【16-2】

 ンザールゥは顔をしかめさせながら暗闇を下りていった。


 そして、尻尾と眉尻を下げながら再び体を手で押さえる。


「ミャー、ボクの中で大変な事が起こってるミャー」 


 マサルンは細めた目をンザールゥに向ける。


「え、まさか、出したくなっちゃった? かっこ冷や汗」


 頬を赤らめながら首を高速で横に振るンザールゥ。


「それじゃないミャー。移動すると体が痛くなっちゃうミャー」


 マサルンは眉尻を上げながら赤丸君をンザールゥに向ける。


「アーノルド君も体を痛めてるかもしれないんだぞ、それくらい我慢しなさい! かっこ冷静」


 眉をひそめながら体をさするンザールゥ。


「分かったミャー、我慢するミャー。なんだか、マサルンが頼もしくなってる気がするミャー」


 ドヒュマンッグ犬人間の警察官は静かにマサルンとンザールゥのやり取りを眺める。


(この、ケガしてないか?)


 眉尻を下げながら小さな笑みを浮かべるドヒュマンッグ犬人間の警察官。


「ごめん、俺も急いで君たちを追ってきたから、実は疲れてるんだ、少し休憩させてもらえないかな? ほんの少しだけで良いからさ? ほら、重力じゅうりきも回復させて、戦いになった時にそなえるのも大事だし」


 マサルンは頭を掻きながら呟く。


「でも、オレたちが休んだら無事に助けれる可能性が……」


「疲れ切った俺たちがこのまま動けば間違いなく全滅するよ。俺が来たからって、俺たちが負けない訳じゃないし、君たちを守り切れる確率も低くなるよ」


 硬い笑顔をドヒュマンッグ犬人間の警察官に向けるンザールゥ。


「ボクの事は気にしないで大丈夫ミャ、痛みが少しずつやわらいできたミャ。きっと、お兄さんが来て安心したからミャ」


 マサルンは眉をひそめながら頭を抱える。


(あーっ、どうしたらいいんだ!? こういう時は何が正解なんだろうか?)


 マサルンの脚を指さして叫ぶドヒュマンッグ犬人間の警察官。


「あっ、君、脚を怪我してるじゃないか! 傷薬は持ってきてるのかい? 包帯とかは?」


「うーん、電池が足りなくて、買えてないんですよ」


 ンザールゥは硬い笑みを浮かべながら両手の武器を見せる。


「ボクも電池足りなくて買えなかったミャー、武器に電池回しちゃったミャ」


 眉尻を下げながら微笑むドヒュマンッグ犬人間の警察官。


「まぁ、みんなそれぞれ事情があるからね、仕方ないよ。他には何か持って無いの? 食べ物とかは?」


「食べる物なら買ってるミャー」


 マサルンは肩に掛けている小さめの黒い鞄を軽く叩く。


「『おにぎり』、いや、『おむすび』なら買ってきましたよ!」


 笑顔を浮かべながらうなずドヒュマンッグ犬人間の警察官。


「よし、じゃあ、今食べよう!」


 ンザールゥは頭を掻きながら眉尻を下げる。


「休むことも大事ミャ。でも、時間も無いミャー」


「食べて栄養をつける! そして、体も休める! 体が元気になれば凶暴な生物に襲われても対処しやすくなる! 結果アーノルド君も助けれる!」


「ミャー、お兄さんの言ってる事が正しいのは分かるミャ。でも、休んでていいのか不安ミャ」


 顔をこわばらせながら呟くマサルン。


「オレも、お兄さんの意見には従いたい気持ちはあるよ。でも、早く見つけてあげたい」


 ドヒュマンッグ犬人間の警察官は真剣な眼差しを二人に向ける。


「アーノルド君を探すのも大事だけど、俺は君たちが心配なんだ。頼むからご飯休憩してくれ」


 眉尻を下げながらンザールゥを見つめるマサルン。


 ンザールゥも眉尻を下げながらマサルンを眺める。


 マサルンはしばらく沈黙した後、小さくうなずく。


「分かりました」


 鞄の中から握り飯を取り出すマサルン。


「……うーん、本当に食べてていいのだろうか」


 ンザールゥは白い鞄を開けて、ドライフルーツの袋を掴む。


「ミャー、休憩してて大丈夫なのかミャー?」


 胸を張りながら笑顔を浮かべるドヒュマンッグ犬人間の警察官。


「はっきり言おう、大丈夫では無い! なので、早く食べるように!」


 マサルンは小さくため息をつきながら肩を落とす。


「急いで食べたら、もっと疲れそうな気がするよ」


「周囲の警戒は俺に任せろ! だから食べる事に集中するんだ!」


 ドライフルーツの袋の端をかじり取っていくンザールゥ。


「お兄すぁん、いっこ聞いてむぉいいミャ?」


「先に答えよう、俺は食べ物を持ってきていない。だから、残念だけど分けてあげることは出来ない」


「そうじゃないミャー、お兄さんの名前聞いても良いミャ?」


 マサルンは握り飯を大きな口でかぶりつく。


「すぉれはオレもすぃりたかった、おにぃすぁんの名前おすぃえてよ」


 小さく口を動かし続けるマサルン。


(でょっぐ! 握り飯の中に異物が混入してる! にぇっ! 旨味うまみの後に甘みが追い打ちで口の中に広がってく!)


 ドヒュマンッグ犬人間の警察官は顔をこわばらせながら眉尻を上げる。


「自分の名前を教えない奴に、答える事などない!」


「あ、オレはマサルンって言います」


 尻尾を上げながらかわいた笑顔を作るドヒュマンッグ犬人間の警察官。


「彼女が名前呼んでるのを聞いてたから知ってるよ!」


 マサルンは細めた目をドヒュマンッグ犬人間の警察官に向ける。


「素晴らしい情報収集力ですね」


 ドライフルーツの袋を傾けさせ、中身を口の中に流し込むンザールゥ。

 

「ボクはンザールゥってぇいぅミャ」


 ドヒュマンッグ犬人間の警察官は無表情のまま呟く。


「イポーテャ」


「ミャ?」


 細かく口を動かし続けるンザールゥ。それから、尻尾を上げながら柔らかい笑顔を浮かべる。


(甘いミャ。その後に、酸味も混じってきて美味しいミャー)


「俺の名前だよ」 


「なるほどミャー、イポーテャお兄さん頼りにしてるミャー」


 マサルンは握り飯に再びかぶりつく。


「イポーテャおぬぃさん、オレもいっこききたいことぐぁあるんですけど、かっこ真顔」


 尻尾を上げながら微笑むイポーテャと名乗ったドヒュマンッグ犬人間の警察官。


「イポーテャさんって呼んでくれたら、考えてあげよう」


「……イポーテャさん、今カイルの警察の仕事は順調に解決してるんですか? かっこ冷静」


 イポーテャは硬い笑みを作りながら肩をすくめる。


「考えてあげるだけで、質問に絶対答えるとまでは言ってないなぁ」


「ふぉでゃっ!? かっこ冷や汗」


 眉尻を下げながら尻尾をくねくねと曲げるンザールゥ。


「いじわるしないで欲しいミャー」


 イポーテャは真剣な眼差しを二人に向ける。


「警察の仕事は確実に進んでるよ。事件も一個一個解決していってるし」


 握り飯をすべて口の中に詰め込むマサルン。


「……すぉれなら、アーノルドくんをたすくぇにうごきだすまで、あとどぅぉれくらいかかりすぉうですか? かっこ冷静」


「一個だけって約束だったからなぁ」


 マサルンはかわいた笑みを浮かべながら呟く。


「ンザールゥが可愛い仕草を見せるんで、そこら辺の約束は見逃してくれませんか? かっこニヤリ」


 尻尾を左右に激しく振りながら拳を振り上げるンザールゥ。


「そんな事したくないミャー! でも、ボクもアーノルド君に関した警察の現状は知りたいミャ」


 イポーテャはしばらく黙り込んだ。そして、硬い笑みを作りながらなげ


「……これから教える事に怒らないでくれよ? もちろん俺に怒りをぶつけるのも無しね」


「怒らないミャー」


 何度もうなずくマサルン。


「大丈夫ですよ、怒ったりしません! かっこ冷静」


「行方不明の子供、アーノルド君を探す仕事は優先順位が低くなっているよ。仕事をこなせば確実に助けられるのなら、みんなすぐに動いてたはず。でも、どこで何をしているか分からない者を探すために貴重な戦力を長時間割く事は無意味だとみんな思ってるんだよ」


 マサルンは眉尻を上げながら怒鳴る。


「いくらなんでも、それはひどいでしょ!」

 

 尻尾を激しく左右に振りながらイポーテャを見つめるンザールゥ。


「動かなきゃ、ますますどこで何してるか分からなくなっちゃうミャ!」


 イポーテャは顔をこわばらせながら尻尾を下げる。


「おいおい、怒らないって約束だろー? それに、君たちも口に出さないだけで、心のどこかで気付いているんじゃないのか? アーノルド君がすでに――」


 真剣な眼差しをイポーテャに向けながら、会話をさえぎるマサルン。


「それを言ってしまったら終わりですよ。希望が無くなります、かっこ真顔」


 ンザールゥはドライフルーツの袋を丸めて、口の中に詰め込む。


「ボクぅがぎゃくのたちばどぅぁったら、そんなりゆぅでたすくぇにきてくれなかったら泣いちゃうミャ」


 硬い笑みを浮かべてなげくイポーテャ。


「警察にもいろいろ事情はあるんだ、なんとかそこは許して欲しい。代わりに、俺がこうやって助けに来たんだし、頼むよ?」


「ミャーン、納得できないミャー」


 マサルンは眉尻を下げた顔をンザールゥに向ける。


「イポーテャさんを責めても変わるわけじゃない、かっこ冷や汗」


 拳をかかげながら語気を強めるマサルン。


「それより、アーノルド君の運命を変えるために、休憩を終えて早く捜索を再開しましょう、かっこ冷静」


 イポーテャは深くうなずく。


「そうだね、君たちも食事を終えたようだし、そろそろ移動した方がいいね」


 笑顔を作りながら両手をあげるンザールゥ。


「ボクの体もだいぶ楽になったミャ! アーノルド君を探すミャー」


 イポーテャは小さな笑顔をンザールゥに向ける。


「俺は君たちの上空で見張りをしながら付いていくよ。二人は自由に好きな場所を探すといいさ」


「イポーテャさんの見張りに頼り切るのもダメミャ、しっかり警戒していくミャー」


 周囲を見渡しながらゆっくりと宙を下りていくンザールゥ。


 マサルンも照明器具で周囲を照らしながら下りていく。


「凶暴な小さい生物も居るからね、見逃さないようにしないと。突然噛まれるよ、かっこ冷や汗」


 イポーテャも鋭い眼差しで周囲を見渡しながら暗闇を下りていった。

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