第26話二日目の勉強会、彰人は新聞に取り上げられる

 

 二日目の勉強会、部屋に集まっているのは俺、久遠愛刀天花、椎名胡桃の四人だった。

 久遠の話じゃ御嬢瑞希は今日は学校を休んでいるようだ。


 実は今日は学校で翔也に会ったら昨日の事を問い詰めようとしたのだが、翔也も今日学校を休んでいたのだ。

 担任の話じゃ昨日から家に帰っていないらしい。


「にいにどうしたの。集中できてないみたいだけど?」


 俺の勉強が捗ってない事を久遠に見抜かれた。


「いやちょっと。翔也が昨日から家に帰ってないらしくてな」


「翔也って昨日にいにが家に連れてきた、男の子?」


「そうだ」


「でも最近家出する男子とかいるよね。にいにも前に家出っていうか帰って来なかったでしょ」


 きっと久遠は姉さんが死んで俺が自暴自棄になっていた時の事を言っているのだろう。

 しかし昨日会った翔也からはそんな様子は感じらなかった。


「昨日翔也、帰る前に何か言ってなかったか?」


 俺は翔也が帰った所を見ていなかったので、部屋にいる二人に尋ねた。


「私はあまりその人の事知らないから、何も答えられないけど。様子は普通だったよ」


「私もただ、具合が悪くなったから帰るって聞いただけで、別に様子も普通だったけど」


 愛刀天花と久遠は互いに様子はおかしくなかったと答えた。


「まあ俺が考え過ぎなのかもな。中学の時だって、サッカーの練習を隠れてやってたら、一日帰るのを忘れるぐらいだったし」


 あの頃の翔也は本当にプロサッカー選手になるぐらい夢見て、翔也のおかげで俺が通っていた中学は中学生の大会で優勝する事ができた。


 きっと怪我がなければ、高校はサッカーが上手い所から推薦状がきて別々に通っていただろう。


「センパイ、スマミフォンに通知きてますよ」


 机に置いていたスマミフォンに気付いた椎名胡桃が伝えてきた。

 スマミフォンには未登録の電話番号から不在着信が入っていた、それも一件ではなく五件ぐらいだ、話をしていて気づかなかった。


 だが未登録なので別に無視してもいいが、五件も入るぐらいだ間違い電話って事もなさそうなので一度、電話をかけてみた。


「城田彰人様の電話で間違いないでしょうか」


 電話の声は聞き覚えのある男の声で、俺の名前を知っていた。


「はい、あってますけど。どなたでしょう?」


「失礼しました。私御嬢瑞希お嬢様の警護を務める矢野と申します」


 矢野という名に聞き覚えはないが、この声の人物を思い出した、いつも御嬢瑞希の後ろにいる黒服の大男だ。

 声に聞き覚えがあるのは林間学校とデ〇ズ〇ーワール〇で話したからだろう。


「えっと、それで俺に何の用ですか? それにどうやって電話番号を」


「電話番号はこちらで調べて手に入れました。実はお嬢様ですが、そちらの勉強会に参加しているでしょうか」


「いや、来てないですよ。妹から聞いて学校も休んでいたみたいですけど」


「おかしいですね、先程家にお嬢様の担任から学校を休んだと連絡があったのですが、本日は私がしっかり学校に送り届けたのですが」


「もしかしたら、攫われたとか考えられませんよね」


 考え過ぎかもしれないが相手は御嬢財閥のお嬢様だ。


「すみません、少しお待ちください」


 矢野という男の声が離れた、少し間があったあとなにぃという大声がスマホフォンから響き渡る。


「彰人殿申し訳ありません、少々問題が起きたので。失礼します」


 そのまま電話を切られた、一体何があったのか、あんな大声になるって事は一大事なのだろう、俺はかけ直さず。

 集中しきってなかった頭を切り替えて勉強を始める。


「今日はこの辺にしとくか」


 昨日よりも勉強会は効率よくできた、分からない所は愛刀天花に聞いたりして今日は数学、社会、歴史の勉強をした。


「センパイ、また明日」


「おう、また明日」


 椎名胡桃と愛刀天花は今日は二人で帰るのではなく別々の道から帰って行った。

 昨日までは積極的に仲良くなろうとしていた椎名胡桃だが、今日会った時から昨日とは打って変わって、愛刀天花とは話していなかった。


「彰人君、今日教えた所、また復習しておいてね」


 復習の復習を愛刀天花に施され、二日目の勉強会は終了。


「彰人、ちょっとコンビニまで行って、お茶買ってきてくれない」


「別に明日でもいいんじゃないの?」


 勉強会が終わって、二人を見送った後、母さんにリビングに呼ばれコンビニまで行ってこいと言われる。


「そう思ったんだけどね、麦茶のティーバック切れちゃってたの忘れてたのよ、だから買ってこないと今日の飲む物ないから、ほら頼むわね」


 母さんは五百円硬貨を手渡してきた、飲む物がないと困るので、俺は仕方なく、家を出てコンビニに向かう。


 コンビニまでは駅前まで行かないとないので、外に放置している自転車に乗り、駅前まで飛ばした。

 一応いつもの数個入った麦茶のティーバックと一リットルの緑茶ペットボトルを購入してコンビニから出る。


「意外に時間かかったな」


 夜のコンビニは人が多く、購入まで時間がかかってしまった、コンビニ前に放置していた自転車に乗り、家の道程まで漕ぐ。


「あれって」


 自転車にブレーキをかけ停止する、見覚えのある顔が見えた気がしたが、路地裏を抜けていった、自転車を置いて追いかける。


 路地裏を抜けた先は廃工場の入口だった、廃工場なのに扉は頑丈な南京錠を付けられていた。


「開けるのは無理か」


 付けられていた南京錠を触り、破壊しようにも、壊せそうな物がないので諦める。

 辺りを見回り、強く蹴れば壊れそうな扉を発見した。


「っふ!!」


 足に力を入れ、蹴ると、扉が倒れた。


「何だ!? お前音がした方見てこい」


 廃工場の中から大声が聞こえる。


「な……何だてめぇ!!」


 不良の一人がこちらに気付いて、殴りかかってきた、この制服前の不良達の高校の。


 最近見ないと思っていたが、一体ここで何をしているのか考えながら、殴りかかってきた不良の腕を掴み背中に回す。


「いて、いててて……」


「時間がない率直に答えろ、ここで何やってる?」


「おい……急に悲鳴なんか上げて、一体何があった?」


「……あ」


 違う不良がもう一人やってくると。


「この野郎、そいつを解放しろ」


 シースナイフを懐から取り出し俺に向ける。


「はぁ……」


 俺は溜め息を吐き頭を抱えそうになる、不良を解放して、解放した不良の頭に回し蹴りが炸裂。


「まだやる?」


 シースナイフを持っていた不良に話すが、シースナイフは床に落ち、不良は尻餅をついていた。


「あんたを知ってる、伝説のakitoだろ、俺の高校の先輩を半分以上半殺しにして警察に突き出しっていう」


「いや伝説って俺まだ生きてんだけど、それにその名前はもう捨ててるし、誰だよそんな嘘の噂流した奴」


「俺だよ」


「あんた……」


 椎名胡桃の一件で少年院に入ったと思っていたが、もう出てきたのか、俺の目の前に現れたのは椎名胡桃にナンパして、後々椎名胡桃を攫った不良だった。


「てかあんたこの前高三じゃなかったっけ?もしかして留年でもしたの」


「うるせぇ、それよりも何のようだ」


「いや、ちょっと顔見知りを見たと思ったんだけど。いたいた、あの子解放して」


 俺は廃工場の中、不良達に囲まれた、御嬢瑞希を指差す、幸い縄で腕を縛られているだけで、まだ何もされていなかった。


「嫌だと言ったら」


「ここにいるあんたの仲間を全員ぶちのめしてでも解放する」


「おい、お前らその子解放してやれ」


「へっ? いいんですかいボス、身代金貰うんじゃ……」


「いいから解放してやれ。じゃないと全員この男に痛い目にあうぞ」


「なんかやけにあっさりだな」


 まさかこんなあっさりと助けれるなんて思ってなかった、不良達が縛られていた縄を切り、御嬢瑞希は俺に気付き、俺の後ろに隠れた。


「今回は俺としても不服なんだよ、一つだけ言っとくけど二度と俺の前に現れるなよ」


 そう言って、不良達を束ね、廃工場を後にする不良達を見た後、御嬢瑞希は俺の服の裾を掴む。


「彰人様」


「怖かっただろ」


 久遠のように優しく御嬢瑞希の頭を撫でる。


「学校の校門を潜った後に、いつの間にかここまで連れてこられて。でもお手洗いや、昼食などは頂いていたので待遇はそれ程悪いとは思えません。それにゲームセンターですか? とても面白い所へと連れて行ってもらいました」


 あれ、この子って攫われたんじゃないの、意外に楽しんでるように見えるんだけど。

 きっとさっき見かけたのはゲーセンから帰る所だったんだろう。


「それで何もされなかった?」


「はい、何が目的だったかは不明ですが。彰人様が現れる所を見るとあの方々は彰人様のご友人でしょうか?」


「全然違うけど」


 廃工場の真上からヘリコプターの音が聞こえてきた、だがヘリコプターは通り過ぎず、ずっと真上から音が聞こえてくる。


「へっ?」


 突如として廃工場の真上、つまりヘリコプターから人がロープで降下してきた、俺は一人に取り押さえられた。


「現行犯確保。お嬢様は無事であります」


 俺を取り押さえたのは軍服を着ている女性トランシーバで誰かと通信している、このトランシーバ見覚えがある。


 廃工場の扉が開けられ、全身黒服の大男が数人入ってきた。


「こいつが現行犯です」


 軍服を着た女性に俺は突き出された。


「彰人殿!?」


「はは……ちょっとこれには訳があるって言うか」


 そう言って、俺は軍服を着た女性に連行される。


 よく朝の報道ニュース新聞の一面では。

 俺は御嬢瑞希誘拐事件の犯人ではなく、御嬢瑞希を救ったヒーローとして一日取り上げられた。

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