【21話 カイルに帰ろう】

 マサルンとンザールゥは暗闇の中でしばらくの間抱き合っていた。


 そして、マサルンは硬い笑顔を浮かべる。


「何とか生き抜いた、かっこ冷や汗」


 眉尻と尻尾を下げながら呟くンザールゥ。


「ミャー、確かにボクたちの勝利ミャ。でも、犠牲も大きいミャ」


 マサルンは無表情のまましばらく沈黙を続ける。そして、眉尻を下げながら小さく呟いた。


「それってやっぱり……イポーテャさん、だよね、かっこ涙目」


 目を見開きながら語気を強めるンザールゥ。


「イポーテャさんも一緒にカイルに帰るミャ! まだ間に合うかもしれないミャ、浮遊樹ふゆうじゅに引っかかってたり、子供みたいに何かに乗っかってたりしてるかもミャ!」


 マサルンは首を高速で横に振りながら語気を強める。


「ダメだ、そんな奇跡に期待するな! かっこ真顔」


 眉尻を上げながらマサルンを見つめるンザールゥ。


「諦めなかったからボクたちは子供を見つけれたミャ! 今度もきっとそうミャ!」


 マサルンも眉尻を上げてンザールゥを見つめる。


「オレたちはもうボロボロだ! もう一回凶暴な生き物と出会ったら今度こそ全滅しちゃうよ! それに、イポーテャさんがいないから、なおさら、かっこ冷静」


「戦わないで、逃げ続けるミャ!」


 ゆっくり首を横に振るマサルン。


「オレたちにはもう守るモノがあるだろ? 早くカイルに戻らないと、かっこ冷静」


 ンザールゥはイルカの背中に乗っかってる子供に視線を向ける。


「……ミャー、分かったミャー」


 そして、イルカは暗闇を泳いでマサルン達に近づいて行き、甲高い鳴き声を上げた。


『おーい、早く背中のこれなんとかしてよー! 自由に泳ぎたいんだよー!』


 かわいた笑みを浮かべながらなげくマサルン。


「ちなみに、ンザールゥが子供を連れて行ってくれない? オレ腕怪我しててさ、いてて、かっこ涙目」


 しかし、ンザールゥも尻尾と眉尻を下げながらなげく。


「ミャーン、ボクも腕痛めてるミャ、いたいミャ……。できれば動かしたくないミャ」


「オレはクロスボウと照明器具で手がふさがっちゃってるからさ、ンザールゥが運んだ方が良いと思うんだ、かっこ流し目」


 尻尾を下げながらため息をつくンザールゥ。


「いっぱい動き回ったからボク疲れたミャ。武器も二つ落っことしちゃって、元気も出ないミャ。安くない値段だったミャ」


「ンザールゥならまだ頑張れる! 優しさを力に変えて、子供を運ぼう! かっこ笑い」


「ボクも休みたいミャー」


 マサルンは硬い笑みを浮かべながらささやく。


「立派な大人のレデーは、弱音を力に変えて困難を乗り越えるもんだよ、かっこニヤリ」


「大人のレデーでも、出来る事にも限界あると思うミャ。でも、ボクしか出来ないなら、頑張ってみるミャ」


「偉いぞンザールゥ! 凄いぞンザールゥ!」


 眉尻を下げながら小首をかしげるンザールゥ。


「ボクは腕怪我してるし疲れてるミャ。マサルンがしっかり周囲を警戒するミャ。できるミャ?」 


「任せろ! って自信満々で言いたいけど、オレはンザールゥのように暗い場所を見通せないからね。期待し過ぎないでくれよ、かっこ冷や汗」


「正面ならボクも見てるミャ」


 ンザールゥは握っているライトニングガンを衣服のポケットに詰め込む。


 それから、イルカに近づいていき、背中に乗っかっている子供を、ゆっくり抱き寄せる。


 そして、尻尾を上げながらイルカに笑顔を向けた。


「大きなお魚さん、なんで子供を助けてくれたのか分からないミャ。でも、ありがとミャ」


 イルカは軽々しく空を回っていく。


『あー、軽ーい! これでやっと自由に泳げるよー、自由さいこうー! ンフィルドー!』


 小さな笑いをイルカに向けるマサルン。


「今回の主役は、お前だよ! かっこ微笑ほほえみ」


 ンザールゥは真剣な眼差しをマサルンに向ける。


「それと、イポーテャさんもミャ」


 ンザールゥを見つめながら深くうなずくマサルン。


「そうだね、かっこ冷静」


 マサルンは子供の顔に視線を向ける。


「ちなみに、その子生きてるよね? かっこ冷や汗」


 笑顔を作りながら軽くうなずくンザールゥ。


「大丈夫ミャ、息してるミャ」


「良かった、素直に奇跡的な出来事を喜べそうだよ、かっこ笑い」


「それより、ボクが力尽きる前にそろそろ帰るミャ。喜ぶのは戻ってからミャ」


 マサルンは目を見開きながらたじろぐ。


「ん、カイルに着く前に力尽きないでくれよ!? かっこ冷や汗」


 尻尾をくねくねさせて細めた目をマサルンに向けるンザールゥ。


「マサルンも手伝ってくれたら、そうならない確率が上がるミャ」


「オレは照明係と案内、見張りで忙しくなるから、かっこ冷静」


 ンザールゥは口をとがらせながら呟く。


「照明係はボクには意味ないミャー」


 そして、マサルンとンザールゥは小さな笑顔を見せ合いながら、体を上空に昇らせていった。

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