【14話 下門からカイルの外へ】

 マサルンは赤丸君で空を照らしながら徐々に下に移動していく。


 ンザールゥはゆるい速度でマサルンの隣で下り続ける。


 そして、二人は下門がある電気網に無事にたどり着いた。


 周囲には、暗闇に染まって濃い青黒い色の制服を着た警察官が数人ほど外を睨めつけている。


 マサルンは顔をこわばらせ、警察官たちを見つめながらンザールゥにささやく。


「女性警察官たちはサブマシンガン持ってるね。いやぁ、頼もしいなぁ、かっこ微笑ほほえみ」


「ボクも装備したいミャ! それより、お姉さん達ちゃんと棍棒も腰に差してて装備が充実してるミャ」


「あれは警棒って言うんだよンザールゥ君、かっこ決め顔」


「ボクも欲しかったミャー」


「オレも欲しいよ。……はぁ、お願いしたら一日だけ貸してくれたりしないかな? かっこ冷静」


「貸してくれたら嬉しいミャ」


 尻尾を下げながらなげくンザールゥ。


「でも、きっと警棒で叩かれちゃうミャ」


「ンザールゥの可愛いおねだりを見せれば、高い確率で貸してもらえると思うんだけどなぁ、かっこニヤリ」


「ミャーン、ボクが叩かれるところが見たいだけミャ!」


 マサルンは周囲を見渡して警察官たちに鋭い視線を向ける。


「でぃぇ? 別の女性警察官の中にサブマシンガンとは違う形をした銃を持ってるけど、あれは何だ? いや、女性警察官だけじゃない、男性警察官も持ってる人がいる! かっこ冷や汗」


 尻尾をくねくねさせながら微笑むンザールゥ。


「あの小さな容器が銃に付いてるって事は、携帯火炎放射器ミャ、かっこいいミャー」


「なんでそんな事知ってるの? かっこ冷静」


「さっきホームセンターで見つけたミャ」


 マサルンは手を目元に添えながらなげく。


「ンザールゥにも携帯火炎放射器を持ってきて欲しかったよ、かっこ涙目」


 膨らんでいる衣服のポケットを指さすンザールゥ。


「ボクの電池じゃライトニングガンしか無理だったミャー、ごめんミャ。でも、これだって威力は十分あるはずミャ」


「でたぁ、ンザールゥお得意の、『はず』! かっこ冷や汗」


「これをうまく使って、何とか頑張ってみるミャ! ……ミャ!? 頑張るミャ!」


 そして、マサルンは門の前でたたずんでいるドヒュマンッグ犬人間の男性警察官に硬い笑顔を向ける。


「あのぉ、門を通りたいんですけど、よろしければ開けて貰えませんかね? あ、彼女も一緒で」


 無表情のまま言葉を漏らすドヒュマンッグ犬人間の警察官。


「……はい?」


(『はい?』じゃないよ! すぐ近くで聞いてたんだから分からないわけないだろ、夜だから声も響くだろうし! しかも、暗くてすぐ分からなかったけど、この警察官、ドヒュマンッグ犬人間だ!)


 門番の男性警察官は二十代後半に見える容姿をしていて、黒い瞳を宿しており、身長は百七十五センチメートル程をしていた。茶色と白色が混ざった前髪を眉辺りまで切り揃え、後ろ髪も短い。やや細めの目は横に伸びていて、真面目な雰囲気を出していた。また、頭頂部と側頭部の間からは一対の三角形の耳を付けていて、腰の下部からは白と茶が混じった尻尾を伸ばしていた。それから、全身に薄い水色の制服を身にまとい、全長九十センチメートル程のアサルトライフルを両手で抱えている。腰には携帯照明ぶら下げられていて、周囲を照らしていた。


 ンザールゥは尻尾と眉尻を下げながらドヒュマンッグ犬人間の警察官を見つめる。


(マサルンの言葉はこの警察官に絶対聞こえてたはずミャ! このイジワルな雰囲気フインキはマサルンに似てるミャ)


 軽く頭を下げながら顔を引きつらせるマサルン。


「これから二人、門を通って外に行きたいんですけど、開けて貰えませんか?」


 ンザールゥもドヒュマンッグ犬人間の警察官に深く頭を下げる。


「お願いしますミャ、外に行かせて欲しいミャ」


 硬い笑みを作りながら尻尾を上げるドヒュマンッグ犬人間の警察官。


「通行料を支払って貰わないと……一電池ね」


 マサルンは目を見開きながらたじろぐ。


「えっ!?」


 眉尻を下げながら首をかしげるンザールゥ。


「いつから門を通るのに電池を払わなくちゃいけなくなったミャ?」


 ドヒュマンッグ犬人間の警察官は目を見開きながら呟く。


「うん? まさか、知らないの?」


「知らないミャ、教えて欲しいミャ」


 小さくため息をつきながら首を横に振るドヒュマンッグ犬人間の警察官。


「はぁ、本当は教えるのにも電池が必要なんだけど、お姉ちゃんが可愛いからお兄さんが特別にタダで教えてあげるよ」


「ミャッ!? 本当ミャ!? ありがとミャ」


「……ほんの数秒前に通行料が必要になったんだよ。そして、たった今通行料が必要なくなった」


 ドヒュマンッグ犬人間の警察官は微笑みながら尻尾を左右に振る。


 そして、ンザールゥとマサルンは目を見開きながら姿勢を崩す。


 かわいた笑みを浮かべながら語気を強めるマサルン。


「それってつまり、最初からタダで門を通れたって事ですよね!?」


「うーん、正解! ちょっと待ってて、今通してあげるから」


 ドヒュマンッグ犬人間の警察官は胸を張りながら笑い声をあげる。


(さて、軽く仕事しなくっちゃな、チャレッベさんに通信っと)


 手首に装着している無線機を口に持っていくドヒュマンッグ犬人間の警察官。


『すいません、男性が一名、キャヒュマンット猫人間が一体門を通ります。チャレッベさんよろしくお願いします』


 ドヒュマンッグ犬人間の警察官の声は無線機だけでなく、静かな暗闇の中にも吸い込まれて行った。

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