【9話 夕ご飯】

 マサルンは赤い外壁の家の前に下りたった。そして、微笑みながらンザールゥに手招きする。 


「あっ、ンザールゥ。家に寄っていきなよ、かっこ微笑ほほえみ」


 ンザールゥは小首をかしげた。


「ミャ? ボクもおうちに帰って準備してくるミャ」


「出来れば戦いに巻き込まれたくないのは前提として……。厳しい旅路たびじの前に夕ご飯食べていかない? 重力じゅうりきが不足した状態での捜索は、流石に危ないでしょ? かっこ笑い」


 尻尾を下げながら肩を落とすンザールゥ。


「ミャー、ボクが連れてく感じになっちゃったから、今回は迷惑かけたくないミャ」


 マサルンは眉尻を上げながら腕を組む。それから、目を細めながらンザールゥを見つめる。


「確かに、ンザールゥが居るとオレが満足する前に食べる物が無くなってる場合が多くて大迷惑だけどさ、かっこ冷や汗」


 尻尾を左右に激しく振り、頬を膨らませながら拳を振り上げるンザールゥ。


「そんな自分勝手に食いしん坊な事してないミャ!」


 マサルンは微笑みながら再び手招きをする。


「いつものように一緒に食べよう、かっこニヤリ」


 肩をすくめながらため息をつくンザールゥ。


「最初からそう言うミャ」


 ンザールゥは尻尾上げながら微笑み、マサルンの隣に着地する。


 二人は眼前のマサルンの家に歩いていく。


 そして、マサルンは玄関を開けながら大きく叫ぶ。


「母上! ただいま帰りました! かっこ笑い」


「母上って、突然なんミャ?」


「母上! とぼけた子猫ちゃんも一匹連れてまいりました! よって、夕ご飯の餌を一食分用意してくれると助かります! かっこニヤリ」


 尻尾を下げながら目を細めるンザールゥ。


「その子猫ちゃんってボクの事ミャ?」


 マサルンは肩をすくめながらかわいた笑みを浮かべる。


「被害妄想が激しいだねぇ、かっこ流し目」


 周囲を見渡したあと、肩をすくめながら硬い笑顔を作るンザールゥ。


「他に子猫ちゃんって呼べる存在が居ないミャー」


 マサルンはンザールゥの背後を指さしながら唇を震わせる。


「え? ンザールゥの後ろにいるじゃん? かっこ冷や汗」


 ンザールゥは目を見開きながら素早く後ろを振り向く。そして、肩を落としながら安堵あんどし、小さなため息をついた。


「怖いこと言わないで欲しいミャ」


 二人は廊下に上がり、そのまま食卓の入り口まで歩いていく。


 食卓ではマサルンママが腰に手を当てながらマサルンを睨みつけていた。そして、マサルンママは眉尻を上げながら笑っている。 


「あら? ンザールゥちゃんを雑に扱う悪い子に夕ご飯を食べる権利はないんだけど?」


 こわばった顔を作るマサルン。


「あら? かっこ冷や汗」


「ンザールゥちゃんいらっしゃい」


 ンザールゥは眉尻を下げながら尻尾を両足の間に通す。


「マサルンママ、お邪魔するミャ。もしかして、ボク来ちゃダメだったミャ?」


「そうじゃないよー、ンザールゥちゃんには来てほしかったわよー?」


 小さなため息をつきながら微笑むンザールゥ。


「安心したミャ」


「ンザールゥちゃんにはなんにも問題は無いのよぉ?」


 マサルンママは頬に手を当てながら首をかしげる。


「でもぉ、ンザールゥちゃんを連れてくるか分からなかったから、お料理の量が足りるか不安でねぇ」


「ミャッ!」


 両手を前に突き出し、首と一緒に左右に振るンザールゥ。


「ボク、今日はお腹が空いてないみたいミャ。ちょっとだけで大丈夫ミャ」


 マサルンママは指を頬に当てながら眉をひそめる。


「ンザールゥちゃんが空腹を我慢する必要ないのよぉ? 我慢する人は他に居るんだからぁ?」


「そうかミャ?」


 硬い笑顔を作りながら眉尻を下げるマサルン。


「あのー、もしかしてその人って、優しくて、健康に気を使っていて食事を少なくしているショウコさんの事でしょうか? かっこ苦笑い」


 ショウコと呼ばれたマサルンママは眉尻を上げながら語気を強める。


「マサルン、あんたの事だよ!」


「あら? かっこ涙目」


「と言いたいところだけど、ンザールゥちゃんが来ても来なくてもいいように、今晩はインスタント食品を中心にした献立こんだてだから安心しなさい! すぐに夕ご飯出来るわ!」


 ため息をつきながら肩を落とすマサルン。


「それじゃあ、さっきの険悪な雰囲気のやり取りはなんだったんだよ、かっこ苦笑い」


「あら? 驚いちゃったかしら?」


 マサルンは頭を掻きながら細めた目をンザールゥに向ける。


「オレは平気だけど、ンザールゥは驚いて漏らしちゃってそうだ、かっこ流し目」


 眉尻を下げながらンザールゥに視線を向けるショウコ。


 一方、ンザールゥは頬を赤らめながら高速で首を横に振る。


「ミャー! ボクはお漏らしなんかしないミャー! でも、ちょっとおトイレ借りるミャ」


 かわいた笑みを浮かべるマサルン。


「お漏らしの処理をする為にか? かっこニヤリ」


 ンザールゥは尻尾を左右に激しく振りながら拳を振り上げる。


「お夕飯前の準備ミャ!」


 小走りで食卓から離れて行くンザールゥ。


 一方、マサルンは小首をかしげながらショウコを見つめる。


「インスタント食品ってさっき言ってたけど、オレが釣って来たアヒルはどうなったの? かっこ冷静」


「あら? 気づいちゃった?」


「そりゃ釣ってきた本人だからね、自分で食べたいと思うのが普通でしょ、かっこ真顔」


「うーん、やっぱりそうよねぇ。でも、マサルンには本当に悪いんだけど」


 頭を軽く下げ、手を合わせるショウコ。


「生きたアヒルの運命を自分の手で決めるのがイヤで、まだ何もして無いの」


 ショウコは近くの床に置かれたアヒルが入っている四角いかごを指さす。


 かごを見ながら頭を抱えるマサルン。


「ふぉぅぇ! そんなぁ、アヒルから力を貰いたかったのにぃ! かっこ驚き」


「ごめんねぇ。あと数日すれば、美味しく仕上げる事が出来るはずだから、きっと」


 マサルンは頭を掻きながら眉をひそめる。


「うーん、ちょっと事情があって、なるべく早く助けが必要だったんだけどね、かっこ冷や汗」


 首をかしげて頬に手を当てるショウコ。


「あら? もしかして、アーノルド君探しの為に力をつけたかったのかしら?」


 マサルンは眉尻と口の端を上げながら、人差し指を突き出す。


「正解! かっこ決め顔」


 そして、尻尾を上げて笑顔を浮かべながら食卓に戻ってきたンザールゥ。


「マサルンママ、ボクはいつでもご飯食べれる準備が出来たミャー」


 ショウコは微笑みながら手を叩く。


「それじゃあ、そろそろお夕飯にしましょうか。インスタントだけど」


「やったミャー!」


 ンザールゥは尻尾を立てながら両手をあげて喜んだ。

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