【4-3】

 マサルンは背伸びをしながら体を反転させる。そして、家の奥へ歩みを進めた。


「よーし、明日からの大仕事にそなえて、今日はゆっくり休んで力を蓄えないとなぁ、かっこ冷静」


 マサルンの背中を小走りで追いかけるンザールゥ。


「待ってミャ! ボクともうちょっとだけ遊ぼうミャ!」


 両手を腰に添えながら怒鳴るマサルンママ。


「マサルン! 家の外を見てみなさい!」


 マサルンはとぼけた顔を作りながら振り返る。


「えっ? かっこ冷や汗」


「お空の様子を言葉にしなさい!」


 顔を引きつらせながら窓に近づき、見上げるマサルン。


「上には岩の天井てんじょうが広がってるのが見えるね、かっこ冷静」


「そっちじゃないわ! 下を見てみなさい!」


「明るさが控えめになってるけど、いい天気だね。太陽が下から町を照らしてくれてるよ、かっこ冷静」


 マサルンママは腕を組みながら眉尻を上げる。


「つまり、どういことか分かってる?」


「えー!? もしかして暗くなるまでに、夕飯の食材になるもの釣ってこないとダメ!? かっこ涙目」


 頬に手を添えながらため息をつくマサルンママ。


「そうなのよ、マサルン達が釣って来てくれたアヒル一匹だけじゃ、夕ご飯がまずしくって」


「今日は小食で我慢しよう、かっこ涙目」


 ンザールゥは尻尾を下げながら頭を掻く。


「ボクがいっぱいお魚さんを釣り上げなかったせいミャー」


 目元に手を添えながらなげくマサルンママ。


「自分の息子に料理を満足に食べさせられないなんて、悪い母親だわ、しくしく」


 ンザールゥは硬い笑みを浮かべながらたじろぐ。


「マサルンママはいつも頑張ってるミャ! マサルンが全部わるいミャ!」


 親指を立てて笑顔を浮かべるマサルン。


「大丈夫だよ。きっとお父さんが食料持ってきてくれるから、かっこ笑い」


「そうね、お父さんに期待しましょう」


 マサルンママは眉尻を下げながら手を叩く。


「っと、お遊びはここまでにしといて、アーノルド君は今日の夕ご飯どころか、丸一日食事をっていないかもしれないのよ? のんびりしてる場合じゃないでしょう?」


「でも、もうすぐ暗くなっちゃうよ? 真っ暗闇の中を探すのは厳しいよ、かっこ冷や汗」


「厳しい真っ暗闇の中をアーノルド君は一人で心細くしながら助けを待っているかもしれないわ」


「今から探しに行ったら、夕飯の時間に間に合わくなる可能性があるけど、いいの? かっこ冷静」


 重ね合わせた手を頬に当てながら笑うマサルンママ。


「一回の食事とアーノルド君のどちらが大事かは、お母さんが答えなくても大丈夫よね?」


 マサルンは顔を引きつらせながら玄関に向かう。


「行ってきます! かっこ冷や汗」


 マサルンが玄関の扉を開けると、しこまれるわずかな光がマサルンの家の中を明るく照らしていく。


 そして、大きく手を振って見送るマサルンママ。


「頑張りなさいよ!」


 マサルンママはンザールゥに微笑みを向ける。


「ンザールゥちゃんもマサルンの事を手伝ってあげて頂戴。今度一緒にご飯食べる時にお菓子を付けちゃうから」


 尻尾を上げながら親指を立てるンザールゥ。


「お菓子は嬉しいミャ。けど、最初から一緒に行くつもりだったミャ」


 ンザールゥはマサルンママに小さく手を振りながら玄関を開ける。


「じゃあマサルンママ、ボクも行ってくるミャ」


 拳をかかげながら笑顔を作るマサルンママ。


「頑張ってね!」


 ンザールゥも玄関を開けると、再び明かりが家の中を少し照らしていく。


 そして、小さな音を立てながら扉は閉まっていった。


 視線をかごの中でたたずんでいるアヒルに移すマサルンママ。


「ごめんね。息子達の為に変身してもらうわね」


 アヒルは顔をマサルンママに向ける。


【もうお終いだぁ】


 アヒルは小さな鳴き声を薄暗い家の中に響かせた。

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