070話 精霊剣カレイドボルグ②
無数に現れたリアたちの一斉攻撃で、ゴメスダは消滅した。
しばらく警戒して待ったが、復活する様子はない。
俺は<魔法闘気>を解いて、リアに尋ねた。
「いまのは……?」
リアのうちの1人が剣をしまうと、他のリアが全て消滅した。
「お兄ちゃんたちには説明しておくね。これは勇者としての力を得る<勇者の証>とは別の効果。勇者にしか使えない伝説の剣にも特殊な能力があるの」
リアはそう言って、これまで使っていた剣を見せる。
それを見て驚いたのはディーピーだった。
「おいおいおい、それは第二種指定幻想の
俺には立派な剣だってことぐらいしか分からないが、何か凄い剣らしい。
「これは勇者のみが使える運命を選ぶ剣<精霊剣カレイド・ボルグ>。この剣を握った時、私は勇者としての道を歩む運命になったらしいの」
白の<魔法闘気>でキラキラ光りながら、リアは聖剣を俺たちに見せた。
「運命を選ぶ剣ねぇ。うまいこと言ってゲテモノの正体を隠してくれるじゃねえか。似てるとは思っていたが、まさか本物とはな……」
「おいディーピー、リアの持ってる剣は、そんなにヤバいのか?!」
「使い手の気の持ちよう次第だが……同じ場所に並行世界を同時に存在させて、その中の1つを選ぶ能力だ」
「……ごめん。ちょっと難しくて、よくわからない」
俺が困惑していると、リアが補足の説明をしてくれた。
「使ってる私も、ちゃんとは理解してないんだけど……さっき私がたくさん出てきたでしょ? あれはこことは違う、別の世界の私なんだってさ。他の世界の私を引っ張ってきて、皆で戦ったってわけ」
同じように、腕を切り落とされたラミリィが消えたのも、聖剣の能力を使って、攻撃を受けたラミリィと平行世界の無事なラミリィを入れ替えたらしい。
「えっ、じゃあ今のあたしって、偽物なんですか!?」
「ごめん、能力を使っておいてなんだけど、そのへんは私にもよく分かってない」
「偽物って訳じゃねえが、それが次元剣のヤバイところだ。世界を選ぶ度に、選ばれなかった全ての平行世界は消滅する。腕を切られたほうのラミリィは世界ごと消滅してるんだよ。運命を選ぶ剣ってのは、使い手の運命が決定する剣じゃねえ。使い手が、世界の運命を決めちまう剣なんだ」
「でも、私の近くの空間で起きる、そんなに遠くない未来までしか選べないみたいなの。私がお兄ちゃんを助ける並行世界を必死に探したけど、ダメだったし」
「……とんでもない嬢ちゃんだな。常人は選ばずに消し飛ばした別の世界への良心の
ディーピーがリアに呆れていた。
俺からすると、世界よりも家族のほうが大切と思うリアのほうが、俺の知っているリアっぽい。
勇者としての圧倒的な力を見せつけられても、俺は未だにリアが勇者に選ばれたことが
「あの! あたしまだよく分かってないんですけど、ようするに勇者さんがいっぱい分身する能力ってことでいいんでしょうか!?」
話についていけないラミリィが涙目で言った。
俺には判断がつかないので詳しい人の解説を待つ。
すると、ディーピーが呆れた声でラミリィに答えた。
「まあ、やってることは分身と変わりないし、そういう解釈でいいんじゃねえか?」
「なるほど! それにしても光っている勇者さんが増えると、かなり眩しいんですね! あたしちょっと目がくらんじゃいました!」
ラミリィの言葉を聞いて、ふと気になった。
ゴメスダが瞬間移動しなかったのは、ふっ飛ばされて宙に浮いていた時以外は、全てリアによる攻撃だった。
勇者だから、という理由かもしれないが、それ以外の理由だとしたら。
例えば今のリアは白いオーラで輝いている。
最後の攻撃は全方向から照らされたから逃れられなかったのだとすると、ゴメスダの能力は──
いや、考えるのは止めておこう。
ゴメスダはもう倒した相手だ。
「おぬしら、呑気に雑談している場合ではないぞ! 勇者を見よ、まだ白の<魔法闘気>が解けておらぬ! 臨戦態勢を取るのじゃ!」
ロリーナの号令で、俺はすぐに<魔法闘気>を発動する。
そうだ、俺はもう<魔法闘気>を解いているのだから、<魔法闘気>に反応して発動するリアの白の<魔法闘気>も消えないとおかしいんだ!
俺たちが警戒していると、草むらがガサリと動いた。
そして、左半身が治っている最中のゴメスダが現れた。
「ちっ、こんどこそ奇襲で殺してやろうと思ったのによぉ。ずいぶんと勘が鋭いじゃねえか」
「最初の攻撃でふっ飛ばされた半身の、もう片方が残っていたのか……!」
「クハハハハ! 今日のところはこれぐらいにしてやる! だが、忘れるなよ! 俺は瞬間移動でいつでもどこでも、お前たちを攻撃できるんだぜ! せいぜい震えて眠れぬ夜を過ごしながら絶望しな!」
「甘いぞ、ゴメスダ! こっちには勇者がいるんだ。お前のどす黒い<魔法闘気>は簡単に感知できるんだ!」
「勇者だぁ? 舐めるなよ、ガキがっ! 俺の力の前には、勇者だって無力だ!」
「お前の弱点が光ってことは、もう分かってるんだぞ。光が弱点の瞬間移動スキル……お前の”天啓”は、影を伝って移動できる<影渡り>だな!」
「ちっ、万年Fランクだったくせに、やるじゃねえか」
<影渡り>は影を伝って瞬間移動できるスキルだ。
ただし、自分と繋がっている影でないと移動はできない。
周囲から光で照らされていたり、宙に浮いている時などは発動できないのだ。
「くそ、首を洗ってまっていろよ。俺はお前たちを監視して、殺せる隙を伺っているからな。お前らが絶望する瞬間が、今から楽しみだぜ……」
ゴメスダはそれだけ言うと、姿を消した。
「<影渡り>が使える使徒か……厄介なことになったのには、変わりないかな」
「あたしたち、これからずっといきなり襲われるかもしれないってことですよね? うぅ、大丈夫なんでしょうか」
「対策はある。どうやらあいつは、ある程度暗い影じゃないと<影渡り>が出来ないみたいだ。だから、色んな方向から明かりを照らして影が出来ないようにすれば、奇襲は防げるはずだよ」
「ふむ、ならば早いところダンジョンから出たほうがよさそうじゃな。ここは木陰だらけで、<影渡り>し放題じゃからのう」
「影が無ければいいんですね! そういうことなら、あたしに任せてください!」
ラミリィはそう言うと、帰り道の方角に向かって弓を構えた。
「<早打ち連射・一斉攻撃>!」
そして、持ち前の技で木々を消し飛ばした。
後には何も残らず、抉れた地面の道が真っ直ぐに続いている。
「これで明るい道が出来ました! こうやって周囲を破壊して帰れば安全ですよ!」
「そうなんだけど……他の人を巻き込むかもしれないから、せめて警告ぐらいは出してからやろうね」
ちなみに冒険者に警告を出す時は、黄色の狼煙を上げる。
意味はそのまま「逃げろ」とか「近づくな」というメッセージになるのだ。
「うっ、はい……そうですよね……」
得意顔だったラミリィが、とたんにしおらしくなった。
ダンジョンの破壊はルール違反ではないが、あまり他の冒険者たちに迷惑をかけると昇級の査定にペナルティが付く。
それに、攻撃の余波で他の冒険者を巻き込み死なせてしまうのは、気持ちいいものではない。
「でもお兄ちゃん、私達は今、命を狙われてるんだよ? あまり悠長なことは言ってられなくない?」
「そうかもしれないけどさ……俺たちは正しい冒険者なんだぞ? 防げる被害は防ぐべきだ」
勇者らしくない発言だな、と思いつつも、リアらしい発言だと思った。
再開したリアには奇妙な2面性がある。
世のため人のために働こうとする勇者としての気質。
それと、仲間のことを最優先にするリア本来の気質。
その正体が何なのかを俺が知るのは、後のことになる。
ともかく俺たちが対処しなければならないのは、闇に潜むゴメスダだ。
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