069話 精霊剣カレイドボルグ①


「ずいぶんと堂々とした登場じゃないか。闇討ちのゴメスダが聞いて呆れるな」


 森の奥から現れたのは、<黒衣の戦士団ブラックウォーリアーズ>のゴメスダだった。

 ゴメスダは黒の<魔法闘気>をまとい、殺気のこもった目でこちらを睨んでいる。


「勘違いするなよ、お前ら。俺が姿を現したのは、お前らにより深い絶望を与えるためなんだぜ。クハハハハ!!」


 言いながら、ゴメスダはガリガリと自分の顔を掻いた。

 すさまじい力で掻いているようで、皮がえぐれて血が出ている。

 その姿は、もはや尋常ではなかった。


「みんな、気をつけろ! ゴメスダのやつ、何をしでかすか分からないぞ!」


 俺は仲間たちに声をかけた。

 勇者であるリアと、死に戻りのあるロリーナはまだいい。

 ラミリィとディーピーは<魔法闘気>には歯が立たない。

 狙われたらひとたまりもないだろう。


 最優先で守るべきはラミリィとディーピーだ。


 そうして俺が仲間に意識を向けた一瞬。

 その一瞬だけで、ゴメスダの姿が無くなっていた。


「消えたっ!? 何かマズい、嫌な予感がするっ! みんな、身を守れっ!」


 だが、俺が叫ぶよりも先に。

 ゴメスダの凶刃が、ラミリィの腕を切り落としていた。


 早いなんてものではない。

 移動の軌跡さえも見えずに、いきなりラミリィのそばに移動していた。


「ラ、ラミリィッ!!!」


 俺の絶叫を聞いて、ゴメスダは愉快そうに唇を歪めた。

 しかし、次に驚きの表情を浮かべたのはゴメスダだった。


 今度はラミリィがいきなり消えたのだ。


「何っ!?」


 驚愕するゴメスダの背後には、いつのまにかリアが立っていた。

 既に剣を振りかぶっていたリアは、ゴメスダに強烈な一撃を当てる。

 その攻撃を受けたゴメスダは、勢いで大きく吹っ飛んだ。


「ここですっ! <早打ち連射・一斉攻撃>!!」


 宙に浮いたゴメスダの体に、腕を切り落とされたはずのラミリィの矢が放たれる。

 矢が木々をなぎ倒し、大地をえぐる。


「や、やったんですか? というかあたし、どうなったんですか!? なんか私っぽい人が腕を切られたと思ったら消滅したんですけど!?」


 俺に分かるのは、ゴメスダが何か能力を使って瞬間移動しラミリィを攻撃したが、リアが別の能力を使ってラミリィを守ったってことだけだ。


「クソ……やはり勇者が一番手強いか……! だが、次のマグレは無いと思いな!」


 ゴメスダの声が背後から聞こえる。

 振り向くと、右半身を失っているゴメスダがいた。

 残った左半身には、何本も矢が刺さっている。


 ラミリィの攻撃を直撃しても消し飛ばなかったあたり、かなりの防御力があるのだろう。


 ゴメスダは残った腕で矢を抜いていた。

 傷口がみるみる治っていく。

 失った右半身も、すぐに生えてきた。


 人間離れした生命力、やはりゴメスダは使徒になったと考えて間違いないだろう。


「お兄ちゃん、あいつの”天啓”が何なのか一緒に考えて! じゃないと、防戦一方だよ!」


「そうは言われても、分かるのはあいつが瞬間移動できるってことだけだ!」


「ククク……察しがいいじゃねえか、カイ。そうだ、俺の能力は瞬間移動! そしてこの<魔法闘気>の力があれば、いつでもお前らの死角から攻撃できるんだぜぇ! クハハハハ!」


 傷がすっかり癒えたゴメスダは高笑いをした。


 厄介なことになった。

 おそらく、ゴメスダの戦闘力そのものは大したことはない。

 俺やリアのほうが上だ。


 だが、それはあくまで<魔法闘気>がある者たちの間だけの話で、ラミリィたちはゴメスダの攻撃を防げない。

 神出鬼没の敵を相手に、どうやってラミリィたちを守りながら戦えばいいのか。


「いや、その発言。ブラフじゃな」


「ロリーナ?」


「本当にそやつの能力が瞬間移動なら、勇者の不意打ちはともかく、ラミリィの矢は避けられたはずじゃ。つまり、瞬間移動にしても、何らかの条件があるということじゃのう」


 ロリーナの指摘を受けて、ゴメスダは苦々しい顔をした。


「お前は、俺が殺したはずの女……!」


「どれ、妾がおぬしの能力の謎を暴いてやろうぞ」


 ロリーナはゴメスダに向かってスタスタと歩き出した。

 ロリーナは、不死身の肉体を持つ自分がおとりになるつもりだ。


「一度俺の攻撃から生き延びたからって調子に乗るなよ! 今度は傷の治療ができないよう、木っ端微塵にしてやる!」


 ゴメスダは近づいてくるロリーナを見てニヤリと笑った。

 俺はとっさにラミリィに合図をする。


「ラミリィ、弓を構えて!」


「えっ? は、はいっ!」


 そしてロリーナの眼前にゴメスダがいきなり現れた瞬間。


「<装備変更>」


 既にあとは放たれるだけの弓矢を、ラミリィからロリーナに持ち替えさせた。


「なるほど、これだけ近ければ、技能の無い妾でも当たるかもしれんのう。さて、おぬしはどうでる?」


「くっ!」


 ゴメスダは<魔法闘気>をまとった矢の攻撃を恐れたのか、姿を消した。

 けれどもその瞬間、あたりが一斉にまぶしくなった。


「言っておくけど、どこに逃げようと私の攻撃範囲なんだからね」


 それは、リアの能力だった。

 いや、リアたち・・・・のと言うべきだろうか。


 どういう理屈かは分からないが、リアが何人にも増えていたのだ。

 皆が剣を構えて周囲を警戒している。


 1人1人が白いオーラを放っているため、あたりが一気にまぶしくなったのだ。

 そして、消えたゴメスダは、別の場所で光に照らされて立っていた。


「くそっ! なんだこれはっ!」


 ゴメスダは突如現れた多数の勇者のうちの1人に斬りかかる。

 だが、切られたリアは最初からいなかったかのように消えた。


 そして他のリアたちが、一斉にゴメスダに攻撃する。

 逃げる隙間もない、全方位からの一斉攻撃。

 その無数の斬撃に、ゴメスダは跡形もなく消滅した。

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