第7話デカいクマあざとい女子椎名胡桃

 

「遅いぞ彰人、一体何やってたんだ」


「悪い、悪い、ちょっと演劇部の劇を観ててさ」


「演劇部の劇ね、まあいいや早く行こうぜ」


  翔也は先に校門で待っていた、演劇部の時間が少し他のクラブ活動よりも時間が過ぎてしまい、翔也を待たせる事になってしまったようだ。


  すぐに翔也と共に約束していた駅前のゲーセンに着くと、放課後なのか他の学校の生徒や仕事をサボっているスーツを着た大人がアーケードゲームや音ゲーなどで遊んでいた。


「おーい彰人、これしようぜ」


  翔也は対戦格闘ゲーム略して格ゲーの席に座る。


「はいはい、ちょっと待ってろ今両替してくるから」


「おーう」


  昨日の対戦で俺がゲーセンを奢ることになっていたのだが、財布の中身を見て百円玉が切れていた事に気付いて、翔也を待たせて、急いで両替機の所にいく、一人も並んでいなかったので、すぐに百円玉に両替する事ができた。


「だから金返せって言ってるだろ」


  両替機の横のクレーンゲームに俺達が通っていた中学の後輩らしき男子生徒が女子生徒の首を掴み脅していた。


「そんなの知りません、誰かと勘違いしているんじゃ」


「ああ、その顔見間違えないぞ、お前に五万も貸してお前は俺の前から消えただろ。俺達付き合ってたんじゃないのかよ」


  脅していた男子生徒は急に泣き出し始める、近くにいた俺と他のゲーセンの客が騒然としてしまう。


「おーい彰人、両替にいつまでかかってるんだ?」


  翔也の声が聞こえてくる。


「悪い今行く」


  関わる前にここから離れよう、うんあれは絶対関わったら面倒くさいと思い、両替機から離れ翔也が向かい側の対戦格闘ゲームの席を取ってくれていたおかけげで、二人で対戦する事ができた。


「くそ……!! お前デッキ作るのは下手くそなのに、なんでこんな格ゲーは上手いんだ」


「コツだよコツ、コンボを頭にいれて、それを素早くボタンで操作するとほら」


  格ゲーの対戦では翔也に負けた事はそんなにない、たまに俺が操作ミスして壁に追い詰められて負けたり、必殺技を避けられなかったりして負けるぐらいだ。


「うへぇ気持ち悪、お前どんな指してんだよ」


  対戦が終わって翔也はこちらの席にくると、俺がおさらいの用に先程決めたコンボを繰り出す。


「おっ? 相手の方避けたな」


  翔也の対戦が終わってすぐニューチャレンジャーという文字がディスプレイに表示されていたので始まってしまった対戦、だが翔也に決まったはずのコンボを対戦相手は避けて、逆に俺が使ってるキャラクターにそのコンボを繰り出してきた。


  だが何十とこのコンボを繰り出している、俺が避けられない筈があっこいつ!? 必殺技まで。


  コンボを避けた次の瞬間対戦相手は必殺技のゲージが溜まっていて、その必殺技を使ってきた、当然避ける事は不可避、俺の使っているキャラクターは倒され次のラウンドに移行する。


「おいおいもしかして、俺の時は手加減してたのか、さっきとは段違いの強さじゃないか」


 翔也には悪いがその通りだ、先程よりも素早くボタンを押し、プロでも至難の技を相手のキャラクターに命中させラウンドを制覇、次が最後のラウンドだ。


「セーンパイ、こんな所で何やってるんですか」


 突如俺の目は後ろから塞がれてしまう、翔也じゃこんな声を出せないはず、出していたとして気持ち悪いだけだ。


  だが今の俺は目を塞がれてもボタンだけで操作する事が可能な訳ない、一瞬でユールーズと言うゲームの音声が聞こえてきた。


  これも全て今目を塞いで後ろに立っている女のせいだ、俺は立ち上がり犯人に振り返る。


「久しぶりだな、椎名」


「はい、センパイだけの椎名胡桃ただいま見参しました」


 椎名胡桃は敬礼のポーズをとっているが、翔也は唖然と口を開いている。


  駅前のゲーセンと聞いて嫌な予感はしていた、昨日翔也が見つけた可愛い中学生の女子とはこいつの事だろう。


  しかもさっき男子生徒に脅されていたのもこいつだだから関わらずにいたのだが、どうやら見つかっていたようだ。


「さっきは酷いですね、私だと気付いていて無視するなんて」


「俺はお前とは特に関わりたくないからな」


「うう酷い……センパイ酷すぎます……」


  前よりも嘘泣きは上達したらしいが、中身はそのままのようだ。


「おい彰人酷いじゃないか、ごめんね泣かないで」


「はぁぁ……誰ですかあなた? 私はセンパイと話してるんです、邪魔しないでください」


 このキツい物言いも椎名胡桃だ、翔也残念だったなそいつはそういう女だ、気に入った相手には媚びるが気に入らない奴はとことんキツい言葉責めで何人もの男がこいつの毒牙にかかってる。


「そう言うな、こいつは俺の中学からの友達で田澤翔也だ」


「田澤翔也って確か中学のサッカー大会でエースとして活躍していたあの田澤翔也さんですか!?」


「おっ!? 俺の事知ってるの!!」


「はい、私ぃサッカーとか疎いんですけど……田澤翔也さんの名前なら聞いた事があって」


「それは嬉しいな」


「少し田澤さんにお願いしたい事があるんですけど、いいですか?」


「なになに。俺にできる事ならなんでもしてあげるよ」


「ちょっろ……。 えっと入口にクマのぬいぐるみあるじゃないですか? それを取って欲しいな」


「任せてくれ、彰人金貸してくれ」


 今日のゲーセンは翔也との約束で全部奢る事になっている。


「私他人に借りた、お金じゃなくて田澤さんのお金で取って欲しいな」


  翔也は両替機の方まで急ぎ、ゲーセンの入口にあるデカいクマのぬいぐるみを必死で取り始めた、翔也それ取れないの分かってないのか。


 完全に椎名胡桃の術中にはまっている翔也を哀れんだ目で見つめた。


「セーンパイやっと二人きりになれましたね!!」


「あれ取れないの分かってて、翔也に頼んだろ」


「何の事でしょう……? それよりセンパイこっちこっち、久しぶりに会った記念にプリクラ撮りましょプリクラ、勿論センパイの奢りで」


「誰があんなの撮るか、それよりもまだあんなの続けてたのか?」


「あんなのってさっきのあの事ですか? あれは別に気前よくお金貸してくれる先輩を見つけただけで……私付き合ってるつもりなんてなかったですから」


「いい加減やめとけって前にも言っただろ」


「センパイに指図なんてされたくありません、あーあ今日はもういいです。久しぶりにセンパイを見つけたからもっと楽しめると思ったのに」


  椎名胡桃はゲーセンの入口をすたすたと歩き翔也の横を通り過ぎる。


  翔也は翔也で椎名胡桃がゲーセンに出るのを気付いてその後を追いかけていってしまう。


「あいつ一回残してんじゃん」


  ゲーセンの入口に出ると翔也が取ろうとしていたデカいクマのぬいぐるみはあと一回で落ちそうな気がして、俺もチャレンジすると、本当に落ちてしまった。


「おめでとうございます!!」


  するとゲーセンのスタッフが近づき声をかけてきた。


「こちら持ち帰るのと郵送がございますが、どう致しましょう?」


「じゃあ郵送で」


  こんなデカいクマのぬいぐるみうちに置いても邪魔なだけだ、まあ久遠なら喜んでくれそうだが、俺は自分家の住所ではなく別の住所を書き込む。


「郵送って手紙とかも一緒に送れますか」


「はい構いませんよ、もしかして彼女さんにですか」


「そんなんじゃないです」


  俺はゲーセンのスタッフに顔をニヤニヤとされる中違うと答える。


  手紙に一言だけ書き込み、ゲーセンのスタッフに渡して、格ゲーの席に置いていたバッグを取りに戻る。


席には椎名胡桃と同じ中学生の制服を着た女子生徒が格ゲーのストーリーモードを挑戦中のようだ。


「これあなたの?」


「あっすんません邪魔ですよね」


「うん邪魔、すぐにどけて」


  キツい物言いに少しイラッとしてしまった、だが格ゲーの腕は悪くない、それにこの動きどこかで見覚えが、だが思い出す前に携帯に着信が入った、母さんからだ。


「あんた今どこにいるの!? 早く帰ってきなさい!!」


  母さんからの怒鳴り声に携帯の時間をみてどうやらもう七時をとっくに過ぎていたようだ、急いでバッグを背負い、帰ろうとする。


「ちょっと待って……」


  先程の女子生徒に帰る所を邪魔される、すると女子生徒は翔也の忘れていったバッグを指差していた。


「持って帰れと」


  格ゲーをしながらコクコクと頷く女子生徒、仕方ない明日学校で翔也に返せばいいか、ここに残していけば悪い奴に取られたりするかもしれないし、翔也のバッグはそのまま持ってゲーセンから出て急いで家に帰宅する。

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