第31話

 後に連絡すると沢田さんに伝え、二人と別れて帰宅した。

 そして午後九時半頃になり、沢田さんに電話をかけた。

「もしもし」

『もしもし? 何で通話? てか、あたし、十時までには寝たいんだけど』

 沢田さんは訝しんでおり、通話口からひどく不機嫌な声が聞こえる。

「健康的で結構だ……それで、えっと、電話をかけた理由だが」

 僕は少しの間、黙る。

「ちょっとでも沢田さんの声が聴きたいからだよ」

『きもっ。切るよ』

「あぁ、待て。大事な用件なんだ。泉さんのことだ。五分もかからん」

 僕は隆二の真似をしたのだが、どうやらお気に召さなかったらしい。やはりあれは好意のある人がやるから意味があるようだ。

『最初からそう言ってよ……で、どうすんの? 何をすればいいの、あたしは』

 僕は沢田さんにしてほしいことを伝える。

 まず土曜日の部活が終わり次第、沢田さんに泉さんを一緒に帰るのを誘ってもらい、僕と偶然を装って意図的に鉢合わせる。

 そこで、泉さんを僕と一緒に話すよう促してほしいと頼む。沢田さんがラインで僕と会うように言ったとしても、泉さんが首を縦に振ることはないからだ。

 だから、無理やり出会った上で、沢田さんには退路を塞いでほしいのだ。

「理解できたか?」

『大丈夫。でも面倒だし、どうしてあんたのためにそんなこと』

「僕、隆二と小学生からの付き合いだから、家にあいつの子供の頃の写真いっぱいあるぞ」

 以前中学のアルバムを見たついでに、もっと小さな頃のアルバムも見たのだ。

 そして、その中に隆二と一緒に写っているものが多くあった。時を経ても、互いにずっと友達だと思っていた頃の、社会を知らない無垢な子供の時のものだ。

 すると、ガタッと大きな音がスピーカーから聞こえた。ベッドから落ちたのか、物を落としたのか不明だが、とにかく動揺しているのが伝わる。

『…………マジ?』

 沢田さんの声は微かに震えている。

「マジもマジよ。小学校の遠足の写真とか、一緒のサッカークラブの時のとか、小っちゃい可愛いあいつの写真もたくさんあるぞ。この前、アルバムを見た時に見つけたんだ」

 ゴクリ、と生唾を飲む音が聞こえた。隆二も相当やばいと思っていたが、沢田さんも中々やばいな。

「見せてもいいけど……ただ、成功報酬の条件だ」

『了解しました、石野様』

「よし、ありがとう。今度、店に来てくれ。ついでにコーヒーもサービスするよ」

『牛乳飲み放題なら行ってあげる』

「ホワイトライトは、もうミルクを提供しないと決めたんだ」

『何でさ? あたし対策?』

「僕がありったけ飲んでるからだ」

『ははっ、そういうことね。何? 隆二を見てかっこよく思った? それともあたしに負けてて悔しかった?』

「そんなんじゃない。けど、羨望は感じたね。デカいに越したことはない」

『背は確かにそうかもね』

「器もね」

『そりゃ、ごもっとも……ま、せいぜい頑張りなさいな』

「本当に助かるよ」

『あんたはもう一回玉砕するし、その結果にあたしらは拍手喝采万々歳よ』

「まず一回目がないんだよなぁ……あと、残念だがそんな未来は訪れないぞ」

『そうだといいけど。じゃ、おやすみー』

「はいはい、おやすみ」

 僕はそこで通話を切った。

 僕は改めて話すことを整理して、布団に潜り込もうとしたが、ソラが中々ベッドからどいてくれなかった。

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