【14-2】

 電気網に取り付けられている電灯が周囲の暗闇を明るく照らしている。


 そして、その近くにある小さな島は電灯の光を浴びて小さな昼になっていた。


 それから、島の端にはチャレッベと呼ばれた女性警察官が一人腰掛けている。


 チャレッベも手首の無線機を口元に近づけた。


『了解』


 チャレッベは二十代後半に見える容姿で、薄い水色の制服を身にまとい、身長は百五十五センチメートル程をしている。黒い前髪は目の上まで垂らし、後ろ髪を首まで伸ばしていた。目尻は若干下がっていて、黒い瞳を宿しており、優しさを感じられる雰囲気をまとっている。そして、胸部には一対の盛り上がりが少しあった。


 チャレッベは腕に巻かれているスイッチを軽く指で押し込む。


 すると、下に広がっていた電気網に小さな円形状の穴が出来上がった。穴は広がるように少しずつ大きくなっていき、数秒程でマサルンとンザールゥが一緒に通れるほどの大きな穴に姿を変える。


 マサルンは出来上がった穴を見つめながら微笑む。


「冗談で終わらなくて安心しました」


 ドヒュマンッグ犬人間の警察官は引きつった顔を作る。


「嘘ついて問題起こしたら、すぐさま同僚の銃弾で体に小さな穴を作ってしまうよ」


「それは恐ろしいですね」


 銃口を携帯火炎放射器を持った警察官に向けながら苦笑いを浮かべるドヒュマンッグ犬人間の警察官。


「最後は、宇宙に落ちる前に先に火炎放射器で丸焦げにされてあわれな姿をさらすことになる」


 ンザールゥは眉尻を下げて尻尾を両足の間にくぐらせる。


「ボクたちも変な事したら、今すぐ丸焦げにされちゃうミャ?」


「丸焦げにされてそのまま落ちていき、外の生物に食べられてみじめな最期を迎えるよ」


 目を見開きながら尻尾を下げるンザールゥ。


「そんな最期になりたくないミャー」


「それなら、一個質問に答えて貰おうかな? そうすれば、同僚から痛い贈り物を貰わないからさ」


「分かったミャー、なんでも答えるミャー」


 マサルンは細めた目をンザールゥに向けてささやく。


「おいっ、なんでもは答えちゃダメだぞ! 今までおかしてきた罪の数なんか特にな! 本当に丸焦げにされちゃうから! かっこ冷や汗」


「それくらい言われなくても分かってるミャ。あと、ボクは真面目に生きてきたミャ」


 尻尾を上げながら首をかしげるドヒュマンッグ犬人間の警察官。


「君達はこれから外に出て何をするつもりなんだい?」


「ちょっと、人探しに行くミャ」


「誰かを探してるのか? それともまさか、人探しという仮初かりそめの目標を立てて、死ぬかもしれない外の世界で、緊張感を恋愛感情と錯覚する事を狙ってお互いの仲を深めようとしてるんじゃないだろうな?」


 ドヒュマンッグ犬人間の警察官は口の端を上げながら語気を強める。


「いやぁ、熱いなぁ、その、追い込んでまで仲良くなろうとする姿が熱すぎる!」


 硬い笑顔を作りながら高速で首を横に振るマサルン。


「そんな複雑な外出するつもりないですから! しかも、そんな事する人が居たらそのうち本当に命を失いますよ!」


「だから外の空での交流はすごく仲良しになれると思うんだけどなぁ。……それで、違うなら何しに?」


 マサルンは真剣な眼差しをドヒュマンッグ犬人間の警察官に向ける。


「昨日の夜から家に帰ってない子が行方不明なんです。警察の方にも情報は入ってるはずなんですけど、知りませんか? オレたちはその子が宇宙方面に落ちていった可能性が高いと思って、動いてくれない警察に代わって探しに行こうと思ってます。アーノルド君って名前なんですけど、知りませんか?」


「あー、行方不明者かぁ。……んー、確かに子供一人探す仕事があったはず」


「じゃあ、お兄さんも含めてなんで警察の方は動こうとしないんですか?」


 拳をかかげながら語気を強めるンザールゥ。


「そうミャ、アーノルド君を探して欲しいミャ!」


 ドヒュマンッグ犬人間の警察官はかわいた笑みを浮かべながら呟く。


「いやー、たぶんみんなも行方不明者を助けたいって気持ちはあるはずだよ」 


「気持ちがあるのに、どうして動いてくれないミャ?」


 肩をすくめながら言葉を漏らすドヒュマンッグ犬人間の警察官。


「俺たちも守りたいものがあるからね。それに、全く動かないって訳じゃない。他の仕事を片付け終えたら、絶対に行方不明者を探すように動くから」


「それっていつミャ?」


「他の仕事次第だよ」


 ンザールゥは眉尻を下げながら頭を抱える。


「それじゃあ間に合わないミャー」


 引きつった顔を作りながら小首をかしげるマサルン。


「それって、言い方が違うだけで助けないって事になりませんか?」


 ドヒュマンッグ犬人間の警察官は目を細めながらささやく。


「あんまり声を大きくして言えないんだけど、聞いてくれ。まだ若いし一般人の君たちにお願いするのは恥ずかしい事なのは分かっている。でも、現状ではこれしか方法がない。……オレたちの代わりに行方が分からない子供を見つけて来てくれ」


 腰に手を当てながら胸を張るマサルン。


「頼まれなくても、最初からその気ですから!」


 ンザールゥは眉尻を下げながら硬い笑みを作る。


「本当はお兄さんたちに動いて欲しいと思うミャ、でも、仕方ないミャ」


 腰に手を添えながら胸を張るンザールゥ。


「あとの事はボクたちに任せるミャ!」


 ドヒュマンッグ犬人間の警察官は深くうなずく。


「身の危険を感じたらすぐに戻って来てくれ。助けたい気持ちは分かるけど、出来ない事を強行して自分たちの命まで落とさないでくれ」


 眉尻を上げながら拳をかかげるンザールゥ。


「そうならない為に、ボクたちもしっかり準備してきたミャ!」


「怪我をして動けなくなったりするのも勘弁してくれよ? 俺たちが探さなくちゃいけなくなるからな。しかも、君たちならもう分かってると思うが、その助けも期待できない」


 マサルンはこわばった顔で言葉を漏らす。


「何とか無事に戻って来るよう努力しますよ。もちろんアーノルド君を連れてね」


 真剣な眼差しを二人に向けるドヒュマンッグ犬人間の警察官。


「いいか、理想は君たち二人がここに戻って来ることだからな? 犠牲を出してまで動くのは愚か者って奴だ。それじゃ、健闘を祈る」


「分かってますって。それじゃ、お兄さんもお仕事頑張ってください」


 マサルンは赤丸君と一緒に手を振りながら、電気網に出来た穴を通って下りていく。


 ンザールゥも握っている武器を振りながら呟く。


「お兄さんにも、いい事があるように祈っとくミャ」


 ドヒュマンッグ犬人間の警察官はかわいた笑顔を作りながら二人を見送る。


「いっぱい電池が貰えるよう祈っててくれ」


 そして、マサルンとンザールゥは下に広がる暗闇にゆっくりと下りていく。


 二人が電気網の門を通過し終えると、大きな穴は少しずつ小さくなっていき、網目状あみめじょうの壁が復活した。

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