【18話 百獣の女王】

 一匹のライオンが暗闇の中を周囲を見渡しながら進んでいた。全長は百六十センチメートル程をしていて、薄茶色の毛を全身にまとわせている。脚は前後で合計四本あり、黄色い瞳をしていた。


 ライオンは首を左右に振っていく。


(食糧はどこにいるかしら? 小さい食糧はいっぱい泳いでいるけれど、すばしっこくて捕まえれそうにないわ、こっちが疲れるだけ。今回は無視無視)


 しかし、小魚を見つめ続けるライオン。


(でも、やってみなきゃ分からないわよね)


 一方、泳ぐ速度を突然速める小魚。


(しゅふぃっでゃ!?  何かに狙われてる気がする! にーげよっと!)


(あぁん! もう、大人しく捕まってちょうだいよ! こっちは夫と子供たちの食糧も捕らなきゃいけないの! 油断してる姿を見せて、その気にさせないでよ!)


 ライオンは移動を止め、周囲を見渡す。そして、暗闇の中で目立つ明かりを見つめた。


(イランオ!? あそこの周辺だけ昼になってる!? まぁ、そんなこと今は気にしてもしょうがないわ。それよりも、食糧がいっぱい居るじゃない! あれだけ多ければ、きっとのがさないはず! いいえ、弱気になったらダメ! 獲物をのがさないわ! 慎重になってゆっくり近づいて行ったら気付かれて逃げられてしまうだけだわ、勢いよく襲い掛かるのが正解なはずよ!)


 移動速度を少し速めながらマサルン達に向かって宙を進んでいくライオン。


 一方、イポーテャは微笑みながら周囲を警戒していた。それから、暗闇の中で動くライオンを睨みつける。


(うん? あそこに大きな生物がいるような? あんなの、さっきまでいただろうか……俺の気のせいか?)


(気のせいかしら? もうすでに気付かれてるような気がするわ。まぁ、だからってここで諦める事は無いけどね!)


 移動速度を大きく上げるライオン。


 イポーテャは鋭い眼差しをライオンに向け続ける。そして、目を見開いて叫んだ。


「ちぇでゃっそ!? 敵、敵が現れたぞ! いや、もう近くに来てる、移動が速い!」


 イポーテャが見つめてる先にマサルンも視線を向ける。


「せうぇっ!? 本当ですか、どこですか!? すぐ近くまで来てます!? かっこ冷や汗」


 ンザールゥもイポーテャが見つめてる先を、尻尾立て毛を逆立てながら睨む。


「ミャー、おっきな生き物が来てるミャ! マサルンも攻撃する準備するミャー!」


 そして、更に移動速度を上げるライオン。


(あー、もうっ! みんな気付いちゃったようね。それなら、もうこそこそする必要ないわ。弱そうな食糧を持ち帰らせてもらうわよ!)


 一方、イルカは子供を背負いながらゆっくりとマサルン達から離れていく。


(ンフィルド! 怖いやつ来てる、逃げろー! って、重くて速度が出ないよぉ、あいつら早く背中のやつ持ってってよー!)


 暗闇の中を飛行しながらンザールゥに向かっていくライオン。


 そして、イポーテャはアサルトライフル@15をライオンに向けて引き金を強く引いた。


(この野郎! 体が大きいくせにすばしっこいな! でも、俺がこの子たちに近づかせないからな!)


 アサルトライフルから発砲音が五回連続で発せられる。更に、イポーテャの腕が五連続で震えた。


 それから、とがった五発の弾丸はライオンに向かって飛んでいく。


 しかし、ライオンは瞬時に体を横に移動させる。 


(イランオッ!? 今の大きな音はなに!? 思わず逃げそうになっちゃったじゃない! でも、そんな事で食糧を諦めるわけにはいかないわよ!)


 弾丸はすべて暗闇の中に消えていった。


 こわばった顔でライオンを見つめるイポーテャ。


(あれっ!? 俺の攻撃避けられてないか!? あいつ、大きさに反して運動神経いいな。これは油断したら死ぬ可能性が高いぞ)


 マサルンもクロスボウ@10をライオンに向けて構える。


(あの凶暴そうな生物、動きが素早いよぅ。あんなのに勝てるだろうか? オレたち、もしかしたら全滅するんじゃないか? ……いやいや、悪く考えちゃダメだ! イポーテャさんが居るんだ、きっと助けてくれる!)


 鋭い眼差しを作りながら引き金を引くマサルン。


 クロスボウは軽い音を周囲に響かせた。それから、先端に小さな丸い金槌が付いた矢が素早く宙を突き進んでいく。そして、マサルンの腕が小さく震える。


 一方、暗闇の中を飛ぶ矢を見つめるライオン。


(よく分からないけれど、何かが飛んでくるわ!)


 ライオンは素早く横に移動して矢をけた。そして、マサルンに素早く近づいていく。


 ライオンを見つめながらたじろぐマサルン。


(こいつっ! 絶対矢が当たると思ってたのに! ……危ない、やられるかもしれない! いや、まだだ、諦めたら本当に終わってしまう、頑張って戦わないと! それで、次に来る攻撃は、グーが三十%でチョキが四十%、最後にパーが三十%か。平均的にばらけてて厳しいな。本当に危ない。でも、どうすることもできないし、ここは信じて、グーで挑む!) 


 ンザールゥも武器を強く握りしめながらうろたえる。


(ミャー、二人の攻撃を避けたミャ! この獣さん、ものすごく危険な気がするミャ)


 アサルトライフル@10をライオンに向けて構えるイポーテャ。


(今撃つべきか? いや、確実に当たる時期を見極めて待つべきか?)


 一方、ライオンはマサルンにさらに近づいていく。


(こざかしい真似をする食糧だね! 先にお前を始末してやろうかしら?)


 クロスボウ@9をライオンに向け、引き金を素早く引くマサルン。


(オレのとっておきを受け取りな! お返しは不要!)


 そして、ライオンに向かって矢が勢いよく飛び出していく。 


 しかし、矢はライオンの顔面に着弾するが、弾き飛ばされてしまう。


 また、同時に弾かれて無防備な姿を見せるマサルン。


 マサルンはこわばった顔を作った。


(ふぁもすっ! オレのとっておきがそもそも受け取り拒否だとっ!? って、まずい、死ぬ!)


 ライオンは大きな口を上下に開ける。そして、上下から生えている四本の犬歯が姿を見せた。


(あんたを狙って正解だったようね! わざわざ自分から身をささげちゃって。それじゃ、遠慮なく仕留めさせてもらうわよ!)


 一方、なたを振り上げながら素早くマサルンに近づいていくンザールゥ。


(今ボクが動かないとマサルンが危ないミャ! 獣さんをらしめるミャ!)


 ンザールゥはなたをライオンの胴体に振り下ろす。


 すると、刃はライオンの体に一直線の切り傷を縦にきざんでいく。


 そして、ライオンはうなりながら吹き飛ばされた。


(ぢぎょでゃー! 体が熱い! いや、痛い! これはきっと他の食糧の仕業ね!?)


 口の端を小さく上げながら吹き飛んでいくンザールゥ。


(やったミャ、獣さんに攻撃通ったミャ! マサルンを守れたかミャ?) 


 一方、イポーテャは鋭い眼差しを作りながらアサルトライフルを強く握りしめる。


(やつに隙が! 今が撃ち込む時か!?)


 ライオンは体勢を立て直し、ンザールゥを睨む。


(攻撃をしてきたのはこの食糧ね! いいわ、あんたからは同じ匂いがするけど、痛めつけてやるわ!)


 ンザールゥも体勢を立て直し、ライオンを見つめる。


(ミャッ、『別のボク』がグーを出しても勝てないって言ってるミャ! むずかしいミャ、グーがダメってことなのかミャ?)


 眉をひそめながらライオンに近づいていくンザールゥ。それから、なたを素早く振り上げる。


(次の一撃でこの戦いを終わらせるミャ! 獣さん早くどこかにいって欲しいミャ)


 ライオンもンザールゥに向かって進んでいく。そして、前足を振り上げる。


(この攻撃であんたを始末してあげるわ!)


 ライオンが振り下ろした前足攻撃がンザールゥのなたにぶつかった。だけど、なたに当たった瞬間に弾かれてしまう。


 ライオンとンザールゥは反発するように吹き飛ばされて行く。


 また、弾かれた衝撃でンザールゥの手からなたがすり抜けていき、暗闇に吹き飛んでいった。


 ンザールゥは目を見開きながら顔を引きつらせる。


(ミャッ!? グーを出してないのに弾かれてしまったミャ!)


 なたを持っていた手を数回程握るンザールゥ。


(ミャーッ!? ボクのなたどこかにいっちゃったミャー!)


 体勢を立て直したライオンは、鋭い五本の爪を前足から飛び出させる。そして、ンザールゥに近づいていき前足を振り上げた。


(決まったわ!)


 一方、イポーテャは顔をこわばらせながらアサルトライフルの引き金を素早く引く。


(ンザールゥちゃんが危ない! 迷ってても仕方ない、どうか間に合ってくれ!)


 アサルトライフルから発せられた激しい音が周囲の宙に響き渡る。


 そして、弾丸が五発、連続で勢いよく飛び出していく。


 弾丸の三発は、暗闇に飲み込まれた。


 しかし、残りの二発は、ライオンの下半身と後ろ足の二カ所に着弾する。


 でも、弾丸は弾かれてしまい、イポーテャとライオンは二回連続で吹き飛ばされた。

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