【10-2】

 マサルンはンザールゥより先に足を武装し終え、玄関を勢いよく開けた。


「どぇゅっ! やっぱり夜は外が暗いねぇ、かっこ冷や汗」


 微笑みながら小首をかしげるンザールゥ。


「ミャ? ボクがマサルンの手を握っていくミャ?」


「うーん、ンザールゥの家は近いし、大丈夫でしょ、かっこ真顔」


 ンザールゥは眉尻を下げながら靴を履き終える。


「ミャーン、でも心配だミャー」


「万が一この暗闇の中で迷子になったら大声を出すよ。この静けさなら、近所迷惑で多くの住人に怒られるほどの大きな声を響かせられるはず、かっこ冷静」


 マサルンとンザールゥは体を浮かせて、真っ暗な空に昇っていく。そして、月明かりが下から照らされている暗闇を進んでいった。




 マサルンはしらばく空を移動すると、眉尻を下げながら周囲を見渡す。


(うーん、他の家の明かりがあるとはいえ、ちょっと不安だなぁ)


 ンザールゥはマサルンに視線を向けた。


(ミャ? マサルンの速度が落ちてるミャ。……強がりだミャー)


 マサルンの背中を両手で押していくンザールゥ。


「ミャー! 暗くて前がよく見えないミャー!」


「いや、ンザールゥは暗くても目がよく見えるだろ! かっこ苦笑い」


「お夕飯食べた後だから、前がよく見えなくなってるミャー」


「そんなわけないだろ! かっこ流し目」


「バレちゃったミャ。マサルンの移動が遅いのと、迷子にならない保険ミャ」


「オレも夕ご飯食べたばっかりだから、なかなか移動速度が出なくてさぁ、困っちゃったよ、かっこ涙目」


「それこそ、そんなわけないミャ!」


 マサルンはンザールゥに背中を押されながら暗闇を進んでいった。




 マサルンとンザールゥは青黒い外壁をした家の前に着地した。


 そして、ンザールゥはマサルンに体を向けながら後ろ歩きをする。


「ボクも出かける準備してくるミャ」


 マサルンは小首こくびを傾げた。


「ちなみに、ンザールゥの家族はもう帰って来てるの? かっこ真顔」


「それは家に入ってみないと分からないミャ」


「ふーん、そっか、かっこ冷静」


 かわいた笑みを浮かべるマサルン。


「それじゃあ、ンザールゥの部屋で宝探しといきますか、かっこニヤリ」


 ンザールゥは後退しながら肩を落とし、ため息をつく。


「ボクの部屋で遊ばないで欲しいミャ」


「大丈夫だって、ンサ電池を見つけても貰うのは一本だけにしておくからさ、安心して! かっこニヤリ」


 後ろ歩きを続けながら拳を振り上げるンザールゥ。


「例え一本だけでもダメミャー! こっそりらないで欲しいミャ」


「分かってるよ、だからこうして堂々と貰っていいか確認してるんだろ? かっこ微笑ほほえみ」


「そういう意味でもないミャ! 取るのはアーノルド君を助けた功績こうせきにするミャ!」


 マサルンは眉尻を下げながら手を目元に添える。


「その功績こうせきを取る為にも、少しでも多くの電池が欲しいなぁ、かっこ涙目」


「ミャー、そう言われると反論できなくなっちゃうミャ」


 微笑みながら人差し指を立てるンザールゥ。


「仕方ないミャ、一本だけなら持って行っていいミャ」


「いや、下段げだん中段ちゅうだん上段じょうだんだよ、かっこ苦笑い」


「電池の事は置いておくミャ、マサルンも部屋に来るミャ?」


(う~ん、ンザールゥも一様女の子だよなぁ。オレが部屋に行ってもいいのかな? なんか恥ずかしい)


 マサルンは顔をしかめさせながら全身を掻きむしる。


「あっ、なんか体がかゆくなってきたかも、かいかいかいっ! かっこ冷や汗」


「本当にマサルンのお肌が敏感さんなら、ずっと前からかゆがってたはずミャ」


 親指を立てながら語気を強めるマサルン。


「よしっ! 今夜だけはンザールゥの家の番人になってあげるよ! 不審な者が近づいてこないように見張っててあげる! かっこ決め顔」


「ありがとミャー、って言いたいミャ。でも、なんだか素直に喜べないミャ」


 マサルンは微笑みながら頭を撫でる。


「バレちゃったかぁ。仕方ないなぁ、可愛いンザールゥの為だ。一分だけのつもりだったけど、二分に延長してあげる! かっこ笑い」


「二分以内で準備を済ませてくるミャ。しっかり見張っておいてミャ」


「了解しました、ご主人様! かっこ決め顔」


 ンザールゥは体を反転させて青黒い外壁の家に姿を消していく。


 一方、マサルンは肩にかけている黒い鞄を開け、中に手を入れてかき回した。

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