【12-4】

 ンザールゥは素早い足取りで店の中心に並べられている商品棚に向かって行く。


 それから、様々な商品の前を横切っていき、ゴーグルが置かれているに場所に視線を固定させる。


(あったミャ! ……ミャーン、一個一電池もするミャ。でも、買わないと目が辛くなっちゃうミャ、仕方ないミャ。ボクの分とマサルンの分の二つ持って行くミャ)


 ンザールゥはたくさんの種類の中から同じ種類のゴーグルを二つ掴み取った。そして、会計所に向かって素早く足を動かしていく。




 マサルンは武器売り場に小走りで向かった。


 それから、武器売り場から少し離れた商品棚を眺めていく。そして、照明器具が置いてある商品棚の前で足を止める。


(あった、電灯! って、値段高っ! 気持ち的には高い照明機能は欲しい、暗闇に包まれる範囲を狭くしたいからね。でもなぁ……)


 真剣な眼差しを作りながら別の照明器具の値札を眺めた。


(おっ、二電池、これは安い! てか、これが一番安い商品か)


 照明器具の先端には大きくて赤く丸い形をした飾りが付いている。飾りには口や目に似た模様が描かれていた。


 マサルンは照明器具を掴み、スイッチをいじる。すると、二つの目の模様から光が放たれた。


(うーん、ちゃんと照らしてくれるかは心配だけど、今オレの持っている電池ではこれを選ぶ選択肢しか残ってない。はぁ、仕方ない……これ買うか)


 お茶目な照明器具を握りしめながら、会計所まで小走りで向かって行く。




 ンザールゥは会計所の机の上に二つのゴーグルを置いていた。


 マサルンも奇抜な装飾そうしょくほどされている照明器具を机に並べる。


 新しく商品が三つ追加されたことによって、近くの液晶画面の数字が増えていった。


 そして、店員は無表情で言葉を漏らす。


「三十三電池になりまっす」 


 顔をしかめさせながらたじろぐマサルン。


「うっ、ンザールゥと半分ずつ支払ったとしても、十六電池、十六本、かっこ涙目」


 ンザールゥも目を見開きながらたじろぐ。


「ミャッ!? ボクの方が一本多く支払うことになってるミャ、どうしてミャ!?」


「大人のレデーは困ってる相手を見つけたら、自分から進んで負担が大きい事を選ぶもんなんだよ、かっこニヤリ」


 眉尻を上げながら拳をかかげるンザールゥ。


「なるほどミャ、大人のレデーのボクは困っているマサルンを助けるために、一本多く支払う事にするミャ……って、そんなわけないミャ!」


「クロスボウと赤丸君の二つに電池使わないといけないから、ここはンザールゥに助けて欲しい、かっこ涙目」


 ンザールゥは頭を掻きながら尻尾と眉尻を下げる。


「ミャーン、ボクもライトニングガン使うから節約したいミャ」


「どうしてもイヤか? かっこ冷や汗」


「できれば少ない方選びたいミャ、これはボクじゃなくてもみんな同じだと思うミャ」


 真剣な眼差しをンザールゥに向けるマサルン。


「そうか……なら、やるべきことは分かってるよね? かっこ冷静」


 ンザールゥも鋭い眼差しをマサルンに向ける。


「ミャー、分かってるミャ。意見が対立した場合はアレで決めるしかないミャ」


 マサルンとンザールゥは互いの顔を睨みつけた。


 数秒程静かな時間が流れ、店内から響いてくる雑音が大きく感じられる空間が出来上がっていく。


 そして、ンザールゥは右手を体の前に差し出す。


「じゃんけんッ」


 無表情で右手を動かし始めるマサルン。それから、肩に掛けている黒い鞄の中から、ンサ電池を数本掴み取る。そして、机の上に置いていきながら呟く。


「先に電池を十六本置いた方が勝ち、負けた方は一本多く支払う。至ってシンプルで素早い決め方だ、かっこニヤリ」


 ンザールゥは目を見開いたままたじろぐ。それから、チョキの形をした指を急いで白い鞄の中に伸ばしていった。


 眉尻を上げながら語気を強めるマサルン。


「やった、オレの勝ちだ! かっこ笑い」


 ンザールゥは尻尾を下げながら呟く。


「ミャーン、ボクの負けミャー。しばらく本当に何もお買い物できなくなっちゃうミャー」


 腕を組みながら何度もうなずくマサルン。


「欲望は身を亡ぼす。欲を捨てて無心で生きていけば、必ず幸せが訪れる、かっこ冷静」


「それって、マサルンのことじゃないかミャ?」


 マサルンは小首をかしげる。


「あれれ? かっこ冷や汗」


 ンザールゥは小さなため息をつきながら机の上にンサ電池を置き終えた。


 そして、微笑みながら言葉を漏らす店員。


「お買い上げありがとうございましたぁ」


 マサルンは机に置かれた弾倉を掴み取ったら、黒い鞄の中に放り入れる。それから、残りの弾倉も鞄に仕舞い、クロスボウも拾い上げたらもう片方の手で赤丸君を握りしめた。


 すると、店員がマサルンの照明器具を指さす。


「あ、電池は抜いてね」


 硬い笑顔を作りながらたじろぐマサルン。


「えぇっ、そこはおまけしてくれないんですか!?」


 店員は苦笑いで手を横に振る。


「いやいや、無償で電池お客さんにあげるわけでしょ? 無理無理、置いてって」


「はぁ」


 赤丸君の蓋を開けて、中のンサ電池を机の上に転がすマサルン。


 一方、ンザールゥはライトニングガンを衣装のポケットの中に忍ばせる。それから、左右の手それぞれになた金槌ハンマーを握りしめた。


 そして、こわばった顔で呟くマサルン。


「ンザールゥさん、その持ってる物騒なモノを、オレに振り回さないでね、かっこ冷や汗」


「ボクも生きてるミャ、感情を抑えられなくなって、手が勝手に動いてしまうかもしれないミャ」


 マサルンは眉尻を下げながらなげく。


「もしそんなことが起こるんだったら、オレはこのまま家に帰ろうと思うんだけど、かっこ涙目」


「中段、下段ミャ!」


下段げだん中段ちゅうだん上段じょうだんね、かっこ流し目」


 笑顔を浮かべながら尻尾をくねらせるンザールゥ。


「そうミャ、それが言いたかったミャ!」


 武装を終えた二人は、賑やかな雰囲気フインキまといながら店の出入り口に歩いていった。

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