【22-3】

 チャレッベはマサルンとンザールゥの近くに寄っていき、ため息をつきながら微笑む。


「君たち、さっき門の外に出て行ってた子たちよね? 無事に戻って来てくれて良かったわ」


 視線を子供に移すチャレッベ。


「それで、その子供は?」


 ンザールゥは尻尾を上げて、笑顔を浮かべながら呟く。


「この子は下の空で見つけたミャ」


「見つけたって、まさかこの子一人で外を生き抜いてたって訳じゃないでしょう?」


 ンザールゥは眉をひそめながら肩をすくめる。


「詳しくは分からないミャ。でも、大きな灰色のお魚さんの背中にぐったり倒れてたミャ、奇跡だったミャ」


 目を見開きながら語気を強めるチャレッベ。


「その話が本当だとしたら、奇跡でしょうね。そして、その奇跡を作った君たちは、本当に素晴らしい活躍をしたわ!」


 ンザールゥは首をゆっくり横に振る。


「ボクたちの活躍じゃなくて、灰色のお魚さんの活躍ミャ」


 眉尻を下げながら硬い笑みを浮かべるチャレッベ。


「まぁ、助かったんだから何でもいいでしょう。それより、その子は君たちの関係者ではないんでしょう? 私たち警察が後の事を引き継ぐわ」


 マサルンは真剣な眼差しをチャレッベに向けながら小さく頭を下げた。


「あとはお願いします! たぶん行方不明になってた子供です!」


 チャレッベは笑顔を作りながら深くうなずく。


「分かったわ」


 そして、眉尻を下げながらこわばった顔を作るチャレッベ。


「……それと、一つ聞きたい事があるんだけど……警察官――同僚が一人君たちを追っていったんだけど、途中で会わなかったかしら? ドヒュマンッグ犬人間なんだけれど」


 マサルンは顔を引きつらせて怯む。


「えっ、その人って……男性ですか?」


「そう、男性警察官」


 尻尾を下げながら抱えている子供をチャレッベの腕に預けるンザールゥ。


「その警察官のお名前は、イポーテャっていうミャ?」


 チャレッベは高速で首を縦に数回振る。


「そう、イポーテャ」


 頭を抱えながら眉尻を下げるンザールゥ。


「ミャーン……」


 マサルンは無表情のまま頭を掻く。


「実は……その……イポーテャさんとは出会いましたよ」


 口の端を上げながら語気を強めるチャレッベ。


「本当に!?」


「しかも、子供探すのも手伝ってもらいましたし、凶暴な生き物に襲われた時も一緒に戦ってくれました」


 チャレッベは笑顔を浮かべながら何度もうなずく。


「ええ、優秀な警察官だったでしょう? で、それから彼はどうしたの?」


 顔をしかめながらたじろぐンザールゥ。


「ミャーン、下のお空ではぐれてしまったミャ」


 チャレッベは硬い笑みを浮かべながら首をかしげる。


「えっ、はぐれたって、どうして?」


 眉をひそめながらうつむくマサルン。


「さっき、門の前で獣を追い払いましたよね? 実は、あいつとはもっと前に一度イポーテャさんと一緒に戦ってたんですよ。でも、オレたちが頼りなかったせいで、その、イポーテャさんが敵の攻撃受けちゃって。……そのあとは、別れたままです」


(えっ、イポーテャが!? そんなっ!)


 チャレッベは目を見開きながら顔を引きつらせる。それから、眉尻を下げながら呟く。


「……そうなのね。……でも、イポーテャは君たちを守って戦ったのよね?」


 小さく笑いながら深くうなずくンザールゥ。


「イポーテャさんのお陰で、ボクたちは生きてここまで戻ってこれたミャ。イポーテャさんは素晴らしい人ミャ。だから、警察みんなでイポーテャさんを見つけるために動いて欲しいミャ」


 マサルンは拳をかかげながら語気を強める。


「お願いします! イポーテャさんを探しに行ってくれませんか?」


 眉尻を下げながら首を横に振るチャレッベ。


「無理よ」


「どうしてですか!?」


「イポーテャが今どこにいるかが分からないわ。そもそも、見つけるイポーテャがまだ存在してるかも……。それに、私たちは君たちを襲ってきたような凶暴な生物から常にカイルを守らなければいけないわ」


 マサルンはうつむきながら言葉を詰まらせた。


 ンザールゥは眉尻を上げながら拳を顔の近くに二つ作る。


「ボクたちも手伝うから、警察さんも何人か一緒に手伝って欲しいミャ」


 無表情のまま首を横に振るチャレッベ。


「それで、また誰か犠牲を出して戻ってくるわけ? ダメよそんなの」


 ンザールゥは尻尾と眉尻を下げながらうつむく。


「ミャーン……」


 硬い笑みを浮かべながらため息をつくチャレッベ。


「とにかく、今日はもう家に帰りなさい。この子の事は心配しなくていいわ、ちゃんと警察が動くから」


 マサルンは軽く頭を下げて呟く。


「……ありがとうございます、あとの事はよろしくお願いします」


 硬い笑みを作りながら手をあげるマサルン。


「それじゃあ、オレたちもう帰りますね。引き続き、お仕事頑張ってください……」


「気をつけなさいね? カイルの中だからって油断しちゃダメよ?」


 ンザールゥも小さな笑みを浮かべながら手をあげる。


「その子のこと、頼んだミャ」 


 それから、マサルンとンザールゥは警察官たちに背中を向け、岩の天井に向かって昇っていく。


 そして、チャレッベは目から水滴を流し、子供を抱きかかえながら二人を見送った。

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