【4話 小さな太陽】

 マサルンとンザールゥは無事に赤い外壁の家の前に着地する。


 ンザールゥは背伸びをしながら呟く。


「ミャー、お家着いたミャー!」


 マサルンは細めた目をンザールゥに向けた。


「あのー、もしもし? 一応確認したいんですけど、ここはオレの家なのですが、かっこ冷や汗」


「そんな事分かってるミャ、そこまで阿呆あんぽんたんじゃないミャ!」


「ってことは、つまり? 深く考えると、ンザールゥは将来の事も見据えていて、将来オレの家が本当にンザールゥの帰る所になると思っていて、思わず口に出しちゃったって事か? かっこ冷静」


 目を見開いてたじろぐマサルン。


「え、それって、まさか!? かっこ驚き」


 ンザールゥは頬を赤く染めながら前に突き出した両手を左右に振る。


「ち、違うミャ! そういう事じゃないミャ!」


「困っちゃうなぁ。今はそこまで考えてないんだけどなぁ、かっこ冷静」


「こっちも困っちゃうミャ。恥ずかしいから話を深掘りしなくていいミャ」


 腕を組みながら眉をひそめるマサルン。


「首輪も買わないといけないし、専用の餌やトイレも買わなきゃいけないのかな? 餌は料理で余ったものを食べさせれば大丈夫だろうか? かっこニヤリ」


「飼われる事を考えてたわけじゃないミャ! 仮にそうなったとしても、もっと美味しいご飯食べさせて欲しいミャ!」


 マサルンは微笑みながら親指を立てた。


「仕方ない、火傷やけどするくらい熱々あつあつだけど、出来たての美味しいビーフシチューを毎日作ってあげよう、かっこ笑い」


熱々あつあつじゃなくて、少し冷めた程よい温度のビーフシチューがいいミャー」


「むっ、贅沢だな。じゃあ、大きなマグロ一匹を毎日提供してあげよう、かっこ微笑ほほえみ」


 頭を掻きながら眉尻を下げるンザールゥ。


「そんなに食べきれないミャー。それに、申し訳ない気持ちの方が勝って食べれないミャー」


 二人は微笑ましいやり取りを交わしながらマサルンの家の中に入っていく。


 そして、玄関に入ると、家の奥から赤い髪をした女性が二人を出迎えてくれた。


 赤髪の女性は三十台代後半に見える容姿で身長は百五十五センチメートル程をしている。目尻はやや吊り上がっていて、赤い瞳をしており、たくましさと可愛らしさが混同した優しい雰囲気フインキまとっていた。そして、鮮やかな前髪は眉毛辺りまで伸びていて、後ろ髪は肩まで垂らしている。ほころびが少しある黄ばんだ白い服を着ていて、正面には色が薄れているオレンジ色の太陽が描かれていた。また、下半身に履いている黒色のボトムス洋袴も色が薄れている。そして、胸部には一対の大きめのふくらみがあった。


 赤髪の女性は両手を横に広げながら小さく笑う。


「おかえりー。あら、ンザールゥちゃんまた今日も来てくれたの?」


 尻尾を立たせながら手をあげるンザールゥ。


「マサルンママ、ただいまミャ。今日のお夕飯はなんミャ?」


 マサルンは顔を引きつらせながらンザールゥを見つめる。


「え、食べていくつもり? かっこ流し目」


 マサルンママと呼ばれた赤髪の女性は、手で口を隠しながらもう片方の手を軽く上下に振った。


「まぁまぁ、いいじゃないの。実質家族同然なんだし、ねぇ?」


 尻尾と両手をあげながら喜ぶンザールゥ。


「家族ミャー!」


 マサルンは手で両目をおおい隠す。


(あぁ、涙が溢れそう)


 一方、二人が手に持っている道具を目を細めて見つめるマサルンママ。


「あら? 二人が持っているその丈夫そうな棒は、もしかして凶器?」


 マサルンは両手を前に突き出し、首と一緒に全力で横に振る。


「ち、違う! これはそういう道具じゃないから!」


 顔をこわばらせながらたじろぐンザールゥ。


「違うミャ! ボクたち、ただ食料をろうと思ってただけミャ」


 マサルンママは目を見開きながら両手で口を押える。


「えぇっ!? 他人の食料をる為に、その凶器で脅して回ってた!?」


 慌てて釣り道具を差し出すマサルン。


「話が脱線し過ぎだよ! 釣り! 釣りに行ってたんだよ! ほら、ちゃんと獲物もって来た!」


 マサルンママは見開いた目をマサルン達が装備している道具に向ける。


「釣り? ……あー、確かによく見れば釣り竿だわ」


 そして、腰に両手を添えながら眉をひそめるマサルンママ。


「だけどー、二人でぇ?」


 マサルンは顔をこわばらせながら言葉を詰まらせる。


「あっ……」


 言葉を詰まらせながらたじろぐンザールゥ。


「ミャッ」


(出かけるのを知らせ忘れてた! これは絶対怒られるやつだ!)


(説得失敗ミャー、たぶん怒られちゃうミャー)


 マサルンは軽く頭を下げながら語気を強める。


「ごめんなさい! 釣りに行くことを知らせるべきでした! 心配かけてごめんなさい!」


 頭を撫でながら硬い笑みを見せるンザールゥ。


「ごめんなさいミャー。ボクもおうちに釣りに行くこと伝えてなかったミャ。マサルンママにも教えてなかったし何かあったら大変だったミャー」


 マサルンママは腰に手を当てながら眉をひそませ続ける。しかし、時間が経つにつれて表情が緩んでいく。


「マグロ一匹くらいは釣って来たんでしょうね? あ、小さい獲物だったとしても、二人だからいっぱい釣れたんじゃない?」


 頭を掻きながら眉尻を下げるンザールゥ。


「頑張ってみたけど、一匹も釣れなかったミャ。あともう少しで釣れそうなときもあったミャ、でも逃げられたミャ」


 マサルンは肩をすくめながら呟く。


「マグロは流石に簡単には釣れなかったよ。でも、ンザールゥと違ってちゃんと収穫あったよ! かっこ微笑ほほえみ」


 目を輝かせながら喜ぶマサルンママ。


「あら!? ブリでも釣って来てくれたのかしら? それともヒラメ?」


 マサルンは口の端を上げながら四角いかごを差し出す。


「こいつですっ! かっこニヤリ」


 眉尻を下げながら首をかしげるマサルンママ。


「この子は、新種の……マグロ?」


 ンザールゥは眉尻を上げながらアヒルを指さす。


「この子はかもミャ!」


 持っているカゴを再び差し出して強調するマサルン。


「こいつは、アヒルです! かっこ冷や汗」


 アヒルは小さく体を動かしながら強く鳴く。


【助けてください! 食べても美味しくないですよ!】


 眉をひそめながらかごを受け取るマサルンママ。


「うーん、この子まだ生きてるのね。料理するのに困っちゃうわ。でも、美味しそう!」


 マサルンママは笑顔を作りながらアヒルを見つめた。

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