第9話部屋の片付け椎名胡桃は変貌する
「じゃあ彰人留守番頼むわよ」
高校の授業から解放されて初めての週末、母さんは久遠と共にショッピングに出かける。
これも父さんの差し金で俺が部屋を片付ける為に必要な時間を作ってくれたようだ。
「にいに行ってきます」
「行ってらー」
リビングから母さんと久遠を見送り、早速二階に上がり、俺と久遠の向かい側の部屋に入る。
ホコリひとつない部屋。
きっと母さんが毎日掃除しているのだろう、勉強用の教科書や参考書が机の上に整理整頓され、俺と久遠、姉さんが写った写真立てを目にした。
「久しぶり姉さん」
姉さんはもうこの世にはいない、去年交通事故でなくなってしまった。
俺と久遠もその事実を受け止め、今はもう姉さんの話題など話す事はなくなっていた。
「この部屋使わせてもらうけど、いいかな姉さん」
もう一年以上この部屋は誰も使っていない、なので俺は久遠と別々の部屋になる為にこの部屋を使うつもりだ。
だがこの部屋の持ち主は姉さんなので、一度写真に写った姉さんに聞く。
「俺は何やってんだ、写真が喋る訳ないのに、さっさと片付けるか」
早速姉さんが使っていた教科書や参考書などをダンボール箱に全て詰めて、押し入れの中に入れようと開ける。
そこから大量のアルバムが落ちてきた、中身を見ると、姉さんの学校のアルバムや家族のアルバムだった。
中には久遠だけのやつと俺だけのアルバム、久遠と俺のツーショット、姉さんと俺のツーショットなど沢山のアルバムが見つかった。
「へー、まさか姉さんの押し入れにアルバムがあったのか」
確かに家族で旅行など行った時、父さんが写真を撮ったりしていた記憶はあったが、まさか姉さんの押し入れにあったとは思いもしなかった。
するとピーンポーンと家のチャイムが鳴り響いている事に気付いた、俺は急いで階段を降りて玄関の扉を開く。
「センパイ、おはようございます」
「げっ!?」
ガチャと玄関の扉を勢いよく閉める、なんでこいつ俺の家分かった。
「センパイ、酷いですよ開けてください」
椎名胡桃はどんどんと扉を叩く、玄関のチェーンをかけ、半分扉を開けてから顔を出す。
「なんで俺の家の住所が分かった」
「それはセンパイをストーキング。げふん……!! センパイが教えてくれたんじゃないですか」
「すまんストーカーを家になんていれたら危険だ。悪いがこのまま失礼する」
「ああ待ってください!? お礼、お礼を言いにきたんです」
「お礼……? お前なんかにお礼される覚えなんてないけど」
「ほらこれ」
椎名胡桃は携帯の写真を見せてきた、その写真には先日ゲーセンにあったデカいクマのぬいぐるみが椎名胡桃の部屋を半分占拠していた。
「これセンパイの仕業ですよね、手紙も一緒に入っていましたし」
それは確かに俺の字で一言翔也に礼言っとけと書かれていた、あの日デカいクマのぬいぐるみは椎名胡桃の家に届くよう住所を書いたが、まさか本当に届くとは。
「奇跡的に取れたから郵送してもらっただけだ、俺は別にそんなの興味ないからな、まさかそれだけでお礼を言いにきたのか」
別にそんなお礼なんて言われる程のものじゃない、ただ厄介になりそうな物を押し付けただけだったのだが。
「それで、そのもしこの後暇でしたら、これから一緒に遊びに行きませんか? 私としてはお礼を言っただけじゃ足りないって言うか」
「ああ悪い、今日は無理だ。部屋の片付けがあって」
「部屋の片付けなら、私得意です」
「さっきも言ったがストーキングするようなストーカーを家に入れるのは危険だ、じゃあまたな」
そう言って扉を閉めて、片付け途中の部屋に戻ろうとしたのだが。
「センパイの人でなしー!! 折角手伝ってあげようとしてるのにこのまま放置するんですかー?」
急いで玄関の扉を開け、椎名胡桃を家の中に招く。
「お前!! 近所で俺の悪い噂立ったらどうしてくれるんだ」
「てへっ」
椎名胡桃は舌を出し、勝手に靴を脱ぎリビングに入っていく。
「あれー? 誰もいないんですか……? センパイのお母さんに挨拶しようと思ったのに」
「母さんなら妹と一緒に買い物に出かけてる。帰ってくるなら夕方頃だぞ」
「へー……センパイ妹さんがいたんですね」
そういえばこいつには話していなかったな、また今度紹介してやるか。
「それでさっきのは冗談として、一体どうやって俺の住所を知った」
「あの人ですよ、田澤翔也この前のゲーセンでずっと付き纏ってきたんで、連絡先を交換してようやく解放されたんですけど、簡単にセンパイの住所教えてくれましたよ」
今度翔也に会ったら一発殴った方がいいな、簡単に友達の住所を教えるなんて、もしかしたら少しあいつから距離を置いた方がいいかもな。
「それで片付けする部屋って二階ですか?」
「ああ、本当に手伝ってくれるんだな。てっきりそれも冗談かと思っていた」
「手伝うに決まってるじゃないですか、先輩の部屋に入れるチャンスなのに」
どうやら椎名胡桃は部屋の片付けをするのは俺の部屋だと勘違いしているらしい、片付け途中だった姉さんの部屋に入った瞬間椎名胡桃は俺を見てきた。
「センパイ、ここ絶対センパイの部屋じゃなくて妹さんの部屋じゃないですか」
「妹の部屋でもねぇよ、死んだ姉さんの部屋だ、俺が部屋を移すから、今この部屋片付けてんだ」
「センパイってお姉さんもいたんですか、しかも亡くなってるって」
「いいから早く片付けるぞ。お前はそこのタンス頼むぞ」
タンスには姉さんの着なくなった服や下着やらがあったので今度母さんに言って片付けてもらおうと思っていたのだが、女子のこいつに頼んだ。
「センパイのお姉さん中々いいセンスしてるじゃないですか。これ去年のブランドの限定品だったはずですけど」
「欲しいなら持って帰ってもいいぞ、もう誰も着ないと思うし」
久遠はあまり姉さんが着るような服を好まないからな、もう誰も着る事がないだろう。
「やったー。でも本当にいいんですか?」
「どうせ捨てる運命なら誰かにあげた方がいいだろ。クローゼットの中にも姉さんが着てた服があるから欲しい奴があったら好きなだけ持ってけ」
「やっぱりセンパイのお姉さん服のセンスありますよ、私が欲しくても手に入らなかった限定バッグに、アクセサリーまで、生きてたらきっと仲良くなってたはずです」
椎名胡桃は喜んでいたのもつかの間申し訳なさそうな顔をする。
「すみません、こんな話題不謹慎ですよね」
「いいってそれよりも、ちゃんと片付けも手伝えよ」
椎名胡桃の片付けもあってか、昼過ぎには部屋の片付けが終わってしまった。
「うん、これだけ片付ければ問題ないだろ」
ちなみに姉さんの勉強机やタンスなどは片付けずに、今度から使うつもりなので置いたままだ。
「センパイ、これがセンパイの妹さんとお姉さんですか」
「おう、そうだぞ真ん中が俺で左に写ってるのが姉さんで右に写ってるのは妹の久遠だ」
椎名胡桃は勉強机に立てられていた写真立てを見つけ聞いてきた。
「センパイのお姉さんと私ってなんか似てません」
「どこが?」
「ほら、私の髪ってサイドテールで纏めてますけど髪下ろしたら結構長いんですよね」
椎名胡桃は髪を下ろす、だが椎名胡桃の髪の色は薄いピンクで姉さんの髪の色は黒髪だった。
「全然似てないだろ、それに姉さんはお前と違って、もっと人に優しくてだな」
「むぅ。じゃあ待っててください!!」
椎名胡桃は一階に降り、玄関を飛び出し、どこかへと行ってしまう。
「いや待ってろって……」
一時間が経った頃に椎名胡桃は髪の色を黒髪にして、姉さんが着ていた服を着て帰ってきた、一瞬姉さんがそこにいると思ってしまった。
「どうですか、さっき近所の人にも声掛けられましたよ。これで似てるってセンパイも言って、ちょっ!? センパイ急にどうしたんですか」
「悪い、いやー確かに似てるわ、人ってこうも服と髪の色変えるだけで変わるもんなんだな」
俺は椎名胡桃に抱き着いてしまい、すぐに気付いて、離れて謝る。
「いえ、その私もムキになってって言うか、そうだセンパイ……!! お昼、お昼食べに行きましょ。まだ食べてないですよね」
確かに今日は朝から何も食べていなくて、腹が減っている状態だった。
「そうだな片付けも手伝ってくれたお礼に何か奢るが、何が食べたい」
「オムライスの気分です」
姉さんが好きな食べ物もオムライスだった事を思い出してしまい、つくづく姉さんに似ていると思ってしまう。
「センパイ?」
「悪いオムライスだったな、近所に美味い定食屋があってそこでもオムライスがあるからそこでいいか。」
「はい」
椎名胡桃は飛びっきりの笑顔を向け答えてきた、椎名胡桃と定食屋に行くと。
定食屋のおばさんに彼女とデートかいと質問されたが、そんなんじゃないと答える。
椎名胡桃の目のハイライトが消えたが、それは一瞬の事だったので、彰人も気付かなかった。
「ご馳走様ですセンパイ」
定食屋の料金は全部俺が払ったので椎名胡桃にお礼を言われる。
「別にこれは部屋の片付けを手伝った礼だからいいって」
「今度暇な時は私にお礼をさせて下さいね」
「お礼ってあのクマのか」
「はい、だから今度センパイの暇な時教えてほしいので連絡先交換しましょ」
「別にいいけど」
俺は携帯を取り出し、椎名胡桃の連絡先が登録される。
「それじゃあセンパイまた今度」
椎名胡桃はそのまま、走り出して消えて行ってしまう、まだ夕陽が登り始めたばかりなので、あいつ一人でも平気だろうと思い、俺も家に帰る。
カシャカシャカシャ。
「フフ、センパイの連絡先と隠し撮り写真ゲット。さーて今日も家に帰って、お姉ちゃんにセンパイの自慢しちゃおーと、またお姉ちゃん悔しがるだろうな」
椎名胡桃は帰ったと思いきや電柱に隠れ、隙間から家に帰る彰人を盗撮していた、彰人は何も気付かずにそのまま家に帰ってしまう。
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