善意一〇〇%の金髪ギャル~彼女を交通事故から救ったら感謝とか同情とか罪悪感を抱えられ俺にかまってくるようになりました。え、そんなんじゃないって? ならただの善意だな、と受け入れるようになった男の話~

みずがめ

1.正しくない男女の出会い方

 俺が一体何をした? 神様ってやつがいるのなら問いただしたいものだ。


 高校入学を控えた春休み。

 入学式当日に緊張しないためにも、通学路を今一度確認しておくか、なんて考えたのが運の尽きだった。

 学校近くの桜並木を見て「綺麗だなー」と感想を零し、校舎をぼんやり眺めて「もうすぐ俺も高校生かぁ」とニヤニヤした。春の陽ざしが気持ちいい。

 平和だったのはそこまでだった。

 帰り道の途中、車に轢かれそうな女性を発見した。


「危ない!」


 と、叫んだ時にはもう遅かった。

 女性が気づいた時には車がすぐそこまで迫っていた。ブレーキも間に合わない距離だ。数秒後の結末は俺でなくとも見えただろう。

 だから、叫ぶ前に俺は動いていた。女性を突き飛ばし、車の進行方向から遠ざけた。


「ッ!」


 誰もが予想できたはずの結末は変わった。誰が車に跳ね飛ばされるか、という程度の変化ではあったけどな。



  ※ ※ ※



 そんなわけで、現在病院のベッドの上。命があっただけもうけものということにしておこう。

 命は助かったが、ギプスで固定された足を見ると思わずため息をついてしまう。それこそこの程度で済んだと自分の幸運に感謝すべきだろうか。


「暇だなぁ……」


 本当なら今日は入学式に出ているはずだった。新たな生活の始まりに緊張しながらも胸を躍らせていたと思う。

 入学式だけならまだしも、この状態では当分学校には通えないだろう。完全にスタートダッシュに失敗した。十五歳の男子にこの試練は厳しいにもほどがある。


「快適だけど暇だ……」


 俺を撥ねた車の主はそれなりに金持ちだったようだ。おかげで広い一人部屋で悠々自適な生活を送らせてもらっている。見舞い金をたんまりもらえたし許してやろうと思う。

 最初こそ一日中ベッドでゴロゴロしながらスマホに触ってられるなんて最高かよ! とか思っていたけど、あらかた動画を観終わってしまえばやることがない。あとは更新を待ち続けるばかりでやることがなくなってしまった。

 ゲームに手を出すべきか? だがはまった時のことを考えると躊躇ってしまう。俺なら絶対に課金に手を出す。自分のことは自分が一番よくわかってんだ。


「……学校行きたい」


 とても勤勉な発言だ。

 そこまで学校好きというつもりもない。でも新入生としてワクワクしていたのは事実だ。これでも新しい出会いに期待していたのだ。

 スタートが出遅れた俺は一体どんな顔をして見知らぬクラスメイトに会えばいいんだ……。

 ダメだ、ネガティブなことしか考えられん。足が不自由なせいでリフレッシュしようと外に出ることもままならない。

 あー、とか呻きながら頭を抱えていると、ドアがノックされた。

 看護師さんが見回りにきてくれたのかな。深く考えず軽く返事をした。


「し、失礼します……」


 おどおどとした調子で入ってきたのは予想していた看護師さんではなく、同年代の女の子だった。

 まず染めたのであろう金髪に目が行く。それから少し化粧している顔は美人というより可愛い系だ。さらに付け加えればぱっと見でわかるほどの巨乳である。なんという目の保養か。

 そして、彼女は制服に身を包んでいた。それは俺と同じ高校の制服だったのだ。

 見知らぬ金髪ギャルの登場に緊張が走る。素朴な俺はこういう人種が苦手なのだ。


「えーと……、どちら様?」

「忘れられてる!?」


 頭を整理してみても、目の前の女子は見知った顔ではなかった。

 同じ中学の女子で進学先がかぶってる奴がいるなんて聞いてない。知り合いを金髪にしたって目の前の彼女のように様になってる奴はいないだろうし。

 俺の反応が意外過ぎたのか何やらぶつぶつと呟いている。金髪ギャルがやると怖さが増してる気がする。


「あのっ」

「は、はいっ」

「助けてくれてありがとうございました!」


 金髪ギャルがばっと頭を下げた。あまりの勢いに内心焦る。

 だが言われてみれば思い出した。この金髪ギャル、俺が事故から助けた人だ。あの時は長い金髪しか見えていなかったけど、この流れを考えれば本人で間違いないのだろう。

 事故直後はすぐに救急車だったし、家族といっしょに謝罪に来た時はまだ現実を受け止め切れていなくて意識がしっかりとは保てていなかった。そういえば両親は髪黒かったのにこの人だけ金髪だったのが浮いてんなぁ、とか思った記憶が……。

 と、思い出している間も彼女は頭を下げ続けていた。


「うん、もう頭を上げてもらっていいですよ」


 じゃないと居たたまれない。金髪ギャルに頭を下げられるとか逆に罰ゲームみたいだ。

 頭を上げた金髪ギャルは涙目だった。意外と小動物のような雰囲気だ。


「……」


 さて、涙目で黙られるとこっちも困ってしまう。金髪ギャルに話しかけられるほど俺のメンタルは図太くない。


「えーと、もう気にしてないんで、帰ってもらっていいですよ。わざわざ謝罪しに来てくれてありがとうございました」


 しかしこのままいられるのは居心地が悪い。暇だとは思っていたけど金髪ギャルで暇潰しする度胸は俺にはない。

 それにこの金髪ギャルもなんでまた謝りに来たんだろうか。一度親といっしょに謝罪には来ていたみたいだし、それでこの話はおしまいってことでいいと思う。


「待って待って、あたしお見舞いに来たの」

「お見舞い?」


 聞き返すとぶんぶんと首を縦に振られる。


「助けてくれた、お礼……したいし」

「……」


 その言い方はアカン……。

 恥じらう仕草の乙女は思春期男子にとって天敵なのだ。上目遣いなんかされたらそれだけで恋してしまいそうになる。しかも巨乳だ。破壊力は抜群である。

 俺はギャルという存在が苦手である。なんか威圧感あるし。自然とどもってしまうのも仕方がないだろう。


「お、お願いします……」


 しかしこの時ばかりは、自然と言葉が零れていた。下心というものを自覚した瞬間でもあった。


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