【12-3】

 マサルンとンザールゥは食品が並べられた棚を見渡しながら歩き続けた。


 そして、ンザールゥは口をとがらせながら呟く。


「アーノルド君の為に食べ物を買うのは同意ミャ。でも、ボクはお腹減ってないミャ」


「電池に余裕があるなら自分用の食料を多めに持って行ってもオレは何も言わないよ、かっこ微笑ほほえみ」


「食べ物を多く持って行ったとしても、ボク一人で食べるつもりは無いミャ」


「ありがとう、オレの事も考えてくれてて、かっこ笑い」


 深いため息をつきながら肩を落とすンザールゥ。それから、微笑みながら首をかしげる。


「マサルンはどんな食べ物買っていくミャ?」


「シンプルにおにぎりを持って行こうかなと思ってるよ。さすがに何日も探し続けないでしょ? 食べやすい上に味も文句なし、一個一電池で買える安い握り飯が最強だよ! かっこ決め顔」


 ンザールゥは尻尾の先端を動かしながら首をかしげる。


「ミャッ、『おむすび』と『おにぎり』の違いって、マサルンは知ってるミャ?」


「どうした突然、かっこ冷や汗」


 薄いまくに包まれた握り飯を手に取るマサルン。


「……えーっと、『おむすび』は炊かれた米を四角い形に固めた物を呼んでいて、おにぎりは炊かれたご飯を三角形の形に握った物がそう呼ばれているよ、かっこ決め顔」


「そうだったかミャ? 『おむすび』は丸い形のご飯で、『おにぎり』が四角い形の食べ物ミャ」


「うーん、食べ物についてはやっぱりンザールゥにかなわないや、先生と呼ばせてくれ! かっこ冷静」


 ンザールゥは眉尻を下げながら硬い笑みを浮かべる。


「食べ物一個の知識で尊敬し過ぎミャ」


「で、ンザールゥはなに買っていくの? かっこ冷静」


「ボクはドライフルーツを選ぼうと思ってるミャ、一個一電池ミャ」


「えー、なんかイヤだな、かっこ流し目」


「なにがイヤミャ?」


「ンザールゥは肉汁がしたたってるみずみずしい食べ物がお似合いだから、可愛らしい食べ物を選んでる事にオレの体が拒絶してる、かっこ冷や汗」


 眉尻を下げながらなげくンザールゥ。


「食べ物くらいボクの好きにさせてミャー」


「ドライフルーツだけじゃ栄養が不足するから、乾燥野菜も買いなさい! かっこ冷静」


「お母さんみたいなこと言ってるミャー」


 ンザールゥは商品棚に置かれているドライフルーツが詰め込まれた透明な袋を掴んだ。


 一方、直径十センチメートル程の白い塊を掴み取るマサルン。


「冗談抜きで、傷薬買う余裕なくないか? かっこ冷や汗」


「ボクはライトニングガンにも電池使うから厳しいミャー」


「オレもクロスボウに電池持って行かれるから買えないよ、かっこ冷や汗」


「本当に敵の攻撃を貰わないようにしないとダメになっちゃったミャ」


「傷薬も買いたかったなぁ。でもその分、身を守る武器を手に入れられるんだし、ここは覚悟を決めよう、かっこ決め顔」


 マサルンとンザールゥは両手に商品をたずさえながら商品棚の横を進んでいった。




 マサルンとンザールゥは会計所前に到着し、持っている商品を机の上に置いていく。


 机の上に次々と商品が並べられると、物騒な光景が出来上がった。


 一方、机の反対側には店員が立っている。


 店員は薄汚れた制服を着ていて、三十代に見える容姿をしていた。


 そして、店員は机に置かれた数々の商品を目を見開いて見つめる。


(じでぃゃっ!? なんだこのキャヒュマンット猫人間連れの恋人アベックは!? これからやましい事しでかそうとしてるんじゃないよな? って、まさかその対象が俺だったりするのか!?)


 店員の近くにそなわっている装置が液晶画面に数字を表示させた。


 それから、店員はこわばった顔で液晶画面を眺める。


「合わせて二十九電池になりまぁす」


 肩に掛けている小さめの黒い鞄を開けて、中に入っているンサ電池を取り出すマサルン。そして、ンザールゥに苦笑いを向ける。


「え、これって値段の半分を二人がそれぞれ支払う感じ? かっこ冷や汗」


 ンザールゥは白い鞄から財布を取り出し、うなずきながらンサ電池を摘まむ。


「もちろんミャ!」


「ンザールゥが二十電池支払って、残りはオレが払うってのはどうだろうか? かっこ冷や汗」


「ミャ、もしかして電池が足りなかったミャ?」


「いや、お金持ちのンザールゥなら全額支払ってくれるかなぁって。でも、流石にそんなことしてしまったらオレは本当にどうしようもない人間になってしまう。だから、九電池だけはオレが払ってンザールゥの負担を軽くしようと思った、かっこ笑い」


 尻尾を垂らしながらため息をつくンザールゥ。


「かっこいい姿見せようとしてるけど、結局どうしようもない人間になってるミャ」


「気付かれてしまったか、かっこ真顔」


「そもそも、ボクはお金持ちじゃないミャ。マサルンと同じようにボクも貧乏さんミャ」


 マサルンは目を見開きながらたじろぐ。


「オレが貧乏だって決め付けられた!? かっこ涙目」


「違うなら、やっぱり半分こで電池払うミャ」


 会計所前ではしゃいでいる恋人アベックに、無表情のまま語りかける店員。


「あの、お客さん、ちょっと質問しても良いですか?」


 マサルンは硬い笑みを作る。


「えっ、あっ、はい?」


「これから何かするのか?」


「えっ、これから、ですか? えっと、カイルの外に行こうと思ってて」


「もう外は暗くなってるけど、大丈夫かい?」


 顔を引きつらせながら小首をかしげるマサルン。


「大丈夫って、何がですか?」


「真っ暗で何も見えなくなるぞ?」


「あー、確かに言われてみればそうですね」


「そっちのキャヒュマンット猫人間のお嬢ちゃんは大丈夫かもしれないけど、君は弱肉強食の世界で、弱者の存在になってしまうだろう」


 店員は腕を組みながら何度もうなずく。


「外で何するのかは知らないが、明かりは絶対必要だよ。クロスボウとライトニングガンを買うんだったら、本体に取り付けるオプションなんかどうだ? それとも、頭に電灯を巻き付ける物も自由に手が使えるから便利だな。もちろん照明器具を手に持って行くのも良い、値段が少し安くなるからな」


 かわいた笑みを浮かべながら軽く頭を下げるマサルン。


「はぁ、ありがとうございます」


 店員は指で円を作り出し、二つの円を目に重ね合わせる。


「あと、もし長い時間外で移動するんだったらゴーグルも買っといた方がいいぞ。目が乾燥して辛くなってしまうからな」


 こわばった顔をンザールゥに向けるマサルン。


「という事らしいよ、ンザールゥ、かっこ冷や汗」


 ンザールゥは口の端を上げながら頭を撫でる。


「危なかったミャ。お兄さんの助言が無かったら、ボクたちはカイルに戻ってこれなかったかもしれないミャ。しっかりした装備でお外に行くミャ」


 顔を引きつらせながら呟くマサルン。


「あの、もちろん追加の電池を支払わないといけないですよね?」


 店員もこわばった顔を作りながら頭を掻く。


「こっちは人助けの為に物をゆずってるわけじゃないからねぇ」


「ですよねー」


 微笑みながら店の奥を指さす店員。


「ゴーグルは店の中央に置いてあるぞ、電灯は武器売り場の近くに置いてあるから探してみるといい」


「分かりましたぁ、ちょっと見てきますねー」


 マサルンとンザールゥは店員に向けて軽く手をあげる。そして、店の奥に向かっていく。




 ンザールゥは尻尾をくねくねさせながらマサルンに向けて手をあげる。


「ボクは二人分のゴーグル持ってくるミャ、マサルンは好きなあかり選んでくるミャ。あと、できれば早めに選んで欲しいミャ」


「あっ、もう買う事は決定済みなんですね。いや、別にいいんだけどね、かっこ涙目」


 マサルンとンザールゥは二手に分かれて店内の小さな迷路を進んでいった。

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