【7話 ルゥクの口撃(こうげき)】

 マサルンとンザールゥは紫の外装の家が建てられている島の地表に下りていく。


 太陽の照らす光が弱まっているので、家の外装の紫色は薄暗くなっていた。


 そして、玄関の前には小さな男の子が遊んでいる。


 小さな男の子は七歳くらいの容姿で、百二十センチメートル程の身長をしていて、黒い髪の毛を短めで清潔感を感じるように整えていた。また、黒い瞳を宿した目は横に細い形をしている。下半身は黄ばんでいる白いボトムス洋袴を履き、上半身は色が薄まっている黒い服を着ていて、正面には長い刃物を持った人物が描かれていた。剣の玩具おもちゃを握りしめていて、もう片方の手には銃の玩具おもちゃを持っている。


 小さな男の子は剣を振り回して見えない何かと戦っていた。


「ジャヴォデャー! ギァャッヴォー!」


 近くに着地したマサルンとンザールゥに視線を向ける小さな男の子。


(知らない人だ。きっとお母さんに用事あるんだろう。気付かない振りしてやり過ごそ)


 一方、マサルンは小さな男の子を眺めながら呟く。


「あの男の子はアーノルド君について何か知ってるかな? かっこ冷静」


 尻尾の先端を動かしながら腕を組み、小さな男の子を見つめるンザールゥ。


「ミャー、歳が近そうだから知ってる可能性ありそうだミャ」


「そっか。じゃあ、家を訪ねる前にあの子に聞いてみよう、かっこ冷静」


 マサルンは小さな男の子に近づいていく。そして、小さな男の子を見下ろしながら笑顔を作る。


「やぁ、こんにちは。カッコよく大悪党ンザールゥをらしめてる最中に申し訳ないんだけど、ちょっとキミに聞きたいことがあるんだ。いいかな? かっこ微笑ほほえみ」


 眉尻を下げて目を細めながらため息をつくンザールゥ。


「ミャー、どんな姿をしてるか想像できる大悪党ミャー」


 小さな男の子は剣を振り回すのを止める。そして、眉尻を上げながらマサルン達に銃口を向けた。


「僕は大悪党ルゥクだ。お前らはここで死ね! ゲヴォォーン! ゲヴォォァーン!」


 顔を歪ませて、その場に膝まづくマサルン。


「ヴォッデォァー! く、くそっ、おのれルゥク、なんて強さなんだ! オレなんかが倒せる相手じゃない! かっこ冷や汗」


「ふんっ、まだ死なないのか。弱いくせに頑張っちゃって。苦しいだけだろう? 僕は優しいからね、すぐに苦しみから解放してあげるよ」


 小さな男の子は微笑みながら銃の引き金を引く。


「くらいな、僕の救世の弾丸をね。ヴォゲォーネァ!」


「しかしその時、謎の力がお兄ちゃんの体を包み込み、凶悪な弾丸から身を守ってくれた、かっこニヤリ」


 尻尾を下げて頭を掻きながらマサルンと小さな男の子を眺めるンザールゥ。


(アーノルド君の情報聞くのはどうなったんだミャー)


 小さな男の子は目を見開きながら語気を強めた。


「なんだとぅ!? 僕の慈悲じひを拒否しただって!? クソゥ、信じられないぞ! こうなったら、直接その体を刻み込んでやる!」


 剣の玩具おもちゃを振り上げるルゥク。それから、マサルンの体に向けて振り下ろす。


「フォグァッテャ!」


「つぁってぃぇ!」


 マサルンは顔をしかめさせながら吹き飛ばされる。


(いたァッ! ……こいつ、加減を知らないのかよ、子供おそろしや! いてて……はぁ、それで、この後はどうしようか)


 同じく吹き飛ばされたあと、体勢を整えるルゥク。


 マサルンも体勢を立て直し、手を上に伸ばして叫ぶ。


「ウギャー! かっこ涙目」


 眉尻を上げながら口をとがらせるルゥク。


「やられたら倒れてよ!」


「え、やられてないよ? かっこ冷静」


「だって今、『ウギャー』って叫んだじゃん! 斬られたって事でしょ!」


 マサルンは腰に手を当てて小さな男の子を見つめる。


「剣の感触が気持ち良くて、ウギャーってうっとりしてる時の声だよ、かっこ真顔」


「そんな声出さないもん!」


「残念だったな、オレはそういう声を出すんだよ、ヴォッヴォッヴォ! まんまと騙されたな大悪党ルゥク! くらえ、ちょっと触っただけで、どんなに強い敵も一瞬で倒れるやーつ! かっこニヤリ」


 眉尻を上げて微笑みながら両手をルゥクの脇の下に差し込むマサルン。それから、十本の指を細かく動かしていく。


 ルゥクは口を大きく開けながら笑い声を漏らす。


「ヴィヒッヴィヒッヴェヒッ!」


「降参するか? かっこニヤリ」


 笑いながらうなずくルゥク。


「ヴュヴュヴュンナ!」


 マサルンは口の端を上げながら指を動かすのを止める。


 そして、剣の玩具おもちゃを強く握りしめるルゥク。


「闇の加護を受けた疾風の刃をくらえ!」


 ルゥクは剣の先端をマサルンの腹部に突き刺す。


 しかし、真顔を作りながら突き攻撃をかわすマサルン。


「あのさ、お兄ちゃんちょっと急いでてさ、ルゥク君に聞きたい事があるんだけどいいかな? かっこ真顔」


 ルゥクは眉尻を下げてひるんだ。だけど、すぐに銃をンザールゥに向ける。


「そこの女、お前なんか臭う! この大悪党ルゥクが、その呪いから解放してやる! ギャヒョーン!」


 腹部を手で押さえながら眉をひそめさせ、顔を歪ませるンザールゥ。


「ミャーン!」


 ンザールゥは尻尾をくねくねさせながらしゃがみ込む。


「ごめんミャー。お姉ちゃんお風呂はもう少ししたら入るつもりミャー」


「安心しろ! ボクの救済の弾丸がその予定を撃ち壊してあげたからね」


 マサルンは頭を掻きながら硬い笑顔を浮かべ、ルゥクの近くで屈みこむ。


「ルゥク様、お兄ちゃん達は昨日の夜から家に戻ってない子供を探してるんだ。その子はアーノルド君って名前なのですが、何か知ってることは無いでしょうか? かっこ微笑ほほえみ」


 ンザールゥも身長を低くさせてルゥクに呟く。


「ルゥク様、そのアーノルド君はルゥク様と同じくらいの歳なんだミャ。何か知ってること無いミャ?」


 腰に手を当てて胸を張るルゥク。


「アーノルドなら、この大悪党ルゥクが成敗してやった」


 マサルンはこわばった顔を作る。


「ルゥク様、ご冗談は程々にお願いします。アーノルド君の事を知っているのでしょうか? かっこ冷静」


 眉尻と口の端を大きく上げるルゥク。


「お前たちがここに来る前に、この大悪党ルゥクが正義の魔術師アーノルドの思念体を漆黒の刃で刻んでやったぞ!」


 ンザールゥは首をかしげながら小さく笑う。


「ミャ? それってつまり、どういうことミャ?」


 眉をひそめながらなげくルゥク。


「大悪党ルゥクと正義の魔術師アーノルドは一緒に冒険する仲だった。でも、アーノルドはルゥクの事が気に入らなくなり、彼を残して一人で自分の故郷へ帰っていったのだ」


「ミャー? どういう事ミャ?」


 マサルンは硬い笑みを浮かべながら顔の近くで手を合わせる。


「ルゥク様、もっと分かりやすく説明していただけないでしょうか? かっこ冷や汗」


 眉尻を上げながら拳をかかげるルゥク。


「大悪党ルゥクと正義の魔術師アーノルドは未知の大海に向けて冒険しに向かったのだ。しかし、その道を阻む大きな壁が二人を絶望へと突き落とすのだった。でも、天は二人の事を見守っていたようで、大きな壁の抜け道を教えてくれると、二人は抜け道を通って大きな壁をこっそりと抜け出していく。すると、その先には沢山の生物が自由に動き回っている素晴らしい世界であったと同時に、危険な生物も蔓延はびこっている魔界でもあった」


 ルゥクは顔をしかめながら語気を強める。


「ルゥクとアーノルドが抱いていた喜びは徐々に薄れていき、恐怖に負けてしまうと急いで大きな壁へと戻るのだった。しかし、問題が発生したのである。怯えてしまった正義の魔術師アーノルドは大悪党ルゥクよりも先に壁の中に戻っていて、姿を消していたのであった。そして、一人で家に戻り、寂しさを覚えたルゥクの前にアーノルドの幻影が現れる。まぶしい光と共に激しい電撃を放ってきたので、ルゥクは漆黒しっこくの刃で反撃を仕掛けるのであった」


 両手を広げながら小さく微笑むルゥク。


 一方、マサルンは眉尻を下げながら頭を掻く。


「あの、ルゥク様。長い上に難しくて、余計に分からなくなってる気がするのですが、かっこ冷や汗」


 頬に指を当てながら小首をかしげるンザールゥ。


「ミャー!? よく分からなかったミャ。正義の魔術師アーノルドは結局どうしちゃったんだミャ?」


 ルゥクは眉尻を下げながら深いため息をつく。


「大悪党ルゥクを置いて、一人で逃げ帰ったのだ」


 素早く手を真っすぐあげて、語気を強めるマサルン。


「ルゥク様! そこの部分をもっと詳しくお話してくれませんでしょうか? きっと、正義の魔術師アーノルドの真実に辿り着けるはずなんです! かっこ冷静」


 ルゥクは肩を落としながら呟く。


「魔界の恐ろしさに負けて大悪党ルゥクは震えていると、後ろに居た正義の魔術師アーノルドに助けを求めようと振り向く。しかし、そこには彼の姿が無かったのだった」


 腕を組みながら尻尾の先端を小さく揺らすンザールゥ。


「ミャ? それって、アーノルド君は家に帰ってないって事にならないかミャ?」


 マサルンは目を見開きながらルゥクに詰め寄る。


「子供二人だけで電気網の外にこっそり出て行ったのは今は置いておくとしよう。それで、ルゥク君はアーノルド君が戻っていったところを見てないって事でいいんだよね!?」


 たじろぎながらうなずくルゥク。


「一緒に町の外から戻ろうとしたけど、いつの間にか居なくなってたんだ。先に帰っちゃったんだと思ったんだけど、今日家に遊びに来てくれなかったから、お兄ちゃん達の言ってる事が本当の事に思えてきたよ」


 マサルンは目を見開いてたじろぐ。


「これは大変なことになったぞ」


 目を見開きながらうろたえるンザールゥ。


「ハピハピサスィームィーを手に入れるよりも急がないとダメミャ」


「幸せなんて頑張ればいつでも手に入れられるけれど、今回の件は大事なものが簡単に失ってしまうよ」 


 ルゥクは眉尻を下げながら小首をかしげる。


「お兄ちゃん達、アーノルド君を見つけてきてくれるの?」


 こわばった顔を作りながら親指を立てるマサルン。


「アーノルド君の事はお兄ちゃん達に任せといて。あと、自分の事は責めないように。それと、今度から出かける時は、誰かに予定をきちんと伝える事、かっこ冷静」


 マサルンは腰に手を当て、人差し指を立てながら眉尻を上げた。


「勝手に電気網の外に行くのなんて、これで最後にするんだぞ。じゃないと、真の大悪党マサルン・ダークネスファイターがルゥク君の後ろから襲ってくるからね! かっこ冷や汗」


「真の大悪党マサルン・ダークネスファイターってなに?」


「とにかく怖い奴。どんなに強い人でも絶対勝てない存在。出会ったら逃げられない、かっこ冷静」


 目の下に手を添えるマサルン。


「負けちゃうしかない、かっこ涙目」


「そんな奴が居るなんて聞いた事ないもん!」


「いい子にしてない子しか襲わないから、そんなに有名じゃないんだよ、かっこ真顔」


 マサルンは硬い笑みをンザールゥに向ける。


「ね? ンザールゥ、かっこ冷や汗」


 とぼけた顔を作って小首をかしげるンザールゥ。


「ミャ?」


 ンザールゥはすぐに高速でうなく。


「ミャッ、そうミャ! いい子にしてる限り襲って来ないミャ! それと、家族に迷惑かけない事が、真の大間抜けマサルン・アホナンデスアハハーからのがれるいい方法ミャ! この情報はみんなにも教えると良いミャ! あと、『抜け道』の事も知らせた方がいいミャ!」


「真の大悪党マサルン・ダークネスファイターね、かっこ涙目」


 微笑みながらうなずくルゥク。


「うん、わかったよ。真のおおまぬけ・アホナンダーに会いたくないから、迷惑かけないようにするよ」


「それじゃあ、お兄ちゃん達は急がないといけないから、そろそろ行くよ、かっこ真顔」


 マサルンは語気を強めながら手を振る。


「真の極悪人マサルン・ダークファイトマスターには気をつけてね、かっこ微笑ほほえみ」


 腰に手を当てながら胸を張るンザールゥ。


「あとの事はお姉ちゃん達に任せるミャ! あと、ボクのおススメは好き嫌いしないで、体にいっぱい栄養を蓄える事ミャ。重力じゅうりきにもなるし、元気になれるミャ! それと、真のおおまぬけ・アホデースに襲われないように、常に正しいことを考えるミャ」


 マサルンとンザールゥは体を宙に浮かばせて、空の中を進んでいく。


 マサルンとンザールゥに向けて小さく手を振るルゥク。


「バイバイ」


 ルゥクは真剣な眼差しで遠ざかっていく二人組を見送り続けた。

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