第8話幼馴染と再会父さんの昇進が決まる

 

「にいに帰ってくるの遅ーい」


  帰宅して早々久遠は頬っぺを膨らませ玄関に待機していた。


  着替える暇もなく久遠にリビングへと連行される。


リビングには普段は帰ってくるのが遅い父さんさえいた。


「あれ父さん今日は早いんだね」


「おお彰人……!! そうだ今日はたまたま仕事が早く終わってな。それに今日昇進の話まで舞い込んできたんだぞ」


「昇進!? それすげぇじゃん!!」


「で、今日はお祝いでお寿司でも取ろうって話してたのに…… あんたがいつまでも帰ってこないから電話した訳。」


「ごめん、ごめん翔也とゲーセンで遊んでてさ」


「ごめんくださーい」


「あら、やだこんな時間に誰かしら?」


「寿司はまだ注文もしてないし、母さん悪いが出てきてくれないか、俺が寿司を注文しておくから」


 母さんは父さんに言われるがままリビングから玄関の方へ向かう。


「やっぱぐり寿司かがっぱ寿司か」


「金のさら!! 金のさらがいい!!」


 父さんが寿司の店で迷う中久遠は高級寿司の店を騒いでいた。


「えっ!? あの霞ちゃん。まあ大きくなったわね」


 玄関の方が騒がしい、父さんも気になったようだ、俺は玄関の方に顔を出す。


「あっ!! 久しぶり彰人君」


「誰?」


 こんな美人の知り合いなんているわけない、誰と答えると母さんに頭を引っ叩かれた。


「あんた思い出しなさい。小さい頃引っ越した堺霞ちゃんよ、ほらあんた達よく遊んでたでしょう」


 言われて思い出した、小さい頃約束した女の子でおさななの堺霞、だがまさかこんな美人になって再会するとは。


「それでどうしてこんな夜遅くに」


「今日引っ越しが終わって、本当は学校に入学する前に終わると思っていたんですが、少し長引いてしまって。」


「学校ってもしかしてこの近所の高校かしら」


「はい、そうです」


「だったらあんたと一緒ね、近辺にある高校なんてあそこしかないから」


「わあ…!! すっごい偶然じゃあ彰人君もあの高校に?」


「まあ一応……」


「あんたもっとはっきり答えなさい。そんな小さい声じゃ霞ちゃんも聞こえないでしょう」


 痛い、母さんそんな強く背中叩かないで。


「私そろそろ帰ります」


「もう帰っちゃうの……? 折角ならゆっくりしていってもいいのよ」


「いえ、お父さんの昇進が決まったんですよね、そんな長居なんて」


「あらよく知ってるわね」


  母さんのこの反応まだ近所の人達には話してないようだ、それもそうか父さんの昇進も今日決まったんだから。


「さっき玄関の前で聞こえました」


 俺のあの声か、それなら当然知っているに決まっている。


「また今度母と共に挨拶に伺わせてもらいますので」


「それは楽しみにしてるわね、ほら彰人送ってあげなさい」


「ええ!? なんで」


「女の子一人こんな暗い中、歩かせるなんてできないでしょ」


「そんな結構です……!! 迷惑をかけてしまいます」


「いいの、いいの。送っていかないとあんたの寿司ないわよ」


 それは脅しか母さん!? 仕方ない俺は制服のまま着替えていなかったが靴に履き替え、玄関の外に出る。


「それでは失礼します」


 遅れて玄関から外に出てきた、俺と堺霞は一言も話さず歩き始める、だが沈黙を破ったのは堺霞の方だった。


「彰人君、大きくなったね」


「そりゃそうだろ、あれからもう十年近いんだから」


 堺霞は俺との身長を比べる。


「そっかもうそんなに時がたったんだ」


「なんで今頃こっちに帰ってきたんだ」


「なんでだと思う」


 堺霞は前に出て腕を重ねる、いやこっちが質問したんだからちゃんと答えてくれよ。


「手紙書いてお前に送ってたの知ってるか」


「うん……知ってる」


「だったらなんで返事の手紙をくれなかった?」


 俺は堺霞が引っ越したあと一ヶ月に一回手紙を送っていた、だが堺霞からも返事がないまま一年が過ぎて俺から手紙を送るのを止めた。


「手紙を読んでると彰人君に会いたいって思いが強くなってくるから、私から返事の手紙は出したくなかった」


「でも結局あの約束は口約束だったんだろ」


「口約束なんかじゃないよ、私は今でも覚えてる」


  どうやらお互いあの時の約束は覚えるようだ。


「ここでいいよ、もう家そこだから」


  結局約束を覚えていた事しか知れず堺霞と別れてしまう、家に帰ると、玄関前で金のさら、がっぱ寿司の宅配員と出くわしてしまう。


「こちら城田様のお宅で間違いないでしょうか?」


  宅配員はお互い困惑気味に聞いてくる、まさか二つの寿司屋から注文していたとは、夢にも思うまい。


  だがこの後グリ寿司の宅配員まで来て場は凍りついた。


「いやー迷ったから全部の寿司屋に注文したが、まさかあんなに空気が悪くなるとは、はっはっは」


  父さんはビールを飲み、完全に酔っ払っていた


リビングには父さんの笑いが響く、母さんは溜息を吐き、久遠は届いた金のさらの寿司を勝手に食べ始めていた。


「うう、昇進するって言ったってまだ決まっただけでしょう。今月の食費が」


「にいにも食べなよ? 美味しいよ」


  本当に食べていいものか、母さんを見る。


「彰人も食べていいわよ、父さんの小遣いとビール代を減らせばまだギリギリ生活できるわ、こうなったらヤケ食いよ」


 父さんは酔っ払って理解できていないが、これも全て父さんが悪いと心の中で思い、金のさらの寿司を一口口にする。


  これが人の金で食う飯の味かとしみじみ思い、翌日父さんは酔っ払って寝てしまい寿司が食べらなかった事を後悔して、会社に向かって行ったと朝から母さんに聞いてしまった。


  寿司の殆どは久遠がぺろりと食べてしまい、普通ならありえない事を久遠は達成していた。

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