第2話 チートスキルで無双する(無自覚)

「……はぁ」


 ため息を一ついて、僕は当たりを見回した。

 ここは地底深くのダンジョンで、しかも最下層である。


 魔法の明かりのお陰で今のところ明るいのが救いか……。

 これは護符で出した魔法の明かりだから、この辺りにある光幻素のことも考えると――もってあと一時間ってところか。


 マジかぁ……。一時間でどうやって脱出したらいいんだよ。

 今日に限ってあいつらが『俺たちが荷物を持つよ』とかいってたのってこのためだったのか。ああ、脱出ポーション……ちゃんと予備だって買ってあったのに。アイテムが入った鞄ごと全部持って行かれてしまった……。


 とにかく移動しよう。

 移動したって助かるかどうか分からないけど、ここにじっとしているよりは助かる可能性は高くなるだろう。


 でもここにはレアモンスター『ブリリアント』の目撃情報がある。

 レアではあるが仲間を呼ぶスピードがとても速く、一人では絶対に倒しきれない相手だ。この状況だと最も会いたくない敵といえる。


 どうか、ブリリアントにだけは会いませんように。


 なんて祈りながらダンジョン内を歩いていった僕だったが、広いホールに出た途端……。


「あぁ……」


 思わずため息をついた。

 こういうときって一番会いたくない相手に会うものだよね……。


 純金製のボディに細くて長いプラチナの手足、そして目はダイヤモンドという眩しいくらいの全身キンキンキラキラ。大きさは一匹が五十セルチほど。その名の通りまさに光り輝く蟻ブリリアントなブリリアントが、視界を埋め尽くす勢いでホールにうじゃうじゃ沸いていたのだ。


 が、あの蟻たち、僕にはまったく気づこうともしない。

 それどころか蟻たちの群れの中からなにやら女の子の声が聞こえるではないか。


「セント・エクスプロージョン!」「アイシクルミューズ!」「サプライズドライトニング!」


 す、すごい、同じ女の子の声が同時に三つ重なって聞こえる。レアスキル【多重詠唱】だ。しかも詠唱時間も馬鹿みたいに短いし、三つの呪文も全て高位の攻撃魔法だ。

 なんて感心してる場合じゃない。


 高位の攻撃魔法は確かに蟻を大量に倒してはいるが、蟻が仲間を呼ぶスピードのほうが早くて全体数を削れていないのだ。

 それどころか押し負けている。やっぱり、いくら強くても一人じゃ無理な敵なんだ。


「きゃあああ!」

「いま助ける! 【暗算】!!」


 僕は慌ててスキルを発動させ、蟻の数を計算する。


「三百五匹!? 多いな!」


 女の子は三つの魔法の同時詠唱で一度に平均して百匹の蟻を仕留めている。かなりの攻撃力だ。あの女の子、かなり強い魔術師みたいだ。

 しかし、女の子が【多重詠唱】で蟻を倒す数より蟻が仲間を呼ぶ数の方が大きい。

 一度倒す事に百二十匹増えている状態だ。

 とはいえ、女の子が百匹倒している間に僕が二百五匹倒してしまえば一気に殲滅できる。


 ということで、数が整った。


「僕は二百五匹倒す! 君は百匹倒してくれ!」


「え!? そんな無茶苦茶なこと……」


 僕は息を吸うと剣を抜き、蟻の群れに飛び込んだ。


 というわけで、僕は二百五匹倒をした。


「す、凄い。なんて早い動き……」


 という彼女もちゃんと百匹を倒している。

 僕はため息をついた。


「やっぱりブリリアントって二人以上で倒すものなんだね。君が無事でよかった」


 薄暗いホールにはブリリアントの死骸が山と積まれていた。それが冒険者がダンジョン探索に使う魔法の明かりを受けてキンキンキラキラと光っている。

 これ全部外に持って行って換金したら僕はあっという間に大金持ちだ。なんとかしてこれ全部持って行きたいけど、そもそも脱出方法がないんだよな……。


 いや、この女の子――ものすごい美少女のこの子。この子はかなり強い魔術師らしいし、脱出魔法を知っているかもしれない。それでなくとも脱出用ポーションくらいは持ってるかも……。


 こんなところに一人でいる、というのがちょっと気になるけど。


 もしかしたら僕と同じようにどこかのパーティーから追放されたのかな、なんて考えが浮かんでしまう……。


 いや、彼女も追放されたのだとしたら、協力してダンジョンを脱出したらいいだけの話だ。一人じゃできないことだって二人でならできるんだから。

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