25.中学時代の出会い(橘風香視点)

 中学生になってすぐ、私と律は由希ちゃんと出会った。

 小学生から中学生。容姿への関心が増していく年代。でも親からの目が厳しい年代でもある。

 髪を染めるだなんて極少数。少なくとも私達の中学ではあまり見かけなかった。見かけたとしても少しだけ茶髪にした程度だ。

 そんな垢抜けていない初々しい新入生の中で、由希ちゃんの金髪はよく目立っていた。


「あたしの髪は染めてなんかないってば!」


 そんな由希ちゃんの反論を、最初は誰も信じていなかった。実は私もその中の一人だった。

 あまりに信じてもらえないからと、由希ちゃんの祖母が現れた。どうやらカナダ人らしく、彼女の金髪が由希ちゃんに遺伝したようだ。実際に目にしてしまえば誰もが納得せざるを得なかったようで、それからは注意されることはなくなった。

 それでも目立つことには変わらない。

 みんなと見た目が違う。ただそれだけのことで警戒される。それでも由希ちゃんの人懐っこい性格が受け入れられるまでにそこまで時間はかからなかった。


「見た目がってよりも前に、由希は落ち着きがないから先生に目をつけられるんじゃないか?」

「失礼だねりっちゃん! あたしはいつだって落ち着いているよ! もう立派な大人の女だよ!」

「大人の女はいちいち大声出さないと思うぞ」


 馬が合う、というやつなのだろう。律と由希ちゃんはすぐに仲良くなった。すると律と幼馴染である私も自然に由希ちゃんと仲良くなれた。

 由希ちゃんは可愛らしい女の子だ。綺麗な金髪に目を惹かれるだけじゃない。誰もが羨むパッチリとした目、美しく通った鼻筋、薄く色づいた唇。何より表情豊かで愛嬌があった。

 中二になった頃には体も成長してきた。由希ちゃんは決して高い身長とは言えないけれど、スタイルは女らしく、男子の目を惹くほど大きくなっていった。


「由希ちゃんまた男子から見られていたわね」

「えっ!? あたし何かした?」

「そうじゃなくてね、みんな由希ちゃんが可愛いから見惚れていたのよ」

「ほほう……。あたしってば女の魅力上げちゃった?」


 モデルのようにポーズをとる由希ちゃん。とてもセクシー……、ではなく年相応で可愛らしかった。由希ちゃんの無邪気さに思わず頬が緩む。

 この時はまだ男の目というものに鈍感だった。私も、その意図にはまだ気づいていなかった。


 さらに時は進む。中学生の成長は早いもので、それは体だけではなく心の成長も急速に進んでいった。

 男女関係に興味を持ち始める。それは私だけではなかった。実際、周囲から誰が好きだとか、誰と付き合っただとか、そういう声をたくさん耳にするようになった。


「あ、あたし……告白されちゃった……っ」


 そんな空気だったから、可愛い由希ちゃんが告白されたのは当然のことだと思った。

 中学二年の秋が終わろうかとする頃。むしろ由希ちゃんにしては告白されるのが遅かったほどだ。

 私と律が当然だと思っていたことでも、当人は当然だとは思ってなかったらしい。見ていて飽きないほどうろたえていた。


「で、由希に告白したって奴はどこのどいつなんだよ?」


 ニヤニヤ。そんな表現がぴったりな表情で律が尋ねた。好奇心が隠し切れない表情だった。私はと言えばしっかり隠したまま耳を大きくしていた。


「告白してきた人、高校生なんだけど……」


 恥じらいながら放たれた言葉に、私と律は驚いた。

 てっきり同じ中学の男子からだと思っていたからだ。すぐ近くにこんなに可愛い女の子がいるのに告白もできないだなんて……。この学校の男子はヘタレばかりなのかと落胆した。

 それはともかく、詳しく聞かせてもらった。どうやら由希ちゃんに告白したという男子は近隣の高校の人らしかった。


「あたしのこと登下校で見かけてたみたいで……。すっごく可愛いからすぐに付き合いたいって思ったんだってさ。すっごく可愛いからって!」


 初めて告白された。それも年上から。由希ちゃんが有頂天になってしまうのも仕方がなかった。

 最初は高校生が中学生に告白するものなのだろうかと思った。でも由希ちゃんは可愛い。黙っていれば大人っぽく見えるから不思議でもないかと思い直した。黙っていれば、だけれど。


「で、その告白の返事はどうしたんだ?」

「えっと……。ちょっと待ってもらってる……。う~、だってどうしたらいいのかわかんないしー!」

「わかったわかった。落ち着いて考えよう。な?」

「……うん」


 告白された状況を整理した結果、相手のことは名前と顔と高校生だということしかわからないようだった。


「あまり情報がないわね」

「だ、だっていきなりだったし……」


 そうは言いつつも私は異性と付き合うということがどんなことか知らない。経験したことがないので知りようがなかった。

 それは律も変わらない。なんとか実のある助言を送ろうとはしていたけれど、私と律に気の利いたアドバイスなんてできるはずもなかった。


「由希にその気があるなら付き合ってみてもいいんじゃないか。顔はいいんだろ?」

「付き合いながらお互いを知っていく。それが恋人になる目的でしょうしね。それに由希ちゃんの好みの容姿なのでしょう?」

「あたしが面食いみたいな言い方やめてくんない!?」


 結果、私と律は由希ちゃんの背中を押した。

 そして、私と律は無責任な言葉を送ってしまったことに、深く後悔することになる。


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