第27話久遠と映画 御嬢瑞希のメール

 

 勉強会三日目本日は学校最終日、なので今日で勉強会は終了だ、あとは各々各自で休みの日に勉強などをして中間テストに挑む。


「にいに、外がうるさくて勉強に集中できない」


 久遠が呟く、窓のカーテンを少し覗き込み家の玄関を見る。

 そこにはマスコミが玄関に溢れ尽くしていた、昨日の御嬢瑞希誘拐事件のヒーローとして今日は学校でも俺の噂が飛び交っていて、朝からこの調子だ。


 御嬢瑞希が車で学校まで送り迎えをしてくれたおかげでマスコミから話しかけてこられなかったが、学校中の生徒から話しかけられて俺はもう気力を使い果たしていた。


「彰人様もし迷惑なら、強制的に帰らせるよう申しますが」


「いや、別に明日には落ち着いてると思うし別にいいよ」


 一番集中しなきゃいけない日に、まさかこんな事になるとは。


 それから勉強会が終わる頃までマスコミはずっと家の玄関前から消える事はなかった。


 勉強会に参加していた椎名胡桃、愛刀天花、御嬢瑞希は全員御嬢瑞希の迎えがきた車で帰る事ができたので一安心した。


「にいに明日はデートだね」


「デートじゃなくて、映画観に行くだけだろ」


 夕飯を久遠、母さん、俺の三人で食べていた時ふと久遠が呟いて、久遠の頭を軽くチョップする。


 そう、明日は前々から久遠と約束していた日だ、本当は中間テストもあるので勉強したかったのだが、約束なので仕方ない事だ。


「明日は朝早く行くから、にいにも早起きしてね」


「朝早くって何時頃?」


「えっと九時には家を出るから、八時頃には起きないと」


「九時頃から出るって事は早い時間の映画なのかてか、観る映画まだ聞いてなかったけど」


「明日観るのはこれ」


 久遠はポケットから折り畳まれた、映画のチラシを手渡してきた、見ると、明日観る映画は最近公開された日曜朝の戦隊ヒーローライバルリベンジの映画だ。


「映画はねライバルだった怪人が一回だけ仲間になるって考察がネットで出回ってるんだ、だから楽しみ」


「久遠は今回の戦隊ではレッドではなくライバルの怪人が好きだったな」


「うん、先週の放送でライバルの怪人は本当はレッドの死んだ兄さんで遂に直接対決する所で終わったから、そっちも楽しみにしてるの」


 まあ俺も映画は気になってたし、楽しみにしてるか、夕飯を食べ終わり、風呂に入って、明日寝坊しないよう早めに寝た。



「にいに起きて…にいに…」


 久遠の声が耳元で響いてきた、目覚めると久遠が馬乗りになり、俺の体を揺らしていた。


「久遠重い」


「やっと起きた。もう八時半だよにいに」


 久遠は俺の体から退いて、ベッドに置いてあった、スマミフォンを手にして、時間を確認する、久遠の言う通り、時間は八時半ピッタリ、早く寝たのに結局、寝坊してしまった。


「悪い、今から準備するから」


 俺は半分寝そうな頭を切り替えて、ハンガーにかけていた、服を取る。


「……久遠」


「分かってる、出ていくよ」


 部屋にいた久遠の名前を呼ぶと、久遠は分かったのか、部屋から出ていく。


「たく……あいつは本当に」


 急いで着替え、部屋から出ると、久遠は部屋の前で待っていた。


「別にリビングで待っててもよかったんだぞ」


「いいの、にいに今日はよろしくね」


 久遠は可愛くウインクをして、腕を組んでくる、今日くらいは我慢するか。


「母さん、行ってくるよ」


「行ってらっしゃい」


 リビングにいる母さんに挨拶して、玄関を出ると、昨日いたマスコミがまだ数人残っていた、てっきりもういなくなったと思ってたのに。


「先日御嬢瑞希誘拐事件を解決した城田彰人さんですね、二、三質問したいんですが」


 出ていきなり、よくTVのニュースで見かけるアナウンサーの女性がマイクと共に近付いてきた。


「……いや、ちょっと今は迷惑っていうか」


 俺はマイクを向けられ緊張しているのか、いつもより言葉数が出てこない。


「では隣にいる女性はどなたでしょうか?」


「妹です」


「これからどこかへお出かけですか」


「にいに無視して行こ」


 久遠にリードされるまま、玄関を通り過ぎようとするが、マスコミに囲まれる。


「邪魔……」


 久遠はカメラマンの男に睨むとカメラマンの男は怯んだのか、カメラを落としそうになって慌て、ギリギリ落とさずに済んでいたのを目撃した。


「マスコミって他人のプライバシーまで踏み込むって聞くけど、これ以上私とにいににのプライバシーに踏み込むなら警察呼ぼうか……?」


 久遠の一言に囲んでいたマスコミは一目散に逃げていく、マスコミ以外は何事もなく映画館まで来ることができた。


「いらっしゃいませ」


 最近の映画館は殆どネットや自動券売機を使うのが流行っているらしいが、ここの映画館はそんな物一つも置いていなく受付のスタッフが全て案内してくれる。


「もしかしてカップル様でしょうか?」


 映画のタイトル座席等を決めている途中、受付のスタッフがストレートに聞いてきた、多分腕を組んでいるせいで久遠を彼女か何かだと勘違いしたんだろう。


「いや兄妹です」


 俺も逆にストレートに答えた、受付のスタッフはしょんぼりと顔を落としたライバルリベンジのチケットを購入して、久遠と別れ男子トイレに駆け込んでいた。


「スッキリ、スッキリ」


 洗面台で手を洗い、男子トイレから出る、久遠は映画ライバルリベンジの予告を夢中で観ていた。


「久遠お待たせ」


 久遠は俺の声が聞こえない程、予告に夢中だ、邪魔しないように久遠の後ろの席に座ってスマミフォンを触る。

 一件のメールが届いていたので開く、名前は御嬢瑞希からだった。


 先日の誘拐事件の後に連絡先を交換したのだが、一日に一回は連絡を取り合っていた。


 彰人様本日お家にはいらっしゃらないのでしょうか?

 共に勉強しようとお家に訪ねてお母様に聞いた所、久遠様とお出かけになっているようですがどこにいらっしゃるのですか?


 彰人様気付いてないのでしょうか?。


 彰人様もしメールに気付いているなら電話してください。


 彰人様気づいてるんでしょ……電話に出てください。


 Prrrrr


 メールはだんだんエスカレートしていき、電話までしてきたが、俺は出なかった、正直いつもの御嬢瑞希ではないと思って出なかったのだ、一応家に帰ったらメールしてやらないとな。


「にいに、ごめん映画の予告に夢中になってて」


「え……?あっ別にそんなの気にすんなよ」


 映画の予告が終わって久遠が俺に気付いた、スマミフォンの電源を切りポケットにしまう。


「そうだ久遠。なんかポップコーンかなんか買ってやるぞ」


「本当!?だったらホットドッグのセットとポップコーンのセットがいい」


「お前二つも食べれんのかよ」


「食べれるもん」


 久遠は少し頬を膨らませそっぽを向く久遠の注文通り、ホットドッグのセットとポップコーンのセットを購入、ドリンクはセットで付いてきたので、二人で好きな飲み物を注文した。


「にいにそろそろ開場時間だよ」


 映画館のアナウンスにライバルリベンジの名前が聞こえてきた。


「お二人様ですね」


 久遠がスタッフにチケットを渡して、特典を久遠が受け取って、入口を通りライバルリベンジが上映される館内へと足を踏み入れて、購入した席に久遠と隣同士で座る。


 やはり戦隊ヒーローの映画だけであって、多いのは家族連れが多い、若干俺と久遠と同じ年齢層の男性陣もいたのに気付いた。


「にいに女子って私だけなのかな?」


「まあ久遠の歳で戦隊ヒーローを観てるのは珍しいからな」


 家族連れでも男の子が殆ど、だが一人の女子が俺の隣の席に座ったのに気付いた。

 パーカーを被っていて、男子と見間違えそうになるが、下はスカートだったので女子だと気付けた。


「にいに始まるよ」


 館内が暗くなる事に気付いて、久遠が嬉しそうに呟くと先程購入したホットドッグにケチャップとマスタード塗って口にしていた。


「んー、美味しい」


 久遠は映画が始まるまでにポップコーン半分とホットドッグを食べ終えた。

 俺は上映が始まって残り半分残ったポップコーンを口にしながら、映画ライバルリベンジに見入ってしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る