第6話演劇部の演劇 篠崎雪泉の演技は想像以上

 

  演劇部の見学の為に体育館に来たのだが体育館は女子生徒が数十人集まっており男子生徒は俺だけのようだ。


  あれ? あの金髪ヤンキー女子も演劇部の見学に来たのか、俺の後に体育館に入ってきたのは隣の席の金髪女子ヤンキーだった。


  体育館に集まっていた金髪女子ヤンキーを除く女子生徒達は全員そわそわと壇上を見つめていた。


  するとクラブ活動説明の時同様体育館は暗くなり壇上には照明が照らされる。


「諸君今日は演劇部の見学に来て頂き感謝する!!

私は演劇部副部長のアレックス忠、父はアメリカ人で母は日本人のハーフだ。」


  壇上には仮面舞踏会でつけるようなマスクを顔につけた上級生が現れる、だが女生徒達からの拍手は起こらない。


「どうやら君達の目的は私ではなく彼女らしいな、では紹介しよう演劇部部長王子道南」


  登場する予定だったのだろうだが照明を照らしている場所にはあの人の姿は無く、上級生の男子生徒は焦っていた。


「ははは……王子道さん出番ですよ!!」


  すると脇から制服を着た他の上級生の男子生徒が現れ、耳打ちするどうやら酷く焦っているのか上級生の男子生徒はつけていたマスクを外して、暗くなっていた体育館も明るくなる。


「どうやら、今日は演劇部部長の王子道さんは用事があって来られないらしい、なので私が代わりに演劇部の見学をさせてあげよう」


  上級生の男子生徒は壇上から降りて体育館にいた全員に話す、話を聞いた女子生徒は全員体育館から出て行ってしまう。


「散々すっね」


  俺はかける言葉がそれしかなかった俺と金髪女子ヤンキーが残っているのを上級生の男子生徒は目を輝かせて見てくる。


「君達は残ってくれるのかい……!!」


「まあ見学に来たし、入るかどうかは別ですけど。」


「同じく。」


「今はそれでいい、それじゃあまずは演劇部を紹介しよう。」


  上級生の男子生徒は手をパンパンと叩く、ゾロゾロと壇上には体育館で怪人の役をやっていた人達と他につなぎを着ている男子生徒と女子生徒数人が壇上に上がってきた。


「こっちは小道具や舞台装置等を作る美術担当、こっちは私と部長がやっている演劇の役者担当」


  上級生達は俺と金髪女子ヤンキーに手を振ってくる。


「それで君達の名前は。」


「俺は城田彰人です。」


「私は篠崎雪泉。」


「二人ともいい名だ、先程も言ったが、私は父がアメリカ人で母が日本人のハーフアレックス忠だ今日一日よろしく」


「はい、よろしくお願いしますアレックス先輩」


 アレックス先輩と口にした時、アレックス先輩は涙を流した。


「どうしました……?」


「いや他の同学年や後輩は忠先輩とか忠とか呼んできて、アレックス先輩なんて初めて呼ばれたから嬉しくてね。」


  アレックス先輩は流していた涙を拭う。


「あれ? これだけ僕の予想じゃもっと多いかなって思ってたんだけどな。」


「王子道さん早く来て、それにさっきのは一体なんだい。」


「ごめんごめん、今年こそ僕目当てじゃなくて純粋に演劇を楽しませてくれそうな後輩を期待してたんだけど、どうやら今年もあまり期待はできないようだね。」


  アレックス先輩は体育館の入口でさっきの格好とは違い制服に着替えていたあの先輩を見つけすぐに呼ぶとアレックス先輩の横まで走ってきた。


「へー、君は確かあの時の。」


「ん? もしかして二人は知り合いなのかい。」


「いや、その節はどうもおかげ様で合格する事ができました。」


「いや僕もあの時はたまたま拾ってあげただけだからね、そんなお礼を言われる程じゃないよ。」


  壇上の演劇部の上級生、アレックス先輩、隣にいる金髪女子ヤンキー、さすがに失礼だな篠崎雪泉は何も知らない。


  だってあの時の事は俺と目の前にいる王子道南先輩しか知らないのだから。


  まだ俺がこの高校に受験にきた時、うっかりと受験票を落としてしまい、その日は風が強く吹いていて受験票が飛んでいってしまったのだ。


  その時たまたま受験票を拾ってくれたのが王子道南先輩だったのだ、その時は受験も迫っていた為お礼も言えずに立ち去ったのだが、ようやくお礼が言えた。


「でもよかったよ合格してたんだね、名前は受験票を見て知っていたが、いくら僕でも受験者の合格発表まで確認しにいくのは苦労してしまうからね。」


「おーい二人の世界に入るな、これから演劇部の見学を始めるんだから。」


「悪かったね、それで見学に来たのは君とそちらの女子生徒一人なのかい。」


「ああ、誰かさんが私に指揮をとらせて、王子道南は来ないと言わせたからね。」


「本当に悪いと思ってるよ、でもこれでいいんだ演劇とは目当ての役者に会う為じゃなく、演劇そのものを楽しんでもらうのが演劇というものと僕は思ってる。」


「はいはい、それで二人には美術担当とこの後控えている演劇の舞台装置などを見せようと思っているのだが。」


「二人とも実はこの後に僕らの演劇部が近くの幼稚園の児童達を体育館に招いて軽い演劇を見せるのだけど、どうかな参加したいかい?」


「おい、二人とも見学にきただけだぞ、そんな簡単に。」


「私は別に参加してもいい。」


「君はどうだい?」


「俺はそんな参加するなんて……大して役に立てないですよ。」


「そうか、それは残念だ、だが演劇は三十分程で終わるよければ見ていくだけでも。」


「それじゃあそうさせてもらいます。」


「じゃあ忠君、彼を二階のあそこに連れて行ってあげてくれ、それと彼女にはあの衣装と台本を。」


「本当にいいのか王子道さん?」


「物は試しって言うだろ。」


  アレックス先輩はため息を吐き、篠崎雪泉は他の小道具担当の上級生女子生徒達に壇上へと連れて行かれる、俺はアレックス先輩の案内で体育館の二階にあるギャラリーに着く。


「立ち見で悪いね、でも演劇は悪いようにはできていない、よければ最後まで鑑賞してくれると私も嬉しい。」


  アレックス先輩はその言葉だけを残し、壇上で今着々と舞台装置やら小道具の準備がされていた。


  全ての準備が終わった頃、体育館の入口から幼稚園の先生らしき人と幼稚園の児童達が入ってきた。


「皆こんにちは、私の名前はアレックス忠、今日は君達に楽しんでもらうよう、最高の演劇をご覧にいれよう。」


  体育館は既に暗くなっていて、俺の横では照明係の上級生男子生徒がアレックス先輩に照明を照らしていた、アレックス先輩は壇上の階段を降り、他の照明係の上級生達がアレックス先輩を追う。


「今宵は小さき人間達が集まっているな、我が眷属よ。」


 あれ、あれって篠崎雪泉じゃないか!? 篠崎雪泉は制服から吸血鬼が羽織っていそうなマントを羽織って、壇上に登場したアレックス先輩が篠崎雪泉に何かを欲しっていた。


「我が主よ血を、眷属の私に血を分け与えてください。」


「しょうがない眷属め……ほら。」


  篠崎雪泉はアレックス先輩に首筋を差し出す、アレックス先輩は差し出された首筋を噛む、篠崎雪泉の首筋からは赤い液体が漏れ出る。


「吸血鬼やっと見つけた…… お前に殺された母の仇今こそ決着を着ける。」


「まさかこんな所で再会するとは、本当に目障りな祓魔師だ。」


  遂に最終決戦のようだ、これまで起こった出来事を簡単に説明するなら、これは祓魔師と吸血鬼の対決を描く演劇だった。


  祓魔師を演じるのは王子道南先輩、吸血鬼を演じているのは篠崎雪泉だ、祓魔師の王子道南先輩は昔に母親を殺され、その恨みで祓魔師になりずっと吸血鬼を探していた。


  だが吸血鬼の篠崎雪泉はそんなのを気にせず眷属と共に祓魔師から逃げ隠れ愛し合う大まかなストーリはこれだ、そして遂に祓魔師の王子道南先輩と吸血鬼の篠崎雪泉が対峙したのだ。


「ふん祓魔師とはこの程度だったのか、もっと骨があると思っていたのだがな。」


「それはどうかな、君の弱点は分かってる、あの眷属だろ……?」


「それを知った所でどうする、あいつは今我の帰宅を今かと待っている。」


「これを見ても本当に待っていると思うのかい。」


 あれはアレックス先輩が演劇が始まって首にかけていたペンダント、それを壇上へと捨てる王子道先輩。


「お前どこでこれを。」


  すぐに捨てられたペンダントを篠崎雪泉は拾い王子道先輩に聞く、それが篠崎雪泉の油断だった、王子道先輩は篠崎雪泉の首を小道具の剣で切った、篠崎雪泉はその場に倒れる。


「母さんやったよ、遂にあの吸血鬼を倒したんだ。」


  王子道先輩は首にかけていたロケットペンダントの中身を開く。


「なんで!? なんで!? 母さんが今殺した吸血鬼の顔に似てるんだ。」


「思い出した、あなた私とあの眷属の子供なのね。」


「そんな訳ない、僕は、お前と眷属の子供なんかじゃ……」


「よく聞きなさい、人間味方をしていても結局騙され裏切られる、私もそうやって人間に騙され数百年前なりたくもない吸血鬼にまでなってしまった、あなたはそうならないようになりなさい。」


「母さん、ねぇ起きてよ母さん。」


  王子道先輩が篠崎雪泉を抱いた状態で壇上の幕が下りた。


  体育館からは幼稚園の児童と先生達からの喝采や拍手などが響き渡った。


「どうだったかな……? 僕達の演劇は。」


「想像以上に面白かったです。」


「それは嬉しいね……!! それに彼女中々役者としてよくできている、十分やそこらで台本の台詞を完璧に覚えて、動きまで僕が想像する以上だった。」

 

  王子道先輩が言う彼女とは篠崎雪泉の事だろうか、確かに篠崎雪泉の演技は中々のだった、とても今日覚えた演技ではないような気がした。


「興味があったら是非演劇部に入ってもらえるかい。」


「考えてみます。」


  その場しのぎの言葉、だが王子道先輩はーーアレックス先輩と同じようにーー目は輝いて、俺の手を取る。


「それじゃあまた時間がある時に話でもしよう、僕が演劇についてもっと詳しく説明してあげるよ。」


「王子道さーん? そろそろ片付けを手伝ってくれないか、もうすぐバレー部の時間だからさ。」


「ああ今行くよ、今日は来てくれてありがとうね城田彰人君。」


  王子道先輩はよく童話やドラマなどで見る、手の甲にキスをして今壇上で片付けをしている演劇部の上級生達の所に向かって行く、俺は翔也と約束していた校門まで向かう為体育館から出ていく。

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