第22話椎名胡桃は彰人にデートの約束を取り付ける
退院する日の朝早く、病室の扉が開かれた、扉から、ひょっこりと椎名胡桃が顔を出した。
「センパイ……?」
「おう、お前か。まさかこんな朝早くから来るとは思ってなかったぞ」
昨日看護師に伝えられてはいたが、まさか朝の七時半頃に来るとは予想外だった。
さっき起きたばっかりなので、まだ眠いと思い二度寝しようとしてた所だ。
「平日で学校もありますからね。センパイが事故にあった次の日まではずっと病院にいましたが」
「なんだ、そんなに心配してくれたのか」
「当たり前じゃないですか……!! 好きな人が事故にあって平気な訳ないでしょ」
冗談で言ったつもりが、椎名胡桃は目の前で泣き出してしまう。
「ああ、悪かったから。ほらこれで拭け」
近くにあったティッシュ箱を手に取り、椎名胡桃に渡す二、三枚程ティッシュを持ち、涙を拭き、すびぃーと鼻をかんだ。
「落ち着いたか」
「はい、ありがとうございます」
「それで椎名。この前の告白の返事だけど…」
「センパイ…!!」
伝えようとした言葉を椎名胡桃に遮られる。
「どうした?」
「私に一度だけチャンスをください。私とデートしてその日告白の返事をしてほしいです」
「そうか……分かった」
予定がないか考えたが次の週末は確か久遠と映画館に行く予定があったのを思い出す。
「週末は予定があるから、その次の週末なんかどうだ」
「分かりました、ちょっと待ってくださいね」
椎名胡桃はおもむろに学校の鞄からメモ帳と携帯を取り出した。
「センパイ、事故の時に携帯壊れたでしょ。あの時はセンパイの家族にどうやって連絡しようかと考えてたら、あの雌猫がセンパイの妹さんの連絡先知ってたみたいなんで助かりましたけど。これ私の連絡先なんで新しい携帯買ったら登録しておいてください」
「ああ、新しい携帯なら買ってもらったぞ。確か鞄の中に」
俺は鞄から真新しい携帯を椎名胡桃に見せつける。
「え!? それ新作のスマミフォンじゃないですか」
「ああ、なんか知らんけど、いつの間にか母さんが買い替えに行ったらしい。この際ガリケーよりも今話題のスマミフォンを店員に勧められたみたいだぞ」
「えーいいな、私高校生までは持っちゃダメって言われてるのに」
椎名胡桃は俺からスマミフォンを奪い取って、色々と弄ろうと電源を入れた。
「げっ……!! 指紋認証」
「そりゃお前みたいに、勝手に弄ったりする奴がいるかもしれないからな」
「解除してくださいよ。センパイ」
「はい、はい。連絡先登録するから返せ」
椎名胡桃は大人しくスマミフォンを返してきた、こいつにしては珍しく何も言い返してこなかった。
椎名胡桃はメモ帳にスラスラと書き込み、メモ帳の切り抜いて、切端を手渡してきた。
「ほい、登録しておいたぞ」
「念の為鳴らしておいていいですか?」
「ちょっと待って、今音が鳴ったらさすがに看護師に怒られる。ほら確認してみろ」
俺はスマミフォンの画面を見せる、画面には椎名胡桃と名前が表示されている。
「納得したか」
椎名胡桃はスマミフォンの画面を凝視してやっと納得したのか病院の椅子を出し座る。
「学校に行くんじゃなかったのか」
「あと少しなら平気です。それよりもセンパイ私のせいで事故に遭わせちゃって、ごめんなさい」
椎名胡桃は椅子から頭を下げて謝ってくる。
「そんな謝んなくていいって、結局こうして無事だったわけだし」
「それでも私が」
「にいに退院の日だから、今日は学校休んで付き添いに来た……」
「……あ」
突然病室の扉が勢いよく開くと、久遠が大声で姿を現した、椎名胡桃は気まずそうに久遠を見て、久遠は椎名胡桃を睨んだ。
「久遠何か言うことあるだろ」
久遠に一言言って、久遠は睨むのを止めて、頭を下げた。
「毎日にいにの見舞いに来てくれたのに、勝手に追い払ってごめんなさい」
「いや、そりゃ家族でもない赤の他人で事故に遭わせた当の本人じゃ、追い払われても文句なんて言えません」
二人の間には温厚な空気が流れている、この雰囲気のままで終われば、これから久遠も椎名胡桃と仲良くやっていけそうだ。
「おう、元気そうだな彰人」
「父さん!? 今日会社は……?」
「息子の退院の日だって上司に言ったら、有給とらして休ませてくれたのさ」
「ちょっと久遠、あなた先に行かないでよ。あら、あなたたしか?」
久遠のあとから父さんと母さんも病室にやってきた、母さんは俺の隣の椅子に座る椎名胡桃に気が付いた。
「私そろそろ学校の時間もあるので、おいとましますね」
「悪いな、また今度連絡する」
「はい、それじゃあセンパイ。またデート楽しみにしておきますね」
「デート……?」
椎名胡桃が出ていく間際、久遠の耳がピクっと動き、デートって単語を呟いた。
「やっと解放されたー」
病院の外で両手を掲げてガッツポーズで叫ぶ。
「ふふ」
今病院に入っていく、おばさんに笑われてしまった、今思うと恥ずかしくなってきた。
ガッツポーズを解いて、病院の壁に寄りかかり、久遠と共に会計をしている両親を待つ。
「にいに」
「おう、久遠さっきはちゃんと謝れて俺は嬉しいぞ」
久遠の頭を撫でる、久遠は撫でている間微笑んでいた。
「彰人君ー」
病院に入る扉から天神舞亜が俺の名前を呼びながら出てきた。
「どうしたんですか?」
「これ忘れ物」
俺は見覚えがない封筒を渡される。
「彰人君の病室にあったから、きっと彰人君の忘れ物かなって」
一応封筒の中の物を取り出す、俺の写真が一枚と手紙が一枚折り畳まれ入っていた。
「これ隠し撮りみたいだね」
天神舞亜が写真を覗き込んでくる。
俺が前にゲーセンで遊んでいた様子の写真だ、折り畳まれていた手紙を開くと。
好き好き好き好き好き好き好き好き好き好きと上から下の欄までびっしりと書かれていた。
「何これ……」
久遠が呟くのも無理はない、俺は天神舞亜に向き直る。
「これ、どこにありました?」
「彰人君の病室の椅子に置いてあったのを持ってきたんだ」
「病室の椅子」
さっきまで病室の椅子に座っていたのは椎名胡桃しかいなかった、だけどこんなの置いてあったか。
「にいにそれ捨てなよ、気持ち悪い」
「あっ、ああ……!!そうだな」
「だったら私が捨てとくよ」
病院の外のゴミ箱に捨てようとしたら天神舞亜が捨ててくれると言ったので、手渡す。
「これで一応は完了かな……?」
「今何か言いました?」
「ううんこっちの話。それよりも退院おめでとう」
「ありがとうございます」
「さっきご両親にも話して、今度冬華の好きだったお菓子持ってお家にお邪魔させてもらう事になったから」
「だったら姉さんも喜びますよ、姉の友人だった舞亜さんに来てもらえるだけで」
「本当にそうかな」
天神舞亜は微笑んだあと、背中を向き病院の扉から入っていった、久遠はずっと天神舞亜が歩く方向を眺めていた。
「よーし今日は彰人の退院祝いだ、昼飯は美味いもんでも食べよう」
父さんの案で昼飯はお好み焼きになり、夜も母さんが俺の好きな食べ物を作ってくれた、次の日学校に行くと俺は衝撃の事実を知ってしまった。
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