【11話 ンザールゥのお部屋】

 ンザールゥは急いで靴を玄関に脱ぎ捨て、廊下を小走りで進む。


 家の中は静寂に包まれていて、ンザールゥの足音が家の中に響き渡る。


(ママもパパもまだ帰って来てないミャ)


 急いで部屋の中に入ったら、隅にそなえられた石材の机に近づいていく。


 そして、机の上に置いてある黄色の財布を掴む。それから、近くの床に転がっていた直径五十センチメートル程の白い鞄に寄っていった。


 鞄を拾い上げ、持っていた財布をゆっくり奥に仕舞い込む。


(他にも持って行く物は残ってないかミャ?)


 ンザールゥは額に手をかざしながら辺りを見渡す。


(文房具も戦いになったら使えなくはないミャ。でも、威力は期待できそうにないミャ。結局電池以外何も持って行く物が無かったミャ、これじゃンョシウと同じミャー)


 硬い笑みを浮かべながら部屋を出て、小走りで廊下を走っていくンザールゥ。その途中で、壁に掛けられている石材の掲示板の前で足を止める。そして、近くに置いてあった筆記用具で文字を書いていく。


(ンザールゥはちょっと夜のお出かけしてくるミャ。ンョシウも一緒ミャ)


 ンザールゥは小さくうなずき、急いで玄関に向かっていった。


 それから、勢いよく玄関から飛び出し、微笑みながら手をあげる。


「準備完了ミャ! 見張りは頑張ってくれたかミャ?」


 胸に手を当てながら深く頭を下げるンョシウ。


「おかえりなさいませご主人様! ご無事に戻って来られて何よりです! そして、ご主人様に報告が一つあります! かっこ冷静」


 ンザールゥは目を見開きながらたじろぐ。


「どうしたミャ? 本当に不審人物が近づいて来たミャ?」


「報酬が約束されていなかったのでやる気が出ず、夜空に輝く星を見て時間を潰してしまいました! かっこ冷や汗」


 尻尾を下げながら小さくため息をつき、肩を落とすンザールゥ。


「たとえ報酬が無くても、少しくらいボクのこと心配して欲しかったミャ」


「なんだよ、本当にオレがそんな冷たい事すると思ってるのかよぉ? かっこニヤリ」


「残念だけど、思っちゃうミャ」


 ンョシウは腕を組みながら顔をそむける。


「ひどいなぁ、しっかりンザールゥの家を守ってたのに! 三十秒だけだけど、かっこ笑い」


「微妙な数字で反応に困っちゃうミャー」


 口の端を上げながら人差し指を立てるンョシウ。


「反応に困ってる暇があったら、さっさと出発するよっ! かっこ決め顔」


「ミャー、困らせてる本人が張り切ってるミャー」


「で、買い物はどこでしようか? どこか行きたい所はある? かっこ冷静」


「ボクはホームセンターがいいと思うミャ。武器になりそうな物も売ってるはずミャ。それに、お腹が空いた場合にそなえて食べ物も欲しいミャ」


 ンザールゥは腕を組みながら尻尾を上下に動かす。


「ンョシウはどこで買い物したらいいと思うミャ?」


 微笑みながら親指を立てるンョシウ。


「オレもホームセンターだな! かっこ決め顔」


 ンザールゥは肩を落としながら尻尾を下げる。


「何も考えないでボクが行きたい場所を選んだだけミャー」


「いやいや、ンザールゥが決めた場所なら間違いは無いからね、かっこ微笑ほほえみ」


「そんな自信満々にボクを信頼されても困るミャー」


 眉尻を上げながら拳をかかげるンョシウ。


「こういう重要な事はンザールゥの考えが正しい! かっこ決め顔」


 ンザールゥはかわいた笑みを浮かべながら頭を掻く。


「お店選ぶのに正しいも間違いも無いと思うミャー」


「そうかな? でも、ンザールゥが行きたいのは本当なんでしょ? なら行くしかない! かっこ決め顔」


 ンザールゥは尻尾と共に手をあげて微笑む。


「分かったミャー」


 ンョシウとンザールゥは体を宙に浮かせたら、暗闇の中に消えていった。




 空は各所の家から放たれる明かりにも負けずに、暗い闇を保っていた。


 そして、ンョシウはンザールゥに硬い笑みを向ける。


「あの、ンザールゥさん、ちょっと話聞いてもらっても良いですか? かっこ冷や汗」


「もちろんいいミャ!」


「万が一オレが迷子になったら、無駄に時間消費してしまうのは分かってるよね? かっこ苦笑い」


 肩をすくめながらため息をつくンザールゥ。


「言いたい事が分かっちゃったミャ」


 ンョシウは目を見開いて語気を強める。


「なにっ!? まさか、ンザールゥに心を読む力が目覚めたのか!? かっこ真顔」


 語気を強めながら目を見開くンザールゥ。


「ミャッ!? ボクに相手の心を読む力が目覚めたことに気付くとは、ンョシウにも心を読む力が目覚めたミャ!?」


 ンザールゥは素早くンョシウの背後に回り、ンョシウの背中を両手で押していく。


 ンョシウとンザールゥは薄暗い闇の中で月明かりを浴びながら、周囲の空を賑やかな声で響き渡せていった。

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