第3章
3-1
「ねぇ、祀莉。見て見て、これ!」
「なんですか?」
前の席の諒華が振り向き、パソコンの画面を提示しながら祀莉に呼びかける。
入学してから、一週間。諒華の口調はお
簡単に言うと
実はこのクラスメイトのほとんどが猫を被っていて、お上品な子息令嬢を演じていた。
高等部へ上がり、
しかし、普段使わないお嬢様言葉が
やってしまった! と思っても、祀莉は気にした様子もなく何も言わないので、まぁいいやと、彼女のお嬢様期間は一週間で幕を下ろした。
その
さすがに先生の前では、被り直しているようだが。
ちなみに
クラスメイトに合わせてお嬢様口調になることもなく、ありのままで過ごしている。
金持ちが集う教室に放り込まれたら、無理をしてでも周囲に合わせようとするものだと思っていたのだが、
頭がいいので、勉強を教えてくれと
未だに諒華以外のクラスメイトと話をするのに
「──祀莉、聞いてる? ここのイチゴタルト、すっごく
「あ、はい。ぜひご
席が近いこともあって、祀莉は諒華と会話することが多かった。
そのためいつの間にかお互いに名前を呼び捨てにするようになっていた。
「和風ほうじ茶パフェが美味しそうね」
「イチゴタルトはどうしたんですか……」
二人して色鮮やかなスイーツが並ぶメニューの画面に食い入っていた。
「カップルで行きたいおすすめのお店だってー」
「へぇー。そうなんですか」
(カップル、ですか……)
男子生徒と会話している
(一週間
きっかけはあるはずなのに、要は全く桜に話しかけようとしなかった。
もっと積極的に自分に興味を持たせようと働きかけないと、縮まる
(それなのに……)
──
窓際の一列目の席、つまり桜の
ヒーローとそのライバルがヒロインを
要と
二人の仲が進展してしまったらと祀莉はハラハラしながら観察していた。
適当にあしらわれたり無視されているから、今のところはさして問題ないだろう。
問題は要の方だった。二人が話していると
視線を感じる……と思ったら、無言で
(イライラするくらいなら、自分も積極的に話しかければいいのに……)
タイミングが
その目を貴矢に向けたらどうなのかと何度思ったことか。
(……
あの凶悪な顔を向けられたら、いくらヒロインでも引いてしまう。
要もそれをわかっているのか、昔のようにクラスを支配する気はないらしい。
おかげでこの学園の居心地はいい。こんなに平和に過ごせるとは思わなかった。
すぐに引き離されるだろうと思っていた諒華とも良好な関係を結べている。
休み時間に一人で読もうと思っていた小説は、あまり役目を果たしていなかった。
(きっと鈴原さんとのことで、わたくしにまで気が回らなくなっているんですね)
しかし、おかしな点が一つある。未だに要は毎日、祀莉を迎えにくる。
そして帰りも西園寺
まだヒロインと出会っていない入学式の朝はわかるが、それ以降も毎日……。
「おかしいです……」
「何が? あ、お菓子いる?」
スナック菓子を口に運んでいた諒華が、手に持っていた袋を祀莉の方に差し出す。
「ありがとうございます……もぐ……要が……毎日家まで迎えにくるんです」
「……へ? 何言ってんの。そりゃそうでしょ、婚約者なんだから」
「婚約者……あっ」
そうだ。まだ婚約者なのだ。
桜に
なのに二人はまだ〝婚約者〟だった。
「〝あっ〟って……忘れてたの?」
「いえ、そういうわけではなく……」
「はっは~ん。当たり前のことで気にも留めてなかった?」
諒華は食べる手を止めずにお菓子をどんどん口に
「もぐ……お
「あんたもねー。西園寺家の令嬢が、一週間で私たちに染められたもんだねぇ。はは」
確かに。お坊ちゃまお嬢様が集う学校だから、それはそれは
家では自由に振る
教室の
「思っていたよりこの学園での生活は楽しいです」
小学校と同じ、
「そう、よかった。親友の私のおかげだね~」
「はい」
こうやって親友と呼べる存在を手に入れることができて、わたくしは幸せです。
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