【5話 正義の集まり】

 マサルンとンザールゥは下から照らされる太陽の光を浴びながら、前方の大きな島まで移動していった。


 島の中心部には三十平方メートル程の立派な建物が建てられている。


 マサルンとンザールゥは島の地表を低空飛行しながら中央の建物まで飛んでいく。


 マサルンは建物の前まで移動し終えると、硬い表情を作りながら周囲を見渡す。


「なんかそわそわして冷静でいられない、かっこ冷や汗」


 背筋を伸ばしながら尻尾を足の間に通すンザールゥ。


「ボクもなんだか落ち着けないミャー」


 マサルンは目を細めた顔をンザールゥに向ける。


「ンザールゥの場合は何かやましい事あるから落ち着く事が出来ないんじゃないの? かっこ流し目」


「そうミャー。実はまだ誰にも気付かれてない罪を犯したミャ」


「そうなんだ。じゃあ、警察署に行ったら罪を告白して楽にならないとね、かっこ笑い」


 素早く腕で両目を隠すマサルン。


「今までありがとう、一緒にいて楽しかったよ。さよなら、かっこ涙目」


「ミャー! 下段げだん中段ちゅうだん、冗談ミャ!」


「これから長い時間、いや、永遠に会えなくなるから、オレを悲しませないように誤魔化そうとしてるんだよね? そんな気遣いが出来るなんて、立派な大人のレデーだよ、かっこ涙目」


 ンザールゥは硬い笑みを作りながら頭を撫でる。


「マサルンママが料理してる時に、こっそり食材をつまみ食いしちゃったミャ。でもそれ以外ボクは何もわるい事してないミャー!」


「こっそりってのが重罪ですねぇ、かっこ流し目」


 笑顔を浮かべながら頭を撫でるンザールゥ。


「ミャーン」


 マサルンとンザールゥは雑談を交えながら歩いていく。そして、薄い石材で出来た扉を押し開けて、警察署の奥へと入って行った。


 署内の机に座っている警察官たちは、マサルンとンザールゥを一瞬鋭く睨みつける。でも、すぐに視線を机に戻し作業を再開させた。


 背筋を伸ばしながら硬い足取りで進んでいくマサルン。


(うぅ、なんか緊張感あるなぁ。おかしな行動出来ない!)


 ンザールゥも背筋を伸ばしてぎこちない歩き方をする。


(ミャーン、不審な行動したらすぐ怒られそうだミャー)


 そして、二人は受付にたどり着いた。


 受付の机の奥には薄まった水色の制服を着た三十歳ほどの女性警察官が椅子に座っている。


 女性警察官は硬い笑みを浮かべながらマサルンとンザールゥを出迎えた。


「こんばんは。本日はどういったご用件でしょうか?」


 ンザールゥは引きつった顔を作りながら手を真っすぐあげる。


「アーノルド君について教えて欲しいミャ」


 女性警察官も引きつった顔を浮かべる。


(え、何? アーノルド君って誰? このキャヒュマンット猫人間は何を言ってるの?)


 顔をしかめながら素早く頭を抱えるマサルン。


(直球な上に説明不足過ぎるよぉ)


 マサルンはたじろぎながら口を動かす。


「えーっと、昨日の夕方から行方が分からなくなっている子供の情報って、そちらに集まっていないでしょうか? 七歳くらいの子供で、名前はアーノルドっていいます。オレ達も心配でアーノルド君を探しているんですけど、情報が無くて困っているんです。もし何か知っていたら教えていただけませんでしょうか?」


 引きつった顔を続ける女性警察官。


「えっと、行方が分からなくなった方の関係者でしょうか?」


「いえ、ただのご近所っていうか、行方が分からなくなっている本人のお母さんから助けを求められている状況です」


 女性警察官は眉をひそめながら小さなため息をつく。


「……あの、関係者以外にこちらの情報をお教えすることは出来ないですね」


「えっ、オレ達も家にまだ帰っていないアーノルド君を見つけ出すのに協力したいんです。どんな危険な目に合ってるか分からないから早く助けないと」


 眉尻を上げながら二つの拳を顔の近くにかかげるンザールゥ。


「協力して助けてあげるミャ!」


 女性警察官は目を鋭くさせる。


「お二人が行方不明者の関係者だという事を証明できますか?」


 こわばった顔を作りながら首を横に振るマサルン。


「出来ません……」


 マサルンは眉尻を上げながら語気を強める。


「けどっ!」


 頭を少し下げながら顔の近くで手を合わせるンザールゥ。


「けど、お願いしますミャ」


 女性警察官は深いため息をつき、無表情になる。


「いえ、無理です、そういう決まりなので。行方不明者は警察が早急に見つけようと頑張っていますので安心してください」


 引きつった顔を作りながら頭を掻くマサルン。


「今、警察の方は忙しくて、アーノルド君の捜索に力を入れられてないって聞いてるんですけど?」


「現在発生してる事件が多くて時間を割けないのは事実です。しかし、他の仕事を片付け次第少しずつ人員を増やしていっているので心配しないでください」


「その、間に合わなかった場合はどうするんですか?」


 女性警察官はかわいた笑みを浮かべながら語気を強くする。


「困っているのはこの事件の関係者だけでは無いということを、どうか分かっていただけませんか?」


 小さく笑いながら手を叩くンザールゥ。


「ミャー、警察の人もお仕事頑張ってるミャー。これ以上迷惑掛けちゃダメミャ。ボクたちはそろそろ帰るミャ」


 ンザールゥは軽く頭を下げると、マサルンの腕を掴む。そして、出入り口までマサルンを連行していった。


 一方、警察署内で働いている警察官たちは、二人を冷めた視線で見送ったり、最初から無視している者など様々だ。

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