中間テスト 勉強会は全員女子

第21話天神舞亜は強引 彰人は生きている

 

 コンコン、病室の扉を叩く音が聞こえる、扉を開けてすぐに扉を閉めて外に出る。


「またあなたですか……」


「セ……センパイのお見舞いっていうか。少しでいいので様子をお聞きしたくて」


「そんな花束いりませんよ、医者からはもうすぐ退院できるって話ですから」


「よかった、目が覚めたんですね」


「いいえ、目覚めてなんてませんよ。この病院ではもう何も出来ないらしくて、家に帰って様子をみながら経過観察に通う予定なんです」


「そんな!?」


「それじゃあもう来ないで下さいね」


 病室の扉が勢いよく閉められる。


「誰だったんだ久遠?」


「ん? 見舞いに来て病室間違えた人。一応看護師さん呼んでおいたよ」


「そうか、はぁー。暇だねぇ」


「もうちょっとで退院なんだから、我慢しなくちゃ」


「そうは言っても、目覚めてから三日が過ぎても見舞いに来るのは、久遠と両親だけだしな」


「にいには他の人が見舞いに来た方がいいの……?」


「そりゃ見舞いに来てくれない方が嫌だろ、今は毎日久遠が話し相手になってくれてはいるが。こんだけ経って友達の見舞いが一人も来ないって俺って人権ないんだな」


「にいに……」


「城田彰人さーん、診察に来ましたよ。それと本日都内の国立大学から医学部の実習生が来てるんで、一緒に診察させてもらいますね」


 都内の国立大学って確か姉さんが推薦状を受け取ってた所だよな、一人だけ知人がそこに通っている事を知っている。


「彰人君……?」


 その知人とまさか病院で再会するとは思ってもいなかった。


「あれー。もしかして知り合いなんですか?」


「いやまぁそうですね」


 担当の医者の先生は気になったのか質問してきた、天神舞亜てんしまいあ、亡くなった姉さんの友人であり、姉さんが亡くなる前までは会ったら玩具として弄ばれていた気がする。


「お久しぶりです」


「久しぶり……久遠ちゃんも」


 久遠は天神舞亜と久しぶりに会ったにも関わらず、お辞儀の一つもしない。


「それじゃあ、ちょっと失礼しますね。」


 聴診器を胸、背中に当てられる


「うん、問題ないですね、一応経過観察であと一日過ごしてもらって、退院してもらって大丈夫ですよ」


「あと一日ですか」


「それと城田さん女の子泣かせちゃダメですからね」


「女の子を泣かせる?」


 俺は正直言っている事が分からなかった、女の子を泣かせるも何も、この病室に見舞いに来てるのは久遠と両親だけだ。


「それってどういう意味ですか?」


「……えっ知らないんですか。毎日この時間に女の子が病室に訪ねて泣いて帰ってるって看護師から聞いたんですけど」


「いや、知らないです」


 誰か訪ねてくるのは知っていたが、毎度久遠がでていた、もしかして久遠が追い払っていたのか、俺は久遠の顔を見ると、久遠はばつが悪そうな顔になる。


「あの……久遠と二人にしてくれませんか」


 担当の先生は気を利かせて、天神舞亜を連れて病室から出ていく。


「また今度おじさんとおばさんに挨拶したいから家に行ってもいいかな?」


「分かりました、伝えておきます」


 病室の扉がゆっくりと閉められ、久遠と二人きりになる。


「……にいに」


「久遠、一体さっき誰が来たんだ」


「にいにを事故に巻き込んだ、椎名胡桃。」


「あいつは別に何も巻き込んじゃいないだろ、あの時は反動で俺が道路に飛び出したんだから」


「でも……」


「久遠今日はもう面会時間は終わりだし、帰れ、それと椎名に会ったらちゃんと謝っとけよ」


 久遠は座っていた椅子を片付け、病室の扉を開ける。


「にいにごめんね、私が勝手にしちゃって」


 久遠は悪いと思ったのかこちらに振り返り謝ってくる。


「悪いと思ってるなら、椎名に会ったらちゃんと謝れ、もし無理なら今度俺から連絡して時間作ってやるから」


「ありがとうにいに、また明日お父さんお母さんと一緒に退院の時に来るから」


 久遠はそう言って病室の扉から出ていく、病室に一人きりなってしまう、久遠が出て行った直後扉を叩く音がした。


 もしかして久遠が忘れ物をして取りにきたのかもしれないが、あいつが扉を叩くなんてしただろうか。


「彰人君」


「なんだ舞亜さんだったんですね」


 扉を開けて顔を見て久遠じゃなかった事が分かった、病室の扉を開けて顔を見せたのは天神舞亜だった。


「えっと先生からもう問題ないしお風呂に入れる許可だして貰ったよ」


「風呂入れるんですか!?」


「うん、退院前日だし、彰人君ずっとお風呂入ってないって聞いたから」


 一応母さんが風呂道具一式持ってきてくれてはいたが使わないと思ってずっと鞄の中にしまっていた。


「案内するから付いてきて」


 俺は鞄から母さんが持ってきた風呂道具一式を持ち、病室のベッドから起き上がる、スリッパを履いて久しぶに床の感触を感じた。


 この病院は四階まであり、風呂は全階に男女別で二つずつあるらしい、入るには担当医師の許可が必要らしいが。


「一応入れるのは、二十分が限界だから」


 男子更衣室と風呂は直結繋がっているので、このまま男子更衣室に入ってすぐの扉に風呂があるらしい。


「えっと……俺時計持ってないんですけど」


「浴槽に防水時計があるらしいからそれで確認していこう」


 確認していこう、まるで俺と一緒に風呂に入りそうな言葉。


「はは……まさか一緒に入ったりしませんよね?」


「一緒に入るつもりだけど」


「失礼ですけど、今一緒に入るつもりだっていいました」


「当たり前でしょ、患者一人で風呂に入らせる訳にはいかないの、ほら入って、入って」


「だったら男性……!! 男性の先生呼んでください」


「ごめんね、この病院男性の先生いないんだ」


「嘘だ、俺母さんからイケメンの先生が病院にいるって聞いてますよ」


「はい、往生際が悪い。さっさと脱ぐ」


 俺は無理矢理、男子更衣室に押し込まれ、服を強引に脱がされ、裸同然の格好になってしまう、この強引さ前と全然変わらない。


「前会った時よりも身長伸びてるね」


 天神舞亜は身長を比べる、俺よりも数十センチ天神舞亜の方が身長は高い。


 女性としては高い身長の天神舞亜に背中を押されて風呂場に入れられる。


「はい、背中洗うから座ってね」


 近くにあった風呂椅子に座らされ背中をゴシゴシと洗われる。


「脱がなくていいんですか」


「予備があるからいいの……それとも、もしかして私の裸でも期待してたのかな」


 俺は黙り込む。


「あはは…からかってごめんって」


 俺は背中を綺麗にされ、前も洗おうとしていた、天神舞亜はさすがに止めて自分で洗った、天神舞亜は背中を向き俺は湯船に浸かる。


「あと五分経ったら出るからね」


「はい、分かってますよ」


 久しぶりに湯船に浸かった事で、疲れなどなくなって、ゆっくりできた。


「それじゃあ上がろうか」


「もう五分ですか」


「私は先に出てるから、冷えたらいけないからちゃんと体を拭いて出てきてね」


 もう二十分が過ぎたらしい、天神舞亜は入る前とは違い、先に風呂場から出て、俺は湯船から上がり男子更衣室に置いてあった、タオルで体全体を拭く。


「それじゃあ戻ろうか」


 男子更衣室前で天神舞亜は待っていてくれた、天神舞亜に付いて行き、病室に戻ると病院食が置かれ、先程まではなかった花瓶に活けた花束が飾られていた。


「さっき今日きた女の子がまた来て城田さんに渡してって言われました本当は禁止なんですけど、凄くいい子だったんで特別ですよ。一応明日退院するって伝えたら朝早くに来るって言ってましたよ」


 通りかかった看護師に伝えられる。


「たく。あいつって意外と心配性だったんだな」


 飾られた花束を見て、俺は窓を眺めた、病院の外には今出てきた中学の制服を纏った少女が走り去っていくのを見つけた。


「彰人君、そろそろ冷める前に運んできた病院食食べようね」


 天神舞亜に言われ、俺はベッドに座る。


 味が薄いのを我慢するのは今日までだ明日からは自由に食べれる喜びを隠して、運んできてもらった病院食を口にする。


 消灯時間、病室は真っ暗になり、彰人が完全に寝ている時間帯に病室の扉は静かに開いた。


「彰人君」


 彰人が寝ているベッドの近くまで忍び足で近付き、彰人の頭を撫でる天神舞亜。


「格好良くなったね彰人君」


 静かに彰人の唇に自分の唇を重ねる天神舞亜、その後天神舞亜は母親が持ってきた鞄をゴソゴソと取り出すと真新しい携帯を見つけ手にする。


「指紋認証か……彰人君ロックするなら暗証番号にしなくちゃ」


 天神舞亜は彰人の右手親指でロックを解除して、使ってないような、フォルダを見つけアプリを入れた。


「前の携帯事故の時に壊れちゃったみたいだからね新作の盗聴器アプリ作ってもらったけど、前よりも高性能かな……? 前のはノイズとか入ってたりしたからな」

「邪魔だった冬華は事故に遭わせて殺せたけど、まだ問題が山積みなんだよね。だからもう少し待ってね彰人君、あと少しの辛抱だから」


 天神舞亜は独り言を呟き、携帯の画面を消して鞄に戻すと、再度彰人にキスして病室の扉を開けて出ていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る