第20話御嬢瑞希と椎名胡桃の口喧嘩

 

 林間学校最終日のバスの車内はクラスの連中が騒いでいた、俺の隣は誰も座っていない。


 急に担任から昨日言った事は取り消しと、二年の先輩達は他のバスに乗り、今このバスの車内はクラスメイトしか乗っていない。


「うーし、それじゃあ博物館見学と行くか、一応言っておくが課題は忘れるなよ、二時間後にこのバスに集合だから忘れるなよ」


 バスを降りる前に担任から伝えられ、クラスの連中が降りていくのを見ながら、最後にバスを降りた。


 博物館のチケットをバスを降りる前に担任から手渡されたので、それを館内の入口で渡し、中に入る。


  入った瞬間、入口には恐竜の化石が飾られていた、クラスメイトや二年の先輩達がそこそこ集まっていた、俺は通り過ぎて美術品エリアに足を踏み入れた


「課題って言ってもやる気なんかでる訳ないんだよな」


 三十分位で博物館を一周するが一睡もしてないのと昨日の件もあって、俺は課題をする気になれなかった。


 時間も残っているが博物館から出て、俺は集合場所のバスに戻ろうとした所、ある人物と鉢合わせた。


「センパイ……?」


「なんでお前がここにいるんだ」


 溜め息が出そうになる、博物館の出口で椎名胡桃と偶然居合わせたのだ。


「センパイ、大丈夫ですか!? 目の下にクマ出来てますよ」


「はは、俺なら平気だって……」


 ダメだ完全に限界がきて、椎名胡桃の体に寄りかかってしまった。


「ちょ……センパイ!? いくらなんでも人前でこんな。センパイ?」


「あーあ完全に寝ちゃってる、疲れてたのかな。このままほっとく訳にもいかないし」


「胡桃ちゃーん、ごめん遅れちゃって……誰……?」


「あはは、ごめんこの人知り合い、ちょっと様子見てるから一人で行ってきてくれる」


「えー折角学校の創立記念日だから胡桃ちゃんと博物館回ってみたかったのに」


「ごめんね、今度埋め合わせするから」


「起きましたセンパイ?」


 一体何時間寝たのか博物館を出たのが昼前だったのに辺りはもう暗くなる前だった、起きた時俺はベンチで椎名胡桃の太腿で横になっていた。


「もうセンパイ急に寝ちゃうんですから、友達との約束キャンセルしちゃったじゃないですか」


「悪い……って!? それより俺集合時間が」


「先生に伝えて、帰りの電車代出して貰いましたよ、説得するの苦労しました、あとセンパイは今度また博物館に来て、課題を進めるようにって」


 ベンチの下には俺が林間学校で持ってきた荷物が置かれていた。


「センパイ林間学校中に何があったんですか、寝てる間センパイ寝言でずっとごめんって言ってましたよ」


「俺がそんな寝言を?」


「はい」


 昨日の告白の件を寝てる間も引きづっていたのか。


「センパイ……?」


「彰人様……!!」


 ここで一番会いたくない相手がベンチ前に車を停めて降りて現れる。


「まだ家に帰ってきてないって彰人様のお母様に聞いたら。博物館近くのベンチに座る女子の太腿で寝てると彰人様の担任に教えてもらって、車を走らせて急いできました」


「なんで雌猫がここに」


 椎名胡桃はボソッと呟いた、雌猫ってまさか御嬢瑞希の事か。


「さぁ彰人様、帰りましょう。こんな人の太腿なんかで寝たら彰人様は惑わされます」


「他人の太腿を悪く言うなんて、さすがセンパイに媚びを売る雌猫ですね」


 御嬢瑞希に腕を掴まれ、車に乗せられようとするが、椎名胡桃の挑発のような一言で立ち止まる。


「だ……誰が雌猫ですか!? そっちは女狐のクセに」


「女狐って誰が!!」


「彰人様以外にも他の男性にそんな誘惑みたいな事をして騙してるって知ってるんですからね」


「それは!? でも実際私が好きなのはセンパイで」


「彰人様があなたみたいな女狐と付き合ったら、絶対彰人様を不幸にします。金輪際彰人様に近づかないでください」


 椎名胡桃と御嬢瑞希の口喧嘩が始まって、ヒートアップして御嬢瑞希はつい椎名胡桃の体を押しのけてしまった。


  一つだけ言っておくとベンチ前は車が通る道路だった、しかもこの時間帯なら道路はよく車が通る程だ、ここには横断歩道やガードレールなんてない。


  押しのけられた椎名胡桃は道路に出てしまって、今まさに通ろうとしていた車に轢かれそうになる。


「椎名……!!」


「……センパ」


 俺は腕を伸ばして椎名胡桃の腕を引っ張る、椎名胡桃は撥ねられずにすんだが引っ張った際に俺は反動で道路に飛び出てしまった。


「……やっば」


 次の瞬間ドンと車に撥ね飛ばされる、俺は車と衝突事故を起こした。


 耳では御嬢瑞希と椎名胡桃の心配する声のような物が聞こえるんだが、だんだん視界も霞んでいき。


  俺はいつもみたいにベッドで寝るような感じで意識を失った。

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