078話 警告の狼煙
俺たちはゴメスダに勝った。
リアを含めると、これで<魔法闘気>を使える人間と戦うのは3回目だ。
その戦いの中で、痛感したことがある。
<魔法闘気>を使える人間同士が戦う場合、それ以外の能力が重要になってくる。
つまり、”天啓”が<装備変更>というハズレスキルだった俺は、優秀な”天啓”を持ち、さらに<魔法闘気>を使える人間を相手にした場合は、不利な戦いとなる。
ゴメスダやチーザイという人間は、言ってしまえば辺境の街でくすぶっていた3流の冒険者だ。
それが、使徒になっただけで、ここまでの苦戦を強いられるとは。
もしも、もっと強力な”天啓”を持つ使徒が襲ってきたとしたら、その時は勝てるのだろうか。
「早いところダンジョンメダルを入手して、俺の<魔法闘気>を強化しないとな……」
ダンジョンメダルを手に入れるためには、ダンジョンを踏破しなければならない。
ダンジョンは踏破すると消滅する。
そのため、建前上は領主の所有物であるダンジョンは、踏破する際に冒険者ギルドに申請が必要になる。
ギルドに戻ったら、その手続きも一緒にしようと考えていた時のこと。
「お兄さん、ちょっと。さっきのが、前に話してくれた”魔王”なんだよね?」
聖女プリセアが真剣な顔つきで、俺に話しかけてきた。
「実際に見てみて、何か分かったのか?」
「うん、その……変なことを聞くけど、あれって本当に魔王なのかな?」
もう一度、プリセアの顔を見る。
その表情は、いたって真剣だ。
「何かの冗談……ってわけでもなさそうだな」
「うん、マジメな話。だって、さっきの魔王……お兄さんを目の
「それが何か……って、そうか。リアとプリセアは、勇者と聖女だもんな」
かつて魔王を倒したのは、聖女に導かれた勇者だと言われている。
ならば、魔王にとって最大の敵は俺ではなく、勇者と聖女のはずなのだ。
その2人が目の前にいるというのに、魔王は何も反応しなかった。
ならば俺の考えは間違っていたのだろうか。
絶望の感情を糧とする魔族。
それが魔王ではない、なんてことがあるのだろうか。
「お兄さん、あいつが
プリセアの言うことは一理ある。
だが、何か妙な感じだ。
何か、しっくりとこない。
何か俺たちは、根本から間違えているような気がする。
だが、それが何か分からない以上、考えてもしかたがない。
妙な違和感は胸の奥にしまっておき、俺は冒険者ギルドに戻ることにした。
■□■□■□
使徒となったゴメスダを倒した後、俺達はその足で冒険者ギルドへ向かった。
そして、使徒ゴメスダが死んだことを報告した。
プリセアと話した通り、魔王が関与していることは全面的に伏せておいた。
「使徒を倒すとは、さすがは勇者様ですね」
受付嬢のサイリスさんがリアを褒め称えた。
その表情に、どこか
「そうだ、サイリスさん。<
それとなくギルド長の
ギルド長は無事ですかと聞くのは失礼な気がしたので、遠回しな物言いをした。
「面会の予約を取りたいなら、だいぶ先になってしまいますよ。ギルド長は忙しいようで、さきほども帰ってくるなり裏で資料を漁ってましたからね」
俺の思惑は知らずに、サイリスさんは答えた。
特段、異常を感じるような態度はない。
「じゃあ、サイリスさんは俺たちと話した後、ギルド長と会ったんですね?」
「会ったも何も、裏にいますよ? 今日は街の有力者と会議をする予定らしいので、話をするのは難しいとは思いますが……。何か
「いえ、いいんです。いるのがわかれば、問題ありません」
胸をなでおろす。
口ぶりから察するに、ギルド長は無事。
どうやら心配しすぎだったようだ。
<
ロリーナの言う通り、命を狙われても不思議ではない立場にある。
「<
「……分かりました、お願いします」
奇妙な違和感を覚えつつも、俺はギルド長が生きていたことを内心で喜んだ。
そして、ゴメスダのせいで後回しになったことを済ます。
通常の
その後で、Bランク冒険者であるリアとプリセアに、俺たちのDランクへの昇格を推薦するようにお願いした。
2人は素直にお願いを聞き入れ、そして俺たちは無事にDランク冒険者となった。
「おめでとうございます、カイさん、ラミリィさん、ロリーナさん。正式な手続きは後ほどとなりますが、Dランクへの昇格です」
受付嬢のサイリスさんは、どこか嬉しそうに言った。
「や、やりましたよカイさん! あたしたち、ついにDランクになっちゃいました!」
「うむ、これで計画に1歩近づいたのう」
2人も喜んでいる。
ちなみに魔物であるディーピーには冒険者ランクは存在しない。
「そうだ、サイリスさん。俺たち、<
俺の一言で、祝賀ムードだったのが一変、空気が凍りついた。
少なくとも、俺にはそう感じられた。
「ダンジョン踏破の申請ですか……。止めたほうがいいですよ」
ここまではっきりと言うサイリスさんは珍しい。
俺が驚いていると、サイリスさんは取ってつけたような説明を加えた。
「たしかに、Dランク以上ならば可能ですが、カイさんたちはDランクになったばかりです。もう少し経験を積んでからでもいいのではないでしょうか」
確かに万年Fランクだった俺たちに対しては、そういうアドバイスが出るだろう。
だが俺たちは一刻も早くダンジョンを攻略して、ダンジョンメダルを手に入れなくてはならない理由がある。
「心配ありがとうございます。でも、俺たちはやらないといけないんです! お願いします!」
冒険者の強い希望があったとき、それがギルド規定に反していないのであれば、ギルド職員はそれを止めることはできない。
ギルド職員は冒険者の生死に一切の責任を負わないという鉄則だ。
俺の覚悟が伝わったのか、サイリスさんは渋々といった感じで了承した。
「分かりました、申請だけは出しておきます。ですが、承認が降りるまでは勝手なことをしちゃダメですよ?」
「はい、ありがとうございます」
誰かがダンジョンを踏破すると、そのダンジョンは消滅する。
中にいる人達が消滅に巻き込まれたりはしないそうだが、ともかく他のダンジョン探索にくらべて煩雑な手続きが多くなる。
あとは俺たちはダンジョン踏破の許可が降りるのを待つだけなのだが、去り際にサイリスさんが俺たちを呼び止めた。
「ちょっと待ってください。皆さんに、私からの
サイリスさんはそう言うと、俺たちに黄色の発煙筒を渡した。
「これは……?」
「Dランク昇格のお祝いです。個人的な贈り物なので、他の冒険者の方々にはナイショですよ?」
「あ、ありがとうございます……」
素直に喜ぶべきところなのに、困惑が声に乗ってしまった。
贈り物のチョイスが不思議すぎたからだ。
黄色の発煙筒は、黄色の狼煙を上げるためのアイテムだ。
たしかに消耗品なので貰えるとありがたいが、正直あまり使われない色である。
緑色とかのほうが需要があるのだが、どうしてサイリスさんはこれを贈り物に選んだのだろうか。
不思議に思いながらも、俺は冒険者ギルドを後にした。
この時の俺は、気づいていなかったのだ。
冒険者同士で用いる合図は、ギルドのスタッフも当然知っていることを。
結論から言うと、ダンジョン踏破の許可は、永遠に降りなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます