【22話 前門のカイル、後門の女王】

 マサルンとンザールゥは上空に向かって暗闇の中を昇っていった。


 ンザールゥは深く深呼吸をしながら、頭上に広がっている電気網を眺める。


「やったミャー、もうすぐ帰れるミャー!」


 拳をかかげながらンザールゥに笑顔を向けるマサルン。


「頑張れンザールゥ! せっかくここまで運良く襲われないで来れたんだ、油断して子供を落とさないでくれよ? かっこ苦笑い」


「大丈夫ミャ! もうすぐ帰れると思ったら、元気出てきた気がするミャ!」


 マサルンは肩を落としながら細めた目をンザールゥに向ける。


「気がするってのが少し不安なんだよなぁ、かっこ冷や汗」


 眉尻を上げながら語気を強めるンザールゥ。


「元気出てきたミャ!」


「大人のレデーになるためのとっておきの情報を教えよう。そういうのは、空元気からげんきといって、結局迷惑かける事になるんだ、かっこ流し目」


 ンザールゥは尻尾をくねくねさせながら深くうなずく。


「分かったミャー。ボクは大人のレデーだから素直になるミャー」


「賢いぞンザールゥ! 魅力的な大人だぞ! かっこニヤリ」


 尻尾を垂らしながら硬い笑みを作るンザールゥ。


「でも、この子運ぶの最後だけ交代して欲しいミャ」


 マサルンは赤丸君を上空に向けながら叫ぶ。


「頑張れンザールゥ! あともう少しで帰れるぞ! かっこ冷静」


 赤丸君と共に周囲を見渡すマサルン。


 周辺は電気網にそなえられている電灯によって、暗闇は解消されていた。


 マサルンは眼下がんかの空中に混ざっている、怪しい影を眺める。


(うん? あそこに何かいる?)


 怪しい影は少しずつ大きくなっていく。そして、電灯の明かりが怪しい影を照らし始める。すると、体に傷を負ったライオンがマサルン達に向かっていた。


 マサルンはクロスボウ@2をライオンに向けながら叫ぶ。


「でぃぴゃあああっ! 下にいる、来てるっ! 追って来てる!」


 目を見開きながらたじろぎ、尻尾を両足の間に挟み込むンザールゥ。


「なにが来てるミャ!?」


「追い払えてなかったんだ!」


 ライオンはマサルン達に向けて勢いよく宙を進んでいく。


(許さないわよ! 本能がこの先に行くことを拒んでいるけれど、ここまで痛めつけてくれたんだから、絶対に捕って帰らせてもらうわよ! 気分は食糧二つとも持って帰りたいわ!)


 眉尻を下げながら語気を強めるンザールゥ。


「なにが来てるか教えてミャー!」


 マサルンはライオンにクロスボウを向け続ける。


「敵! さっきの獣だよ! 急いでカイルに向かって!」


「分かったミャ!」


 マサルンとンザールゥは上空のカイルの下門に向かって昇っていく。


 マサルンはクロスボウをライオンに向けながら睨みつける。


(グーが来る確率は三十%でチョキが六十%、最後にパーが十%か。これはいける! 残念、ここでお別れだ!)


 そして、上昇しながらクロスボウの引き金を素早く引くマサルン。


 先端が丸い矢が暗闇を進んでいきライオンに向かう。しかし、ライオンは素早く宙を移動し避けた。


 顔を引きつらせながらたじろぐマサルン。


(あれー、こんな時に外しちゃう!?)


 マサルンはクロスボウ@1でライオンを狙い直し、引き金を引く。


 発射された矢はライオンに突き進み、顔面に着弾した。しかし、矢は弾かれてしまう。


 それから、マサルンはたじろぎながら後方に吹き飛ばされて行った。


(なんだって!? 最後に失敗するなんて、なんてこった! いや、でもあいこは今の状況じゃアリなんじゃないか?)


 そして、後方に吹き飛ばされてしまうライオン。


(まだ抵抗するの!? いい加減食べられる運命を受け入れなさいよ!)


 ライオンの低い鳴き声がいつわりの昼の空間に響き渡った。

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