【22ー2】

 ンザールゥは電気網の近くまで移動し、見張りをしている警察官たちに向かって叫ぶ。


「開けてミャー! 助けてミャー! 襲われてるミャー!」


 手招きをしながら大声を出す警察官。


「分かってる、見えてるよ! 早く入ってきな!」


 そして、上空をおおっている電気網に小さな穴が開く。時間が経つにつれて小さなは徐々に広がり、子供を抱えたンザールゥが通れる大きさになった。


 ンザールゥは大穴を通ってカイルの中に移動する。すると、数人の警察官がンザールゥの周囲を囲んでいった。


 一方、体勢を立て直して下門に突き進んでいくマサルン。


(もう少し、もうすぐ逃げ切れる!)


 でも、ライオンも体勢を立て直し終えると、素早くマサルンの後姿を追っていく。


 下門一歩手前まで移動したマサルン。


 ライオンもマサルンに近づいていく。


 一方、眉尻を上げながらマサルンに向けて激しく叫ぶンザールゥ。


「すぐ後ろまで来てるミャ!」


「了解! 最後の一撃をお見舞いしてやる!」


 マサルンは振り向いて、クロスボウ@0をすぐにライオンに向ける。


(次はグーが来る確率が二十%でチョキが四十%、パーも四十%か。クロスボウで攻撃したら、勝ちか負けるかのどっちか引く可能性が高いな)


 たじろぎながら再び叫ぶンザールゥ。


「なにしてるミャ!? 早くこっち来るミャー!」


 そして、ライオンはマサルンに向かってそのまま突き進んでいく。


(ンラッ、食糧がついに諦めた!? 今こそ好機チャンス!? 家族たちがお腹を空かせて待っているのよ、その身を捧げなさい! って、食糧がいっぱいいる! でも、なぜか体がこの先に進みたがらないわ。それに、イヤな予感もするし)


 目を細めながらライオンに狙いを定めるマサルン。


(悔し涙はオレのプレゼントを抱きながら流しな?)


 マサルンはクロスボウの引き金を強く引く。


 しかし、クロスボウは何も反応しなかった。


 そして、マサルンの目の前に到達するライオン。それから、口を大きく開けて犬歯を四本覗かせた。


(さぁ、大人しく始末されるのよ!)


 マサルンは目を見開きながら顔をこわばらせる。


(あれっ!? もう矢、全部撃ち終えちゃった!? ってオレ、危険な状況じゃないか!? 間に合わ――)


 一方、警察官たちは電気網の内側から鋭い眼差しをライオンに向ける。


「撃て!」


 一人の男性警察官が発した声と同時に、数人の男性警察官たちが一斉にライオンに向けてアサルトライフルの引き金を引く。


 また、女性警察官たち数人もサブマシンガンをライオンに向けて引き金を引いた。


 男性警察官たちそれぞれのアサルトライフルからとがった弾丸が一発、女性警察官たちそれぞれのサブマシンガンからは鋭い銃弾が連続で三発、ライオンに向けて飛んで行く。それから、一人の警察官だけはストーンシュートを発射し、小石をライオンに撃ち込んでいた。


 発砲音が下門周辺の暗闇に短い間に何度も響き渡る。


 そして、ライオンは体の左右で銃弾を何発も受け止めていく。


【でゃっぴゃでぃー!】


 上下左右に乱雑に吹き飛んでいくライオン。


(あぁ、なんで一匹で狩りに出たんだろう……。意地を張らずに素直に仲間と来れば良かった……。あぁ、みんな……ごめ――)


 警察官たちも後方に吹き飛ばされて行く。


 それから、マサルンに手招きする一人の男性警察官。


「早くこっちに! 中に入りなさい!」


 マサルンはこわばった顔で素早くうなずく。


「はい!」


 大きな穴を通って電気網の内側に移動するマサルン。


 それから、マサルンの隣に男性警察官と女性警察官が一人ずつ移動する。


 そして、持っていた携帯火炎放射器をライオンに素早く向けて引き金を引く。


 男性警察官は眉尻を上げながら叫ぶ。


「赤く染まれ!」


 女性警察官も眉尻を上げて語気を強める。


「赤きころもまといなさい!」


 二つの携帯火炎放射器からくれない色の光線が凄まじい速度で伸びていき、ライオンを赤く包み込む。


 それから、電気網の大きな穴が徐々に小さくなっていき、網目状あみめじょうの壁を作っていった。


 一方、下門周辺の空が“大きな照明”によって明るく照らされていく。そして、新しくできた”大きな照明”はそのまま宇宙に落ちていった。


 しばらく経つと”大きな照明”は役目を果たし、下門の眼下に暗闇が戻る。


 マサルンは目の上に手をかざしながら眼下を眺めた。


「やったか?」


 尻尾を左右にゆっくり振りながら下の宙を眺めるンザールゥ。


「やったミャ?」


 マサルンとンザールゥは月明りと混じった暗闇を鋭い眼差しで睨み続けた。

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