【9-3】

 マサルンはンザールゥより少し遅れて透明の袋に入っていた食べ物を空にした。それから、ショウコに真剣な眼差しを向ける。


「あのさ、お母さん。ちょっと話したい事があるんだけど、かっこ冷静」


 眉尻を上げながら首を横に振るショウコ。


「ダメよ」


「えっ?」


「ダメなものはダーメ」


 マサルンはこわばった顔をンザールゥに向ける。


「いやいや、まずは話を聞いてよ。ねっ、ンザールゥ?」


 鋭い眼差しをショウコに向けるンザールゥ。


「マサルンママ、ボクも言いたい事があるミャ」


 ショウコは腰に手を当てて、もう片方の手の人差し指を立てる。


「もぅ! ンザールゥちゃんも困っただねぇ。いくら可愛いむすめの頼み事でも、それは許すことは出来ないわ」


「大事なお話ミャ、聞いて欲しいミャ!」


 眉尻を上げながら語気を強めるマサルン。


「頼むよお母さん!」


 ショウコは頬に手を添えながら小さくため息をつき、肩を落とす。


「もぅ、しょうがない子たちだねぇ。分かったわ」


 胸に手を当てながら小さくため息をつくマサルン。


「良かったぁ! かっこ笑い」


 ンザールゥは両手をあげながら笑顔を浮かべる。


「やったミャー!」


 両手を頬の近くで合わせながら小さく笑うショウコ。


「デザートは甘いのがいい? それとも、ちょっと酸っぱいのがいいかしら?」


 マサルンとンザールゥは目を見開きながら同時に体勢を崩す。


 そして、体勢を立て直し、首を高速で横に振るマサルン。


「違う違う! オレ達はデザートの話がしたいんじゃないよ!」


 ンザールゥもショウコに真剣な眼差しを向ける。


「そうミャ! ボクたちのこれからについてのお話があるミャ」


 部屋の隅に設置された、三立方メートル程の装置に向かいながら呟くショウコ。


「二人の言いたい事は聞かなくても分かっているわよ」


 ショウコは装置の側面に置いてあったコップを二つ握ったら、装置の中心部に出来ている大きなへこみに置く。それから、装置に備わっているボタンを触ると、装置は大きな音を立てながら稼働し始めた。また、ショウコの髪が装置に向かって吸い込まれるかのようになびく。


 ショウコが再びボタンを触ると、そなわっている給水口から透明な液体がコップに注がれていった。


 一方、マサルンは引きつった顔を浮かべながらンザールゥに向けて呟く。


「ねぇ、なんかダメな雰囲気フインキを感じない? かっこ冷や汗」


「そうかミャ? きっとマサルンママなら分かっているはずミャ」


 コップに八割程度透明な液体が溜まると、装置は液体の放出を自動で止める。


 ショウコはコップを左右の手にそれぞれ持ち、マサルンとンザールゥの目の前にコップを差し出す。それから、頬を赤く染めて笑う。


「ごめんねぇ。私ったら飲みもの出すのを忘れちゃってて」


 目を見開きながら体勢を崩すマサルンとンザールゥ。


 そして、ンザールゥは硬い笑顔を作りながら頭を掻く。


「ミャー! 確かにボクもお水が欲しいとは思ってたミャ! でも今はその事が話したいんじゃないミャ」


 頬に手を当てながら首をかしげるショウコ。


「あら? また私、二人が考えている事を読み間違えたかしら?」


 マサルンは差し出されたコップを受け取ると、急いで口元に近づけていく。それから、中に入っている液体を勢いよく口の中に流し込んでいった。


 口の中を水分でうるおし終えると、真剣な眼差しを作るマサルン。


「あのさ、ちょっと外に出かけたいんだけど、いいかな?」


 ンザールゥも鋭い眼差しをショウコに向ける。


「ボクたちお外に出かけたいミャ、出かけなくちゃいけないミャ」


 指を頬に当てて首をかしげるショウコ。


「あら? それって今日じゃないとダメな事かしら?」


「そうミャ! 結構急いでるミャ。マサルン、そうミャ?」


 マサルンは眉尻を上げながら大きくうなずく。


「結構重要な事だったりする! お母さんに許して貰いたい!」


 人差し指を立てながら眉尻を下げるショウコ。


「私だって、鈍い訳じゃないのよ? 何がしたいのかは分かってるわ」


「それじゃあ、外出の許可を貰ってもいいかな?」


 語気を強めながら顔の前で手を合わせるンザールゥ。


「お願いするミャ! とっても大事なんだミャ!」


 ショウコは腕を組みながら、静かにマサルンを見つめ続ける。


(子供たちを暗い外に出かけさせるのは危険すぎるわ! でも、アーノルド君はもっと危険な状況なはずだわ)


 数秒ほど静寂が辺りを包み込む。


 そして、ショウコは眉尻を上げながら拳をかかげる。


「そうね……うん、頑張りなさい!」


 両手をあげながら喜ぶンザールゥ。


「マサルンママありがとうミャ!」


 マサルンは小さなため息をつく。


「ありがとう! それじゃ、結構急いでるから準備して来るね! かっこ冷静」


 軽く手を振りながら食卓から出ていき、廊下の奥へ小走りで進んで行くマサルン。


 ショウコは笑顔を浮かべながら手を振り、マサルンの背中を目で追う。


「行ってらっしゃい。でも、遅くなり過ぎないようにね! それと、ンザールゥちゃんの面倒をしっかり見るのよ!」


 ンザールゥも微笑みながらショウコに手を振り、マサルンを追いかけて廊下の奥に姿を消した。

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