第2話
5人目の恋人 2
ない・・・・紙袋がない・・・
講義を終えたオレは、机の上に広げたノートや教科書を仕舞っている最中、ある事に気がついた。
ミタさんから貰ったクッキーが無い・・・・
一通り鞄の中に仕舞い込んだ机の上は、何もない状態。
という事は、すでに教室に来た時には手元になかった・・・・。
「どうしたの?アキ」
無くし物をして悶々としていたオレに、いつの間にか近くに立っていた親友のノック。
そこで教室内は既に移動したクラスメイトで、ガラガラな状態だと気づいた。
ノックはそのまま空いている前方の席に座り、オレの顔を不思議そうに覗き込む。
「今日は遅刻して来たかと思えば、そんな浮かない顔してさ~~~何かあったの?」
「・・・・・・・・」
遅刻と浮かない顔は別件だが、遅刻した理由を思い出せば・・・・再び蘇るフツフツとした怒り。
「その顔・・・もしかして、教室に来る途中でバンクに会った?」
「その名前を出さないで」
「そんなに、嫌い?」
「ノック・・・あの時、隣に居ただろ?あいつがオレに喧嘩を吹っかけて来たんだぜ?」
「うん・・・居たけどさ」
端切れの悪いノックに、当時の事を思い出したオレはヒートアップする。
言葉使いが乱暴になってしまってるのは自分でも解るが、もう止まらない・・・
「一昔前にヒットした日本アニメと同じ名前だからってだけで、あいつはオレを馬鹿にしたんだぞ!?初対面の!!それも先輩のオレにだ!!タイって上下関係厳しいんじゃないのかよ!それとも金さえ持ってればそんなの関係ねぇのか!?そんなヤツと仲良くなんてなれる訳ねぇ~し!なによりあのいけ好かない顔見るだけで・・・・」
呼吸を忘れて話し続けたオレは、一度間を置いて深呼吸。
そして・・・・
『虫唾が走って、葬ってやりたくなるんだよ!!』
ガンと拳を机に打ち付け、日本語で叫ぶ。
だがこれだけでは、気持ちは治まらない。
「去你的!!va te faire foutre!!!」
ガン!ガン!とこれでもかと拳を打ち付け、中国語とフランス語で罵る。
そして最後に・・・
「fuck y「stop!!!途中まで何言ってるか解かんなかったけど、それは解った。それは言っちゃ駄目、アキの口から聞きたくない」ううぅ~~~」
禁止用語を最後まで言い終わる前に、ノックの手がオレの口を塞いだ。
よって不完全燃焼のまま、燻った気持ちが残る。
「どうしたの・・・アキ。3ヶ月前とは別人みたいだよ・・・・」
ゆっくり外されるノックの手。
そして本心から心配しているような目で、オレを見てくる。
そんな彼の言葉に、胸がチクッと痛んだ。
「そんなに別人?」
「ん~・・・僕達に対してはまぁ変わらないけど。あのバンクの事となると、別人に豹変するでしょ?それにさっきみたいに、大声張り上げたり汚い言葉なんて前まで使わないし」
別人じゃなく・・・・ほんのちょっとの猫かぶり。
いい顔してれば、物事はスムーズに進む。
タイで生活するって決めた時から、そういう生き方をした方が問題も少なくて済むと思ったからだ。
そりゃ誰かの役に立ったり、向けた優しさが返ってくるのは嬉しいと感じる。
でも時には、2才児のポーみたいに「嫌だ」と突っぱねたい時もあるし、「面倒くさい」「うざい」「不味い」「汚い」って感じた感情を素直に出したい時はある。
それを抑え込んでいた最初の頃は多少ストレスに感じた事もあったが、2年も経てば慣れたし今ではそれほど負担に思わない。
だけど一番仲のいいノックにまで、猫をかぶり続けていたのは正直心苦しい。
それでも・・・・一度被ってしまった仮面は、中々外せない。
まぁ・・・あの男のせいで、簡単に外れてしまったけどな・・・・
そんなオレの猫かぶりなんてまだ可愛いものだ・・・ただ、バンクに関する時だけ過剰な程に感情が表に出るぐらい。
「もう・・・・そんな顔しないでよアキ。別にさっきみたいに、感情を表に出すのが悪いって言ってるんじゃないよ。まぁ声は抑えてほしかったけど・・・・」
心配げに顔を覗き込むノックに、そんなに自分はひどい顔をしてたのだろうか・・・それで確認出来るわけがないと解っていても、思わず自分の顔に手を当ててしまう。
そんなオレの肩に、ノックの手が添えられる。
そして、まるで慰めるように優しい動作で擦られた。
「ただ・・・今まで僕には本音で話せてたのか不安だったんだ」
「ノック・・・・」
彼の言葉に、胸がジーンと暖かくなる。
仲のいい友人は他にいるものの、親友だと思っているのはノックだけ。
彼とは一年の時から仲が良かった。
高校生の弟が居る母子家庭で、自分の学費だけはと家庭教師のバイトをしている。
とても家族想いで、人柄がいいところがオレは好きだった。
バンクの事で発狂するオレを見放さず、心配までしてくれるそんな彼に・・・・まだ他にも隠している事がある。
それは、オレの家庭の事情。
兄弟が居るとは話しているが、12歳の妹だけしか明かしていない。
他に9歳のフランス人のハーフと、6歳のアメリカ人ハーフと、2歳のタイ人ハーフの弟達の存在は伏せたまま。
彼の人の良さなら、話しても受け入れてくれるだろうが・・・・その事で気を使ったり、心配されるのが嫌なんだ。
彼にも家庭の事情の悩みがある、だからそれ以上に余計な事で頭を悩ませたくない。
「ノックには感謝してるよ。君にはいつも本音だったし、不満に思うことも、腹が立つことも一切ないから」
「ん・・・解った。だけど無理はしないでね」
「うん」
「じゃ、僕達もそろそろお昼食べに行かないと」
「そうだね」
今日の講義は終わった。
いつもの様に、昼食を食べながら雑談して解散。
だけど今日は、図書室に召喚させられる・・・・
レポートで頭を悩ませているクラスメイト達から、まだ連絡はないがそれも時間の問題。
さっさと工学部の食堂へ移動し食事を取ろうと、ノックと共に誰も居なくなった教室を出る。
「そうだ、アキ。お願いがあるんだけど・・・」
ガラガラの廊下を肩を並べて歩く最中、ノックは言いにくそうに話を切り出してきた。
「何?レポート出来てないとか、珍しいね」
「レポートはもう仕上げたよ。違うお願いなんだけど・・・」
「何?」
「どうせ、今日は図書室に居るんでしょ?」
「そうなるね」
「ならさ、今日は家庭教師のバイトが入ってるんだけど・・・15時ぐらいにちょっとだけ顔を出してくれない?」
以前もそんなお願いされたな・・・・
ちょっと顔を出してと言いながら、その通りにしたら飲み物をご馳走になり、飲み干すまでその場に居座された。
「それってさ、勉強の邪魔になるだけでしょ?」
「ううん。全然」
「・・・・・・・・何が目的?」
「はぁ、正直に話すけど。アキが紹介してくれる生徒は、元々は君に教えてもらいたかったんだよ」
「うん。だからオレは無理だからって、ノックに紹介したでしょ?」
「そう。彼女達が断らなかったのは、それでも僕と仲良くしてれば、君に近づけるからって下心があるんだよ」
まぁそんな感じだとは思った。
以前のお願いを聞いた時、やたらと生徒の子に話しかけられたし・・・・
「僕としてはバイト代が出るから、凄く助かってるよ。最初は下心があったとしても、実際成績が上って真面目に続けてくれる子もいるからさ。だけど中にはさ、そうじゃない子も居るんだよ。会わせてくれって、毎回言う子がね・・・」
そんな邪道な考え持つ相手なんか、もう相手にすんな!と言ってやりたいものの、彼に押し付けてしまってる部分もある。
そこはちょっとオレも悪いなぁ〜と思ってるし、たった数分我慢すれば済む話だ。
「解ったよ。顔を出す」
「ありがとう!!じゃ、アキの好きなグリーンラテ用意しとくね」
「うん」
「特大サイズ」
「どんだけ、引き止めるつもり?」
「へへへへ」
そうこうしている内に、学生が賑わう食堂に足を踏み入れた。
広範囲まで大きなテーブルが設置されている食堂は、まだ余裕を持って座れそうだ。
「じゃ、僕買ってくる」
「あっ、オレも今日は持参してないから」
いつのもなら、お弁当を持参しているオレは先にテーブルを確保するのだが、今日は自分の分を詰める時間がなかったので手ぶらだ。
「そんなに朝大変だったの?・・・遅くまでレポートしてたとか?」
「うん、まぁね」
「何食べるの?」
「味が薄くて、辛くないもの、でもお腹にたまるもの」
「チキンライスにしたら?」
「そうする」
「じゃ、お願い聞いてくれたから僕が奢るよ。先に席に座ってて」
「いいよ、自分で払うから」
「いいのいいの。たまには奢らせて」
裕福な家庭でもない彼に、奢られるのは気が引ける。
だけど、相手がこういう気持ちの時はあまり遠慮しすぎると、気持ちを蔑ろにする事にもなる。
ここは甘えて、お返しできる時にすればいい・・・・
オレは「じゃ、ご馳走になります」と彼に伝え、空いている席を探し中庭がよく見えるテーブルを確保した。
ノックを待っている間の空白の時間、オレはただ頬杖をついて中庭を行き交う人を眺める。
何も考えてないようで、頭の中はこれからのスケジュールを10分単位で組み立てる。
何がなんでも16時には図書室を出て、帰宅後は夕食の支度に取り掛かり、洗濯を取り込んだり、畳んだり・・・小学生組の宿題に・・お風呂に・・・・・下2人と遊んで・・皆を寝かしつけて・・・・それからオレの時間で~~。
あれやこれやと考えている中、パシャっと機械音が耳に届いた。
視線を音のする方へ向けると、こっちにスマホを向けていた女子生徒と目が合った。
慌ててスマホを下ろし目を逸らす彼女に、またかと呆れの溜息が漏れる。
「おまたせ」
ノックの声とともに、目の前に置かれた食事が乗ったトレイ。
スマホ女子を遮るように正面に座る彼に「ありがとう」と御礼を伝え、『いただきます』と日本語で述べてからスプーンを手にした。
「ねぇ、ノック」
「ん?」
「その会いたがってる子といい、オレの盗撮を勝手にSNSに上げる人達といい、オレには【恋人】が居るのに何でほっといてくれないのかな?」
「・・・・・・・・・・・」
「何で、黙るの?」
「アキはSNSしてないから、解ってないと思うんだけど」
「うん」
「その恋人が、存在しないじゃないかって噂もあるんだよ」
「ん?んん?オレが言ってるのに?」
「だって1年の時からそう言ってるけど、その相手の素性を一切口にしないよね?」
「いるの?その情報」
「最初の頃はね、同じ学校の学生だって噂されてたけど。そういう相手が近くに居た事もなかったでしょ?だから他校の生徒なのか、年上の社会人じゃないかとか色んな説が出てきたんだよ」
「オレの知らないところで、色々仮説を出さないでほしい」
「SNS見たら解るよ・・・・アキの恋人は誰?ってタグがあるから」
絶対見たくない・・・・
タイのSNS事情は正直慣れない。
タイに来た頃はアカウントを作ったが、スマホが無くても平気なタイプのオレには、発信し続ける事が出来ずに・・・アカウントを削除した。
どうせ今は、その【恋人】達との時間が惜しくてスマホなんて触る暇もないし・・・だからと言って自分の知らない所で、自分がネタにされているのは不快だ。
「今濃厚なのは、恋人が居ない説と、ウーシェ先生と付き合ってる説」
「!?なんで、そこでウーシェ先生が出るの」
ウーシェ先生は、担任の先生だ。
この大学を卒業し、教師となって戻ってきた30間近の男の先生。
「だって、ウーシェ先生アキにはちょっと甘くない?今日も遅刻してきたけど、怒りもしなかったよ?」
「それは・・・」
それは家庭の事情を知っているからだ。
だからオレには多少目を瞑ってくれているだけで、性別はこの際置いておいて、オレ達の間に色恋なんて一切ない。
だけど・・・そう周りに見られてるなら、身の振り方を考えないと先生にも迷惑が掛かるかもしれない。
「ないから。先生は婚約してるんだし、面白半分でそんな仮説立てるもんじゃない」
「僕は解ってるよ。アキは優等生だから、それで先生もアキに目に掛けてるんだろうし」
「そういう事だよ」
「けど・・・いい加減、僕にこっそり教えてくれない?会わせてとは言わないけど、せめてどんな人なのかさ」
不味いぞ・・・流石に付き合いが長いノックにも内緒にしてるのが、苦しくなってきた。
家族の事を伏せている以上、オレが言う【恋人】とは兄弟達の事だなんて言えない。
それなら、本当は居ない説が正解なんですと暴露してしまった方が、楽かもしれない。
「ええと・・実は・・・」
「アキ先輩っ」
本当の事を言おうとした矢先、リズムを奏でるように人の名前を呼ぶ声に止められた。
見上げれば、ニコニコ顔の男がテーブルの脇に立って居た。
それは、今朝も顔を合わせた人物。
あのバンク野郎といつも一緒にいる、オタだ。
オタがここに居るということは・・・・近くに奴もいる・・・・
そう予想するものの視界にも入れたくないので、その姿をわざわざ探すなんて馬鹿な事はしない。
「これ、落としましたよね」
そう言って、オタがトンとテーブルに置かれたのはピンクの紙袋。
やっぱり、あの時落としてたか・・・
馬鹿とぶつかった拍子に、落としたとしか考えられなかったもんな。
「ありがとう、探してたんだ」
「その・・・それで、ごめんなさいっ!」
「ん?何を?」
「実は、バンクが踏んじゃって」
「!?」
「わざとじゃないんです!」
わざとじゃなくても、友人がそれを弁解するのはちょっと違う気がする。
だからと言って彼にそれを言えず、せめて中身を確認しようと紙袋を手に取り開けると・・・・・可愛らしくラッピングされた透明の袋に、無惨にも原型がお亡くなりになったクッキー。
そしてもう一つ、商品として綺麗にラッピングされたカップケーキの焼き菓子。
「これ・・・・」
「せめてものお詫びの品です」
「まさか・・・・」
あいつが買ったんじゃないよな・・・
「俺っす」
「そうか。こんなに気を使わなくてもいいのに」
どこまでも尻拭いさせて、あいつに何でこんないい友人が居るかわからない。
今朝も彼が止めに入ってくれなかったら、もっと遅刻してたし。
悪友はオレの名前を「名前負け」してると言ったけど、彼は相当なオタクらしく「あのAKIRAと一緒っすね!めっちゃかっこいい」と褒めてくれた。
オタの顔に免じて、クッキーの件は綺麗サッパリガッツリ豪水に流してあげよう。
オレは精一杯に笑顔を作り、「ありがとう、いただくよ」とオタに笑い掛けた。
「かわっ!!じゃなかった・・・それじゃ、お邪魔しました」
何かを言いかけて止めた彼は、律儀に手を合わせ頭を下げると、そのままテーブルから離れていった。
向かった先はオレの後ろ・・・・なら振り返ると、あいつが居る可能性がある。
「凄くかわいいカップケーキだね、ちょっと見せて」
「猫だね」
手を伸ばしてきたノックに、カップケーキを手渡す。
白いホイップクリームで猫を型取り、チョコで出来た目と鼻がついている食べるのが勿体ないカップケーキだ。
「ふふふふ」
「何?笑ってるの?」
「アキ、猫みたいって言わ・・・」
そこまで言いかけたノックは、しまったという顔で口を閉じた。
「・・・何の話?オレが猫って何?」
「んぅ〜〜〜んぅんぅんぅ」
口を閉じたまま誤魔化し笑いをする彼に、またSNS絡みなのだと察した。
完全に知らなければ放っておくが、中途半端な情報を耳にしてはその先が気になるもの・・・
「ノック、怒らないから言って」
「・・・・バンク絡みでも?」
「何で、オレが猫なのとあいつが関係あんの?」
「ほら〜目が既に怒ってる〜」
「すぅ~~~・・・・・・ふぅ・・・・」
バンクの名前が出ただけで、どうも反射的に目が釣り上がるみたいだ。
気持ちを落ち着けようと、深呼吸。
そして無理やり笑顔を作り「で?」とノックに続きを促した。
「バンクと睨み合ってる時のアキが、猫みたいだって・・・・毛を逆立てて、尻尾を膨らませて・・・怒ってる感じ・・・て・・・怖い怖い、顔が怖いって」
ここは公共の場。
1年から4年までの生徒が居る中、テーブルに乗り上げて「誰が言った糞が!!名乗り出ろ!!!屋上から吊るすぞ!!」と叫ぶのは不味い。
発狂したい気持ちを飲み込み、ノックの指摘にもう一度顔に笑顔を貼り付ける。
じゃっかん頬が引きつる感覚がするが。
「最初はアキも笑顔で言い返してたでしょ?なのに最近、何も言わずに睨み合いじゃない?それが逆に猫に見えるみたいで・・・」
それは最初の時はまだ余裕があったから・・・年上だし、ここは大人の余裕をと思ってた。
だけど、苦手から嫌いに変化し、今では存在自体が疎ましくて滅んでほしいと思ってる。
そんな相手に口を開くのも嫌になって、なんなら殴り合いになってもいいぐらいに怒りゲージが溜まってる状態。
だけど自分から手を出すのは流石に社会的に不味い・・・・だから、向こうから手を出してくれるのを待ってる感じだ。
なに、中高生の時は体が大きい欧米人とやり合った。
華奢なアジア人というだけで虐めるカースト達を相手にするなんて、イヤイヤ期を突入した弟達に比べればまだ会話が成り立つだけマシ。
目にはチョキを歯にはグーを忠実に従っていれば、いつしか差別に対して同じ境遇のアフリカ系アメリカ人の友人達に囲まれる結果となった。
大きな黒人達に囲まれて歩く様は、宛ら芸能人を守るSPみたいだったと品妤は笑っていた。
色んな国で色んな体験をしたオレは、外交官の親が後ろにいようがバンクなんて怖くない。
いつでも、FIGHT!!と言われれば、やる気十分だ。
「ちな・・・ふ・・り・・が・・BLカ・・・・・だよ」
「ん?なんて?」
フツフツとした怒りを抑え込んでいた最中、ノックの言葉がハッキリ聞こえなかった。
「何でもない!」
「何、またオレが怒りそうな事?」
「アキ〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」
周りに響く程の声に、ノックに詰め寄ろうとしたのを中断する。
大きく手を振りながらスカートを靡かせて、こちらへ走ってくるのはクラスメイトのメイト。
「もう!電話鳴らしてるのに〜〜無視してるの〜?」
怒り顔のメイトは、バンと叩くようにテーブルに両手を置くと、ぐいっと顔を近づけてきた。
「あ・・・音消してたかも」
「レポート手伝ってよ〜。皆、待ってるんだから!」
「まだ食べ終わってないよ」
「なら、早く食べてっ」
それまでここで待つわと言いたげに、彼女はオレが座っている椅子の僅かなスペースに尻を押し込んでくる。
迎えが来たのなら仕方がない・・・ここは彼女の言う通りに早く食べようと、食事を再開した。
「ねぇ、後ろにバンク君いるけど。大丈夫なの?」
「シッ」
隣からの爆弾投下と、目の前で慌てて止めに入るノック。
だけどおしゃべり女子のメイトは、そこでは止まらないのは解ってる。
口に入れた物を咀嚼しながら、それ以上話すなと言う意味を込めて視線を向け首を振ってみせた。
「ねぇ、今朝の見つめ合う2人の写真UPされて。バンク君とアキは実は付きってる説でてたけど、あれってどうなの?」
ハ?イマ?ナンツッタ?
カツン・・・・
好奇心で輝く彼女の視線と、コンクリート床に金属がぶち当たる音が妙にクリアに耳に入る。
何故か周りの騒音は消え去り・・・オレの思考は完全にシャットダウンした。
続く
アキなのに「AKIRA」と同じ名前って事ですが、タイでは基本ニックネームで呼び合うという事で・・・・アキがニックネームだと思っておいてください。
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