第5話 大きさ比べ
「もうっ! パティ博士もトレイシーも勝手すぎます! ラディスさんは――」
真っ赤な顔でふるふると震えるヒジリアさんがぶっちゃけた。
「ラディスさんは私と結婚するんです!」
突然の告白。
いやプロポーズ。
…………は?
え? なにこれ?
「あらーヒジリアちゃん、それはちょっと無理な相談なんじゃないかしらねぇ」
「なっ、なんでですか」
「だって、ほらぁ」
むにん、という感じで胸の下で腕を組んで大きい胸を更に大きく強調するパティ博士。
「ヒジリアちゃんて胸小さいじゃない? ラディス君はあたしみたいに大きい方が好みなんじゃないかしらねぇ」
ダボッとしたローブ姿なのにこのボリューム感……。パティ博士は見事な巨乳だった。これは凄いとしか言い様がない。凄い。
「って、僕は一言もそんなこと言ってませんけど!」
「あはは、でもいくらラディス君でも貧「だから違いますってば!!!」」
博士の言葉を遮って、顔を真っ赤にして怒る僕。
「ラディス殿が巨乳好き……?」
トレイシーさんがなにやら呟き自分の胸に手を当てて大きさを確かめ、ほっとため息を漏らた。
「いい加減なこと言わないでください博士! 胸なんて関係ないですから! ラディスさんはそういう方なんです!」
いやヒジリアさんこそ僕の何を知っているというんだよ……。
「じゃあお尻の大きさかしらね? やっぱり男ってなんだかんだいってお尻の大きな女の子に魅力を感じるものだしね」
「お尻……!」
トレイシーさんがこんどは自分のお尻を確かめて、あからさまに顔を青くした。
トレイシーさん……見てる分には一番面白いな。
って、こんなことしてる場合じゃない!
「三人とも落ち着いてください。僕まだ事情がよく飲み込めてないんですが……」
「うふふっ。ラディス君ったら照れちゃって、可愛いわねぇ。思う存分実験してあ・げ・る!」
「照れてないし実験動物にもなりませんからね!」
この人の実験動物になんかなったら何をされるか分かったもんじゃない……そんな予感がする。だからこれだけは断固拒否だ!
「ラディスさんは私と剣の手合わせをするんです! そしていずれはその類まれなる血を我がジェニングス家に入れるんです!」
「ラディスさんは私のものです。みんさんは手を引いて下さいっ!」
「「「むきぃいいいいいい!!!」」」
なんなの、これ?
僕がこんなにモテるなんておかしい。
これ、何かの罠かな。実は僕は寝てる間に拉致されてて、これはドッキリだったりするのかな?
「あの、すみません。本当に状況がよく分からないんですけど」
「ラディスさん!」
うるうると涙目のヒジリアさんが僕に詰め寄ってきた。僕は思わず仰け反ってしまう。
「な、なにかなヒジリアさん」
「確かにいきなり結婚は難しいかもしれません。ですからまずは、執事から始めてみませんか?」
「……執事?」
「ラディスさんを我が屋敷の執事として雇いたいのです!」
「へえ、ヒジリアさんてどこかのご令嬢だったのか」
どおりで身なりがいいはずだ。
トレイシーさんが補足してくれた。
「ヒジリアお嬢様はジーン公爵家のご令嬢にして世界トップクラスの魔術師であらせられる才女なのです」
「へぇー」
感心する僕に、ヒジリアさんはスカートの端をつまんで令嬢っぽい挨拶をしてくれた。
「ヒジリア・ジーンと申します。今は自分で屋敷を構えております。ラディスさんにはそこの執事になっていただきたいのです。本宅の執事ではないのはご容赦いただきたく……」
「……え、ちょっと待って。僕、公爵家のお嬢様の執事にスカウトされてる!?」
「驚くことじゃないわよラディス君。暗算が早い執事ってのはなかなか使い勝手いいものだからね。まあ君はあたしの実験動物になるんだけど(はぁと)」
「それだけはなりません!」
このなかでパティ博士だけはありえない。
トレイシーさんも魅力的だけど、僕はいま無職だし、公爵家のご令嬢に執事の仕事を貰うのも悪くない。
というか仕事が欲しい。
「執事に、執事になります! 宜しくお願いします、ヒジリアお嬢様!!!」
と、いうわけで。
僕たちはヒジリアさんの脱出魔法で一瞬のうちにダンジョンを脱出したのだった。
パーティーに追放されたと思ったら早々に次の仕事が決まるとは。
ダンジョンに入った時には、まさかこんなことになるなんて思わなかったな……。
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