【6-3】

 ンザールゥは体を浮かせながら周囲を見渡す。そして、尻尾を下げながら細めた目をマサルンに向ける。


「ミャー、幻の食材ハピハピサスィームィーなんて無かったミャ。本当にあったミャ?」


 マサルンは一瞬体を固めさせた。


(あの変なお兄さんから逃げる為の嘘でしたー、なんて言ったらンザールゥは怒るだろうか? そうじゃなくても悲しむかもしれないな)


 とぼけた顔を作りながら腕を組み、首をかしげるマサルン。


「あれぇ!? おかしいなぁ? さっきまでここに浮いてたんだけどなぁハピハピサスィームィー、かっこ冷や汗」


「なんだかマサルンの言葉から嘘ついてるのを感じ取れるミャ」


「えぅぁっ? オレのこと問い詰めてるけど、まさか本当はンザールゥが一人で全部食べちゃったって事は無いよね!? かっこ驚き」


 マサルンは顎に手を添えながら呟く。


「食いしん坊なンザールゥなら可能性が無いとは言い切れない、かっこ冷静」


 頬を膨らませながら手をあげるンザールゥ。


「ミャー! ボクはマサルンと一緒に幸せを掴むために一生懸命取ろうとしたミャ! 食べてないミャー!」


「だって、物凄い違和感を感じる事が起きてるんだもん! かっこ冷や汗」


 ンザールゥは引きつった顔を作りながら小首をかしげる。


「その違和感ってなんミャ?」


「ンザールゥがオレの言葉から嘘をついていると感じ取っていた。それってさ、ハピハピサスィームィーを食べた時に得られる一年分の幸せの効果が表れていたって事でしょう!? かっこ冷や汗」


「ミャッ、バレちゃったミャ? 勘が鋭くて有名なマサルンには誤魔化しが効かなかったミャー」


「いや? 別に勘なんて鋭くないけど? というか、冷静に考えたら一分以内に手に入れる事が出来なくてどこか遠くに消え去っただけでしょ。そんなにオレのことを持ち上げてもご褒美とか無いから、かっこ真顔」


 真顔を維持しながら尻尾を勢いよく左右に振るンザールゥ。


 真顔になっている二人の顔を小さな風が優しく撫でていき、濃い赤い髪とあわい青い髪をわずかに揺らしていく。


 しばらくの間、二人の周囲は静寂に包まれた。


 そして、マサルンは顔を歪ませながら語気を強める。


「いやぁ、幻の食材を手に入れられなくて残念だなぁ! くぅぉっ! もし食べる事が出来たならどんな幸せが待ってたんだろうなぁ! 悔しくて目から液体があふれそうだ! でも、過ぎた事にいつまでもこだわっていても仕方がない! かっこ冷静」


 眉尻を上げて拳をかかげるマサルン。


「よぉし! 気を取り直してアーノルド君の情報を集めに次の家に行ってみよう! かっこ決め顔」


 ンザールゥは眉尻を下げながら小さく微笑む。


「ミャー、幻の食材も欲しいけど、今はアーノルド君を探すミャ」


「ダョデャン! ここで問題です! 次にオレが訪れようとしている家は、どこでしょうか? 一秒以内にお答えください! かっこ笑い」


 目を見開きながらたじろぐンザールゥ。


「ミャー、早すぎるミャー! 時間足りないミャ。ハピハピサスィームィーより厳しいミャ」


「デャッデャッー! 残念ながら、時間切れですぅ! これじゃあハピハピサスィームィーが本当にあったとしても手に入れる事が出来ないじゃないかぁ、かっこ涙目」


 ンザールゥは指を頬に当てながら小首をかしげる。


「ミャ? 本当にあったとしたらってなんミャ?」


(ヴォデャッ! 勘が鋭いだなぁ。いや、オレがうっかりしてしまっただけか)


 人差し指を立てながら笑顔を浮かべるマサルン。


「うーん、でも今回は特別に、ハピハピサスィームィーが何処かにいくまでと同じ制限時間をもうけても良いんだけど、もう一回問題に答えてみるぅ? かっこニヤリ」


「ミャーン、やらないミャ。早く次のおうちに行くミャ」


「えっ、あっ、どぁっ。折角気分を上げながらアーノルド君を探そうとしてたのに、そんな冷たい反応されたら、耳から涙が流れちゃうよ、かっこ涙目」


 ンザールゥは目を見開きながらうろたえる。


「分かったミャ! 問題に答えてみるミャ! だから、お耳から涙流さないで欲しいミャー」


「あっ、本当? じゃあ、改めて。次にオレが向かおうとしてる家はどこでしょうか? 一秒――」


 尻尾を左右に激しく振りながら拳を振り上げるンザールゥ。


「ミャー! さっきと全く同じミャー!」


「話は最後まで聞きなさい! 次に向かおうとしている家はどこでしょう? 一秒以内に答えるのは厳しいので、一分一秒以内に答えなさい! かっこ微笑ほほえみ」


 ンザールゥは肩を落としながら尻尾を下げる。


「今度はその一秒が余計な物になってる気がするミャ。……ミャー、今までマサルンは一番近くのおうちをめぐって来たミャ。だから、あそこの青いおうちミャ!」


 一番近くにある島に向けて指さすンザールゥ。


 マサルンは無表情を続けながらうなずく。


「うん、ンザールゥが選んだ場所以外のところに行くつもりだったから、あっちの紫の家に行こう、かっこ冷静」


 小さなため息をつきながら肩を落とすンザールゥ。


「ミャー、ボクが悲しくなるだけの問題だったミャ」


 マサルンとンザールゥは外壁が紫色の家に向かって空の中を移動していった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る