火凰の塔
手摺の向こうに果てが見える。
緑青に底光りする暗闇は、夜明け前であっても、空と区切られる。水でもなく、風でもなく、虚無が湛えられた空白は、大地の抱擁と火炎の誘惑に擬態して、永遠に生者を欲し続けている。
儀式は中止になったと、案内人が虚ろな声で言った。祝い火伝いに、伝言が来たようだ。忌み火が消失する。塔の中からも、呼びかける声が聞こえる。族長、こちらへ、と。案内人に扮していた族長が、私の手を引きながら隠し扉を開いた。階段が無いというのは嘘ではなかった。床も天井も見えない通路を、金朱色の翼の人々が飛び交っている。円形に配置された壁は外部と異なり、無数の扉があり、扉の間は石化した炎で飾られていた。私を抱え、無言のまま上昇する族長は、天井にほど近い扉を開ける。詫びの代わりにしてくれと呟いて、私を部屋へ下ろした。背後で戸が閉まる音を聞きながら、歩み出す。室内は酷く暗い。だが、ある一点から明かりが漏れている。迷い様が無かった。
私は人工の洞窟を抜けた。
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