【9-2】

 ショウコは二立方メートル程の装置に近づいていき、装置の側面に備わっているボタンに触る。すると、装置の上面に三十平方センチメートル程の穴が出来上がり、中から透明の長方形の袋が三つ現れた。


 ショウコは三つの袋を掴むと、近くの石材で出来たテーブルに近づいていく。そして、テーブルの隅三カ所それぞれに持っていた袋をゆっくりと置いていった。


「ささっ、マサルンもンザールゥちゃんも早く座って!」


 顔を引きつらせ、眉尻を下げながら頭を撫でるンザールゥ。


「ミャー、本当にボクも食べちゃって大丈夫ミャ?」


「いいのよ。ンザールゥちゃんは私たちの家族なんだから!」


 ンザールゥは両手をあげながら笑顔を浮かべ、テーブルのそばの椅子に腰かける。


「本当ミャ? 冗談でもマサルンママにそういわれると嬉しいミャー」


 頬に手を当てながら微笑み、椅子に座るショウコ。それから、マサルンに視線を向ける。


「うーん、冗談でもないんだけどねぇ、ねぇ? マサルン」


 マサルンも頭を掻きながら椅子に体を預ける。


「その話なんだけどさ、実は今日ンザールゥとおなじやり取りしたんだよね、かっこ苦笑い」


 小首をかしげながら小さく笑うショウコ。


「あら? じゃあ、もう既にンザールゥちゃんは家族って事かしら?」


 マサルンはかわいた笑みを浮かべながら肩をすくめる。


「いや、残念ながらンザールゥはこの家の雑用係になることになりました、かっこニヤリ」


 眉尻を下げながら目元に手をえるンザールゥ。


「もっと待遇を良くして欲しいミャー」


 ショウコは手を叩き、マサルンを見つめる。


「あら? 泣かなくてもいいのよンザールゥちゃん。この家では雑用係は男がやるって決まってるんだから」


 引きつった顔を作るマサルン。


「あら? そんな決まりいつできたんですか? かっこ冷や汗」


 ショウコは首をかしげながら笑う。


「頑張ってね?」


「なんか、この家の守護神的な、偉大な存在が忘れ去られている様な気がする、かっこ冷や汗」


 両手と眉尻を上げながら笑顔を作り、先端が四つに分かれたフォークを握りしめながら会話をさえぎるンザールゥ。


「早くご飯が食べたいミャー」


 テーブルに置かれていたフォークを掴むマサルン。


「そうだよ、めしの時間だよ! かっこ笑い」


 ショウコは頬に手を当てながら首をかしげる。


「あら? いつでも食べていいのよ?」


 頭を掻きながら硬い笑顔を作るマサルン。


「いや、そうなんだけど、なんか誰かさんの体から、今はまだ食べてはいけないって雰囲気フインキが出てた気がしたからさ。ね、ンザールゥ? かっこ冷や汗」


 ンザールゥも顔をこわばらせて頭を掻く。


「ミャッ!? 確かに、勝手に食べたらダメって雰囲気フインキが強かった気がしたミャ」


 苦笑いを作りながら小首をかしげるショウコ。


「あら? よく分からないけど、その誰かさんはきっと幻覚だから、気にしちゃダメよ? まさか、幽霊でも見てるのかしら? 怖いわぁ」


 ンザールゥは硬い笑顔を作りながらマサルンを見つめる。


「ミャ!? きっとそうミャ、おばけさんの仕業ミャ。マサルンもおばけさんのイタズラにあったミャ?」


 眉をひそめながら顔をしかめるマサルン。


「うん。きっと幽霊が美味しい夕ご飯を食べれなくて、オレ達に嫉妬したんだ。だから怖がらせようとしてきたんだな、かっこ冷や汗」


 ショウコは手を叩き、口の端を上げる。


「あら? それじゃあ夕ご飯を美味しくいただいて、近くで悪さしてる幽霊さんにもっと嫉妬して貰おうかしら! きっと、耐えきれなくてどこかにいってくれるはずだわ!」


「本人がそう言ってるんだから、間違いない! かっこ決め顔」


 かわいた笑みを浮かべながら小首をかしげるショウコ。


「えっ?」


 一方、ンザールゥは舌を口の端から覗かせ、透明の袋の上部に大きな穴を作り上げた。そして、持っていたフォークを透明の袋の中に突っ込ませる。


 フォーク先端が、袋の中に入っていた小さめに切り分けられた茶色い肉を突き刺していく。


 ンザールゥは口を大きく開けて肉を口に運んでいった。


「ミャー、インスタント食品でもやっぱりマサルンママの料理は美味しいミャー」


 微笑みながら頬に手を添え、口の中身を見せるンザールゥ。


「お肉の旨味が口の中に広がっていって美味しいミャー」


 ショウコは笑顔を作りながらンザールゥを見つめる。


「あら、その言葉は嬉しいけれど、それは私じゃなくて、インスタント食品を作った人や装置を褒めるのが正解よ」


 口を小さく動かしながら首をかしげるンザールゥ。


「ンミャ? ボクがおうちでインスタント食品を作るとなぜか美味しくならないミャー」


 ショウコもフォークに刺さった食べ物を口の中に運んでいく。


「あら? まぁ、インスタント食品も種類がいっぱいあるし、みんなそれぞれ好みの味や嫌いな味があるからねぇ」


 かわいた笑みを作りながら肩をすくめるマサルン。


「いやいや、ンザールゥは知らないだけなんだよ。実は、うちでは特別な調味料を使ってるんだ。だからたとえインスタント食品だろうと美味しくなっちゃうんだ! かっこ冷静」


 マサルンは眉尻を上げながら語気を強める。


「いや、美味しく感じさせてしまうんだ! かっこ決め顔」


 目を見開きながら口の中を見せるンザールゥ。 


「ミャッ!? いいミャー、ボクのおうちにも、その使ったらどんな料理も美味しくなっちゃう素敵な調味料が欲しいミャー」


「うーん。残念だけど、うちの外に持ち出すと何故か特別じゃなくなって、そこそこ美味しくなる調味料になっちゃうんだ、かっこニヤリ」


 ンザールゥは眉尻を下げて肩を落とす。


「ミャーン」


 しかし、すぐに微笑みながら両手をあげるンザールゥ。


「じゃあ、毎日マサルンのおうちにかよって、特別な調味料を堪能たんのうするミャ!」


 目を見開きながら声を荒げるマサルン。


「しまったぁ! これじゃあ毎日うちの中が騒がしくなっちゃう! かっこ苦笑い」


 マサルンは薄緑色の葉っぱを透明の袋の中からフォークですくいあげて、口の中に運んでいく。


 一方、首をかしげながら笑顔を作るショウコ。


「あら? 話を聞いていたら、私の作る料理が美味しくないみたいな言い方じゃない?」


 ショウコは小さな黄色い粒をフォークの上に乗せて、ゆっくり口の中に運ぶ。


 硬い笑みを浮かべながらたじろぐマサルン。


「あら? 勘違いをしているのでは? お母さんの作る料理は、どんな物でも美味しいですよ? これは本心からの言葉! かっこ微笑ほほえみ」


 ンザールゥは笑顔を作りながら手をあげる。


「ボクもマサルンと同意見ミャ!」


 頬の近くで両手を合わせながら喜ぶショウコ。


「あら、嬉しい!」


 三人はフォークで透明の袋の中から口に運ぶ作業を続けていった。

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