第19話愛刀天花の告白

 

 宿舎に着くとまず荷物を全て部屋に置き、担任の下にクラス全員集まった。


「よーしこの前決めた通り、キャンプファイヤーに必要な薪割りをするから、全員外に集まれ」


 俺は薪割り担当ではなく夜キャンプファイヤーに行なう火の管理を任されているので、学年主任の下へと向かおうとするのだが。


「あー城田、お前には別件があるから火の管理は他の奴に任せる」


「別件…?」


 担任から手渡されたのは、飲み物の買い出しリストだった。


「学年と先生の分も含めるから、お前とあと二人程人員は確保してるから、宿舎の外に行って確認してくれ」


「はぁ?」


 ここで俺だけ飲み物の買い出しなんておかしいと思うが、言われるまま宿舎の外に出る。


 そこにいたのは御嬢瑞希と愛刀天花、御嬢瑞希の後ろには一人黒服の大男が待機していた。


「えっとまず何から質問していいか」


 御嬢瑞希は花菜葛女子の制服は着ておらず、俺達の高校の制服を着ていた一体どこで手に入れたか謎だが、ここで気になる事はただ一つ何故御嬢瑞希がここにいるかだ。


「何で君がここにいるんだ?」


「まあ彰人様、冗談はおよし下さい、私達同じ学年のクラスメイトではないですか」


 こっちの方が冗談はおよし下さいだよ!! 君中学生だよね、俺と同学年で同じクラスなら一度は顔合わせしてるはずだけど、こんな美少女、クラスでも見たことないよ。


「一体どんな手を使って、俺の担任に指示なんかだせたんだ」


「お金を少々恵んであげただけですよ、そしたらお願いを聞いてくれました」


 あの担任賄賂受け取ってやがる、学校に言いつけてやろうか。


「へー……君ってお金持ちなんだね」


 俺と御嬢瑞希の会話を横で聞いていた愛刀天花、この人がいたのも謎が残るが、今はとにかく御嬢瑞希だ。


「誰かさんが私の彰人様に手を出そうとしたから、こんな手段を使わなければいけなかったんですよね」


 うん君の彰人様でもないけどね。


「君、彰人君の恋人でもないよね。そんな人が私に文句でもあるのかな」


 愛刀天花の言う通りだ、だが何か伝え方にに語弊があるような、突然二人は両横に立つと、右と左で腕を組んできた。


「あの……? ちょっとこれは歩きにくい」


 二人は腕を放す気が全くない、それ所か睨み合っていた。


「彰人君、これからドリンクの買い出しだよね、夜は暇になったみたいだけど。私が言った事覚えてる?」


「フォークダンスを踊る件ですよね」


 確かに担任から火の管理は他の生徒に任せると伝えられたので、夜は暇になった。


「フォークダンスなら私小さい頃に少々習っておりましたので、もし彰人様が踊れないなら私がリードしてあげますよ」


「君には聞いてないよ、私は彰人君に聞いてるんだから、それに君と躍るつもりもないね」


「私が言っているのは彰人様にです。あなたなんかと躍るなんて言ってません」


 二人の口喧嘩は、ドリンクの買い出しにきたコンビニまで続き、俺は体力を半分以上奪われた。


「これで全生徒分かな?」


 俺の両手には二袋一杯に大量のペットボトルが入っていた実は御嬢瑞希の後ろにいた黒服の大男が両手に四袋持ってくれているので、俺は少なくて済んでいる。


「すみません、重い物持たせちゃって」


「いえ、軽いくらいですよ、それよりもお嬢様が迷惑をかけてしまい申し訳ありません」


「そんな謝らなくても」


「でもこれも全てお嬢様が彰人殿を想っての事なので分かってあげてください」


 黒服の大男に頭を下げられる。


「分かったから頭上げてください」


 まだコンビニの中なので、コンビニの店員に何事かと思われてしまう、御嬢瑞希と愛刀天花は騒がしかったのでコンビニの外で待たせてある、二人は膨れっ面でお互いそっぽを向いていた。


「お嬢様お待たせしました」


「ごめん、やっぱ学年と先生の全員分だとやっぱ買うのに時間かかっちゃって」


 黒服の大男と共にコンビニの外に出て、待たせた事を謝る。


 コンビニに入る前と同じように二人は腕を組んでこようとしたが両手に持つ袋が邪魔で腕を組めないようだ。


「時間も無いし、急いで宿舎に戻ろうか」


 さっきまでお昼時だったのに、もう夕陽が沈もうとしていた。


 もうキャンプファイヤーの準備が終わり、始まりそうな時間帯なので、急いで宿舎に戻ろうとする。


「仕方ありません、今回は我慢しましょう」


「君に同意するのは癪だが、彰人君も重い荷物を持っているし。私が一つ持つよ」


「俺なら平気ですよ……?」


「いや、私も持つって……結構重いね」


 愛刀天花は片方の袋を両手に花力を入れ持ってみたがやはり女子なのか、その手はプルプルと震えていた。


「やっぱ俺が持ちますよ」


「平気、平気……っわ!?」


 袋が破け、入っていたペットボトルが数十本床に落ちた。


「ごめんね」


「俺さっきのコンビニで袋貰ってくるんで、皆で先に宿舎に戻っといてください」


「えっ!? でも床に落ちたペットボトルは」


「集めてくれていたら、俺が拾っとくんで」


 さっきのコンビニまで走って、袋を貰い戻ると三人共ペットボトルを集め終わっていたのに、宿舎に戻っていなかった。


「あれ? なんで皆、ここに残ってるんだ」


「彰人様を置いてけぼりになどしませんよ、ましてやこんな人と一緒に戻りたくありませんし」


「私は彰人君が一人じゃ大変だから戻らなかったの、さっきのは完全に私のせいもあるからね」


 結局皆でペットボトルを拾って貰ってきた袋に入れるさっきとは違い二重袋にして、俺が両手に持つ。


「それじゃあ戻ろうか」


 全員で宿舎に戻ると、宿舎の裏に砂場があるのだがそこでとっくにキャンプファイヤーは始まっていた。


「君、見ない顔だけど可愛いね。俺の彼女にしたいぐらいだ」


「ありがとうございます、でも遠慮しておきます、私あなたにこれぽっちも興味なんてありませんから」


 御嬢瑞希は完全にうちの生徒として溶け込んでいる、買ってきた飲み物のペットボトルを順番に配っている。


 配っている途中に二年の先輩に口説かれていたが、愛想笑いプラス毒舌でその場を逃れた。


「彰人君」


 愛刀天花は配り終わったのか、持っていたペットボトルを全て無くなっていた。


「配り終わったんですね」


「私の方はね、彰人君は後数本って所だね」


「まあそうですね、よかったら愛刀さんもどうぞ」


「でも私が貰っていいの」


「何言ってるんですか、学年全員の分を含めるんですから愛刀さんもいいんですよ」


「ありがと」


 愛刀天花に持っていた、ペットボトルを一本手渡す。


「彰人君、今一緒に踊らない」


 言葉にするよりも早く愛刀天花に腕を掴まれ、持っていたペットボトルを落としてしまう。


 キャンプファイヤーから少し離れた距離でフォークダンスを躍る生徒達がいた、愛刀天花にリードされるまま、一緒にフォークダンスを躍る。


「うん、上手い、上手い」


 正直踊りとか苦手なのだが。


「はい、ここでくるりと回って」


 本当ならここで他の人と入れ替わりで交代するのだが愛刀天花は腕を放さない。


「あの愛刀さん」


「天花でいいよ」


「天花さん交代しないと」


「うーん……嫌」


 笑顔で答える、愛刀天花はフォークダンスを止めて、キャンプファイヤーから宿舎の入口へと連れていかれる。


「彰人君、私について聞きたい事ある」


「気になってた事なら、林間学校中になんで誤解を招きそうな行動をするのか」


「彰人君が好きだからだよ」


「え!?」


「彰人君が好き、最初購買の売店で初めて会ったけど、私の一目惚れ。実際話してみてもっと好きになっていった」


 これは告白か、いやまさかありえないだろ、愛刀天花はアイドルだぞ。


「俺のどこがそんなに好きになったんですか」


「彰人君、あの時購買の売店でパンを譲ってくれたでしょ、最初は私がアイドルで有名だからかなって思ったんだけど。そんな素振りとか見せないし、時間もないのに学食で食べるなんて言い出した時は天然過ぎでしょって笑いそうになった。まだまだ彰人君の好きな所は沢山あるけど、これが私の告白」


 どうやら愛刀天花が俺を好きな事は事実のようだ。


「もし彰人君に付き合ってる人がいないなら私と付き合ってください」


 アイドルからの告白なんてそんな簡単にされるものじゃない、だが俺の答えは決まっていた。


「天花さん、ごめんなさい、天花さんの告白は嬉しいですけど、俺好きな女子がいるんです」


「彰人君に好きな子がいる……?」


「はい」


 愛刀天花に好きな女子がいる事を伝えると、愛刀天花は何も言わず宿舎の中へと入っていく。


「彰人様、飲み物全て配り終わりました、彰人様?」


 御嬢瑞希が飲み物を配り終わった事を伝えにきた時、俺は涙ぐんでいた。


 告白をしてきてくれたのに断るのはこんなにも辛いんだな。


「別に何もないんだ、ごめん俺宿舎に入るから」


 俺は御嬢瑞希を置いて宿舎の自分の部屋へと行こうとするが御嬢瑞希に手を取られる。


「彰人様、もしこのままこの前の告白返事を聞きたいって言ったらどうしますか」


 「ごめん今は答える気になれない」


 「あっ!!」


 俺は一日に二人の告白を断る勇気はなかった、宿舎の部屋に入ると、ベッドに寝転がる。


 「俺って最低だな」


 この日俺は一睡もする事なく、最終日の林間学校の日を迎えるのだった。

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