第18話

 幸先よく先制ゴールを奪えた大栄高校は、勢いそのままに二点目を狙いにいくようで、決して引いて守ったりはしない。確かに、今日のような相手にセーフティーリードを奪いたい気持ちはよく分かった。

 大栄高校は得意のサイド攻撃で一対一の局面を幾度も作り、積極果敢に前へと進む。サイドの二人は何度もドリブルで仕かけ、ペナルティエリア内にクロスを送ったり、CKを奪ったりした。

 だが、やはり文清学園は強豪と言われるだけはある。一点目こそ崩れたものの、その後は着実に立て直し、完璧な守備を披露していた。

 揺さぶりをかける大栄高校の選手たちにしっかり食らい付き、簡単にパスを出させない。

 泉さんもスペースを見つけるのにかなり苦労している様子で、前線には殆ど上がっていくことができない。

 そして試合は大栄高校のペースで続いていたが、前半のニ十分頃から、文清学園に傾き始める。それもそのはずで、大栄高校の攻撃への慣れと、ボールの取りどころが分かったからだ。

 特に、後者を発見したのはかなり大きかった。

 前半の二十三分、今日何度目か分からない、大栄高校のSBからCBへのパス。

ボールを受けた右CBの3番に、文清学園の9番が近付く。

3番はアンカーを経由せずに、斜め前にいる泉さんにパスを送る。

 すると、泉さんにボールが渡る前に、文清学園のボランチの8番がそれをカットした。

 それは非常にリスキーなプレーだった。なぜなら8番の後ろのスペースはがら空きであり、攻撃のキーマンである泉さんに、前方で自由にさせてしまう恐れがあったからだ。

 しかし、8番は賭けに出た。前半で同点に追い付くため、試合のペースを引き寄せるため、果敢に前へと出たのだ。その行動が功を奏し、ボールを奪うに至った。

 そこからの攻守の切り替えは凄まじいスピードだ。

文清学園の選手はみな待ってましたとばかりに猛然とダッシュする。

 それに負けじと大栄高校の選手もピッチを駆ける。

 文清学園の8番は右サイドの17番に縦パスを出す。つり出された大栄高校のCBの4番が対応するも、17番は低くクロスを上げることに成功する。

 待ち構えていたトップ下の10番が右足でシュートを打つ。力んだのか、ボールはかなり上空へと打ち上げられ、クロスバーを直撃した。

 ギャラリーは一様に大きな声を上げ、落胆と安堵の息が漏れた。

 僕もゴールが割られなかったことに、胸を撫で下ろした。文清学園の最初のビッグチャンスが、いきなりゴールに繋がる恐れがあった。

「気にしないで! みんな、最後まで集中しよう!」

 泉さんは声を張り上げて檄を飛ばす。その力強い声と鳴り響いた拍手に、味方の選手は勇気付けられるだろう。

 泉さんはパスミスをした3番にすぐさま声をかけにいき、肩を叩いて励ましているようだった。その勇ましい姿に、僕は心底惚れ惚れしていた。

 前半はその後、文清学園が何度かシュートを打つ場面を作ったが、両チームとも大きな決定機はなく終わり、一対〇で折り返した。

 ベンチに戻った両チームの選手たちは、決して休みなどしない。

前半で問題のあった部分を熱心に話し合う。監督もホワイトボードを用いて、後半にどのような戦術を行うかをつぶさに伝えている。

 大栄高校としては、よい形で後半を迎えられると思う。

 僕としてはビハインドで後半に臨むと予測していたが、それは裏切られた形になった。

 試合中、シュートこそ何本か打たれたものの、決定機はクロスバーに直撃したシュートだけだった。

 とはいえ、大栄高校も得点の場面以外は、ペナルティエリアに入ることは少なかった。

流石にこのレベルになると個人の力が五分五分であり、一対一の場面で易々と抜けたり、シュートを打つシーンは数多くなかった。

 ベンチにいる泉さんはペットボトルを片手に持ち、キャプテンマークを付けた人と話している。会話の内容は分からないが、その真剣な表情から勝ちたいという強い意志が読み取れる。

「よっ」

 僕は昼食のために用意したサンドウィッチを食べながらベンチの様子を見守っていると、右肩を叩かれた。

「……何でここにいるんだ?」

「そりゃこっちの台詞だ。偶然トイレから戻ったら石野を見つけただけ。俺はね」

 隣にいる中川は、快活に笑った。

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