【3-3】
その後もマサルンとンザールゥは一時間ほど釣り竿から糸を垂らし続けていた。
でも、ンザールゥが糸を巻き上げると姿を見せたのは銀色の曲がった針だけで、釣り針は下から照らされる明かりを反射させて輝いている。
ンザールゥは頬を膨らませながら両足を暴れさせた。
「ミャーン、また餌だけ取られてるミャー!」
何度も
「確かに魚肉ソーセージはアジやサバ、ブリ、コイやフナ、テナガエビも釣れちゃう皆に人気の餌だよ。それに、釣ってる人もお腹空けば食べれちゃう万能餌なんだ、かっこ
マサルンは腕を組みながら首を
「でも、そんなに逃げられてるようだと、使ってる針や餌の大きさが獲物の口の大きさと合ってないとしか考えられないなぁ、かっこ冷静」
「今度は餌を小さめにしてみるミャ。貧乏くさいって突っ込まないで欲しいミャ」
眉尻を下げながら目元に手を添えるマサルン。
「はぁー、かわいそうなンザールゥ。楽しみにしてた釣りも、余裕が無いからチマチマ餌を節約して小さい獲物しか狙う事が出来ないなんて、かっこ涙目」
「突っ込まないで欲しいって言ったばかりミャー!」
ンザールゥは釣り針の先端を眺める。
(ミャ、餌を針に付けて釣りを再開するミャー)
首を回して周囲を見つめるンザールゥ。
「……ミャッ!? ボクの魚肉ソーセージが無くなってるミャ!?」
「でゃん? 下に落っことしたとかは? かっこ冷静」
「ボクも落っことすと思ってたミャ、だからなるべく後ろの方に置いてたミャ。大きい風も吹いて無いからどこかに移動した可能性も考えられないミャ」
ンザールゥは細めた目をマサルンに向ける。
「ミャーン、本当はこんなこと聞きたくないミャ。でも、考えられるのはこれだけミャ。……まさかマサルンが食べちゃったミャ?」
素早く首を左右に振りながら語気を強めるマサルン。
「違う、流石にそんな事までしないよ! 信じて!」
ンザールゥは眉をひそめながら腕を組む。そして、近くの四角い
「この子が食べちゃったって考えられるミャ?」
弱弱しい鳴き声を上げるアヒル。
【つらい、悲しい、寂しい。もう終わりだ】
マサルンも眉をひそめながら腕を組む。
「
「ミャー、確かにこの子がそんな器用なこと出来ると思えないミャー」
眉尻を下げてこわばった顔を作るマサルン。
「……それにしても、今のンザールゥの匂いはいつもとちょっと違う気がするなぁ、かっこ冷静」
ンザールゥは肩を落としてため息をつく。
「ミャーン、その言い方だとちょっと傷ついちゃうミャ」
「……あのさ、怒らないで聞いて欲しいんだけど、本当に。ンザールゥが間違って食べちゃったって可能性は考えられないかな? 今ってお腹空いてる? かっこ冷や汗」
目を見開きながらたじろぐンザールゥ。
「ミャ!? そういえばついさっきお菓子食べたみたいに、お腹が満たされてる感覚があるミャー!」
「なんだって!? それは犯人の特定に繋がる重大な手掛かりじゃないか! じゃあ、それを元に名探偵ンザールゥの名推理を聞かせて貰えますか? かっこ冷静」
「分かったミャー、犯人を当ててみるミャー!」
ンザールゥは人差し指をアヒルに一瞬向ける。しかし、すぐに自分の顔を指さした。
「魚肉ソーセージを消し去った犯人はズバリ、お腹が空いて気付かないうちにうっかり食べちゃったボクミャー!」
語気を強めながら目を細めるマサルン。
「何やってるんだよ! かっこ冷や汗」
ンザールゥは腕を組みながら目をつむる。
「ミャー、とうとう真実を話さなくちゃいけない時がきたミャ」
「
「抑えられなかったミャ。手が勝手に魚肉ソーセージの方に伸びていったミャ。ボクはそれじゃダメだと思ったから、頭の中をからっぽにしようとしたミャ。でも、そうしたら今度はボクを制御する事が出来なくなったミャ。本能に従ってたら、ボクの手にいつの間にか魚肉ソーセージが握られていたミャ。それで、最後の
微笑みながら頭を撫でるンザールゥ。
「そうしたら、すぐにボクの口の中に美味しいお魚さんの味が広がっていったミャ」
「そっか、分かったよ。話してくれてありがとう。勇気を持って真実を話したことを考慮して、オレが判決してあげよう、かっこ冷静」
ンザールゥは顔の近くで手を合わせながら頭を軽く下げる。
「ミャー、許して欲しいミャ! 罪を軽くしてほしいミャ!」
「オレは優しいからね、心配しないで良いよ、かっこ
口の端と眉尻を上げながら、勢いよく人差し指をンザールゥに向けるマサルン。
「ンザールゥに与える罰は、『一年間ご飯抜きの刑』です! かっこ決め顔」
ンザールゥは拳を振り上げながら尻尾を左右に激しく振る。
「全然優しさ感じられないミャー!」
「それで、実際の所どうなの? かっこ冷静」
「本当のこと言っても、怒らないミャ?」
「さっきも言ったでしょ、オレは優しいって。怒る訳ないじゃん、かっこニヤリ」
眉尻を下げながら肩を落とすンザールゥ。
「優しいって言ってたのに、厳しく罰せられた気がするミャ。でも、それは一旦置いておくミャ。実は、すでに魚肉ソーセージを全部餌として使い切ってたミャ」
「本当に? それはどういう事なのか分かっているのか? かっこ冷や汗」
「本当ミャ。マサルンこそ、これがどういう事なのか分かってるミャ?」
マサルンとンザールゥは互いの顔をしばらく黙って見つめ合う。
二人の周囲は
小さな風が吹くと、濃い赤い髪と
そして、マサルンは無表情のまま深く
「餌が無くなったなら、家に帰ろう、かっこ真顔」
「ミャ、おうち帰るミャ。マサルンの餌はどのくらい残ってるミャ?」
「練り餌とエビが一匹。丁度オレも餌が切れる所だったよ。余ったエビはどうしようかなぁ、次釣りする時に持ち越すか? 魚肉ソーセージみたいに自分で食べて処分するのもなんか気が乗らないし、かっこ冷静」
マサルンは腕を組みながら細めた目をンザールゥに向ける。
「あっ、ンザールゥ! そんな
「よだれなんて垂らしてないミャ! そこまでがめつくないミャ!」
「分かってるって。本当のこと言ったら恥ずかしいから、そうやって否定して誤魔化しちゃって、かっこニヤリ」
小さめのバケツに手を突っ込ませるマサルン。それから、エビを指で掴み取る。
「ほら、遠慮なく受け取ってよ、かっこ笑い」
マサルンはンザールゥの顔の近くにエビを差し出す。
エビは十三センチメートル程の全長で、
ンザールゥはこわばった顔を作りながら首を左右に振る。
「本当にいらないミャ」
頭を掻きながら小さな笑顔を浮かべるンザールゥ。
「ミャー、でも、どうしても貰って欲しいっていうなら、貰ってあげてもいいミャ」
マサルンは肩をすくめながら
「えっ、欲しくないなら仕方ない、あげるのやめた、かっこニヤリ」
「ミャーッ!」
ンザールゥは頬を赤く染めながら拳を突き上げ、尻尾も左右に激しく振った。
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