出てるイルカの名前はハルカと呼ばれていて数々の技を披露して場を興奮させていた、俺の隣に座る、椎名胡桃が勢いで手を上げた。


「はい、はい、はーい。私やりたいでーす」


「おっとそこに座っているのはもしやカップルのお二人かどうぞこちらへ」


 いきなりカップル呼ばわりされた。


「ほら、センパイ行きますよ」


「いや、呼ばれたのお前だろ」


「何言ってるんですかカップル呼びされたのに一人で行くなんてありえないでしょ、ほら早く立って」


 そう言って椎名胡桃に無理矢理立たされ、イルカショーを披露している水族館飼育員の真ん前に立つ。


「美少女を連れてデートですか?」


 急に水族館飼育員の女性から質問が飛んできた。


「まぁそうですね」


 デートなのは間違いないので簡易的に答える。


「それでは彼女さんに、今日のデートは楽しめていますか」


「そうですね、こうやってセンパイとデートできて、私はこの瞬間が世界で一番楽しいですね」


「おっとまさかこんな答えが返ってくるとは思いませんでした。さてそれではあなた方には私が合図した後に二匹のイルカが技を披露するので上手く披露できたら餌を与えてあげてください」


 餌である魚を手渡される、すると水族館飼育員の女性が手を上げ、その後二回程リズムよく手を叩くと首に下げていた笛を一回吹く。

 イルカ二匹が泳いでジャンプして姿を見せた、するとそのジャンプ中イルカ二匹がすれ違いハートマークを描いた。

 これにはイルカショーを見に来た観客も興奮して席から多くの拍手が聞こえてくる。


「センパイ見ましたか、ハートマーク描きましたよ」


 隣にいる椎名胡桃も興奮気味になり、俺に話す、椎名胡桃は貰った餌の魚を一匹のイルカに与える。


「ああ、確かに凄いな」


 俺はイルカの披露した技を見て驚き餌を与えるのを忘れる。


「センパイ……餌あげないと」


「え? あ!! ああ」


 一匹のイルカに餌の魚を投げやると、イルカは口を大きく開け魚を食べた。


「どうでしたでしょうか」


「いや、凄かったです」


 水族館飼育員に質問されてもこんな感想しかでてこなかった。


「それでは彼女さんの方はどうでしたでしょうか」


「そうですねまずはセンパイの表情が最高でしたね、今まで見たことないぐらいに驚いた表情をしていて、その後慌ててイルカに餌を与えるセンパイがもう本当に最高」


「あの……彼氏さんの話じゃなくてイルカが披露した技に関しての感想は?」


「ああ……えっとまぁ凄かったですね」


 椎名胡桃はニッコリ微笑み水族館飼育員に答えた。


「それでは手伝ってくれたお二人に拍手を」


 会場内では小さな拍手が聞こえてくる、俺はこいつに言われた事で恥ずかしくなり、急いで席へと戻る。


「センパイ、置いてかないでくださいよ」


 椎名胡桃が後ろからゆっくりと俺の後を追ってくる、イルカショーは中盤に差し掛かる。


「センパイ、ちょっとこっち来てくれます」


 まだイルカショーの途中だが椎名胡桃は席から立ち上がり腕を引っ張って、会場内から出ていく。


「おい、まだ途中だろ」


 椎名胡桃は何も答えずただ水族館に来て初めて怖い顔になっていた事に気付く。


「おい……どこ行くんだよ」


 イルカショーの会場から離れ、水族館からも出て行こうとする椎名胡桃を止める。


「駄目絶対あの人にセンパイを渡したら駄目」


「椎名?」


「あれ彰人君?」


 名前を呼ばれ振り返る、そこにいたのは姉さんの友人であった天神舞亜さんだった。


「こんな所で会うなんて奇遇だね」


「舞亜さん」


「そっちの子は彰人君の彼女か何かかな」


「いや、後輩みたいなもんですよ」


「……センパイ」


「お前は初めて会うよな、この人は亡くなった姉さんの友人だった天神舞亜さんだ。この前俺が入院してた病院に実習に来てるらしい」


「初めまして椎名胡桃です」


「君とは初めて会った気がしないね……椎名胡桃さん」


「奇遇ですね私もです」


「彰人君がこんな可愛い美少女を連れてるなんて今日はデートなのかな……?」


「まぁそうですね」


「それじゃあ私がお邪魔するのもあれだし、そろそろ消えるとするかな」


「それじゃあまた」


 天神舞亜は彰人達が先程まで見ていたサメの水槽に行く。


「センパイ水族館から出て次の場所に移動しましょう」


「もういいのか? まだまだ見てない魚とかいるだろ」


「いいんですよ、ほら行きましょセンパイ」


「椎名どこに連れてくんだよ」


 椎名胡桃に連れて行かれるまま、駅まで戻ってきた。

 電車に乗り乗り換えると次の目的地は京ドラドームのようだ、電車から降りて駅を出て歩く。


 京ドラドームがすぐそこに見えた、今日京ドラドームに来るとは聞いていなかったが一体何が行われるんだ?

 やっぱ京ドラドームなので野球なのかと考えて京ドラドーム付近に近づくとそれはすぐに理解した。


「アイセブンのLIVEか」


 愛刀天花が所属するアイセブンのLIVEがここ京ドラドームで開催しようとしていた。


「この前の勉強会の時に愛刀さんがLIVEのチケットを二枚くれたのでどうしてもセンパイと行きたいなって思って」


 椎名胡桃は愛刀天花から貰ったチケットを見せつけてくる。


「でもこのLIVE夕方からだろ。まだ時間あるけど昼でも食べるか?」


「いいですね、さっきそこにファミレスあったのでそこでお昼にしましょうか」


 まだLIVEまで時間がある為、駅付近にあるファミレスに入る。


「すいません二人なんですけど空いてますかね」


 ファミレスの店員に空いているかどうか聞く、休日の昼頃なのにファミレスはガラガラに空いていた。


「えっと……少々お待ち下さい」


 ファミレス店員は慌てて奥へと走って行く、奥から何人かの女性の声が聞こえてきた。


「どうぞこちらへ」


 ファミレス店員が戻ってくると、手前の二人席に案内された。


「では注文が決まりましたらお呼び下さいませ」


 ファミレス店員は厨房へと引っ込み、俺と椎名胡桃はメニューを眺め注文を決めようとしている。


「センパイ何にします」


「そうだな普通にハンバーグとご飯とドリンクバーかな」


「それじゃあ私も一緒のにします」


 ファミレスの店員に注文して、注文した料理が届くまでにドリンクバーでジュースを注ぎに行く。


「えっと椎名はオレンジジュースで俺は何にするか」


 ついでに椎名胡桃が飲みたいジュースも聞いてきたので先にコップにオレンジジュースを注ぐ、俺は無難にメロンソーダーを選びコップに注ぐ。


「彰人君……?」


 本日二回目の名前呼び、振り返らずに横を向くと愛刀天花がコップを持ってドリンクバーに来たのだ。

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